いろいろ慌ただしくしているため、新規でまっっっっったく話が書けていない上に、購入したりいただいたりした本の感想も書けていないので日記がずっと止まっているし、更新もずっと止まっているのですが、ふと目についたので3年前に書いたホラーを供養代わりに追記に入れておきます。
戦国BASARA3の徳川家康と石田三成の話です。ゲスト出演伊達さん。転生もので後味激悪です。CPとかではなくて単純にホラーです。ホラーです。大事なことなので2回言った。
徳川さんがはじめから狂っているように見せかけて実は徳川さん以外の全員が狂っていてその狂気が加速していく、そんな話です。
単純明快にみなさん狂っているので心が寛大でSAN値に余裕のある方は追記からどうぞ。
その病深し
夢の中で何度も繰り返されるその言葉の意味を、ワシは計りかねている。
「隈」
短く言った‘同級生’はツイとワシの目の下を白く細い指でなぞった。
「寝ていないのか」
さらりとワシの顔面を撫でたその指は、いささかの疑いもなくそのまま下ろされてノートの端に置かれた。左手だった。右手は更々と数学の公式をそのノートに書き連ねている。器用なものだ。一瞬シャーペンが止まったが、それがワシを気に掛けてのことではなく単にその数式に疑問を覚えただけだと一目で分かるほどには、彼は数式に集中していた。
「寝てはいるんだけど」
「ふうん」
三成がどんなにノートをシャープペンシルでひっかいても、それは更々と流れる。ガリガリ紙を削るように書き付ける己との差が激しい。
「芯、何使ってるんだ」
「?…ああ、2H」
「堅くないか?」
「私は筆圧が強い」
「そうは見えないな」
「……薄いか?」
「いや、読めるよ」
ていうか2Hのシャーペンの芯ってどこで売ってるんだろう。HBしか見たことないぞ。少なくともワシの生活圏では売っていない気がする。
「どこで買うんだ」
「使うのか」
「使わないが」
「……教科書を買った書店」
「この学校の?」
「そうだ……ああ、駄目か」
ごく平凡な会話の果てに、三成はその2Hの堅牢なシャーペンで今までノートいっぱいに書き連ねられていた数式にバツ印を付けた。
「何の計算だ?授業でやってないだろ」
「揚力。伝わるか?」
「飛行機…?」
「それもあるな。蝶とか、蜂とか」
「失敗した?」
「失敗した。」
これでは飛ばない、と呟くようにそう続けて彼はパタンとノートを閉じた。生きている世界が違い過ぎる。ワシは数学が好きではない。数学部と剣道部を掛け持ちしていたらしい彼には多分生涯理解できない思考回路だろう。
「帰る」
「ああ」
軽く手を振ったら彼は薄らと笑った。
「毎日言っているが、言いたいことがあるなら言え」
「ないよ、何も」
「そうか」
*
先日、石田三成が転校してきた。
石田三成は前世のことを何一つ覚えていない。
性格は400年前に比して大変穏当になり、友も多い。
ワシはその友人の一人でしかなく、生来素直な彼は「友人」のことを心配するくらい当たり前にする。いや、これは400年前から何も変わらないか。
「何、買うの?」
「その目は何だ独眼竜」
「アンタ2Hとか使ったら腱鞘炎になるんじゃねえの」
ハタキ片手に大変面倒そうに言ってきた伊達政宗は風雅を愛する男であることに前世も今世も変わりがなく、特に字を書くことにはひどく気を遣う男だったなと思い出した。
「というかバイトってここだったのか」
「悪いか」
「独眼竜がバイトってひどく愉快だな」
「殴るぞ」
そういえばここ独眼竜の家のグループとか書いてあるな。家の会社の持ち物か。
「社会見学にバイトとは片倉殿らしい。それにしても系列店舗とは相変わらずの箱入り息子だな」
「オイ、小十郎じゃねえよ。殺すぞ」
「勘弁してくれ」
「……石田か」
「良く来る?」
「週に一度はそれを買っていく。あと数学の教書」
パタパタとワシを追い遣るように彼は文房具の棚にハタキを掛けていく。
「独眼竜レジするの?」
「たまに。あと経理処理やってると週一でそれが売れるから見てたんだよ」
「バイトが経理処理?」
「うちの会社のものだからな」
大学暇ならそれくらいやれと言われていると彼は続けた。
「誰に」
「母さん」
「だれ?」
「……あー…義姫サマ」
重ねて問えば少しためらってから政宗はそう言ってまたパタパタとハタキを掛け出した。
「じゃあ三成が来るのは好きじゃないんじゃないのか、お前も、御母上も」
「別に。豊臣が来るわけじゃねえし」
よっこいせと彼は踏み台を動かして隣の棚の一番上からまたハタキを掛ける。
「アンタ、少し気を付けた方が良い」
「なんで」
「『だれ』なんて野暮なこと訊くもんじゃねえよ」
「そうかな」
「あまり過去に囚われるなよ」
縛、と彼は静かに言った。
「縛」
「嫋」
「それは琵琶だ」
冗談は一言で両断された。ああ、政宗はあまり英語を話さなくなったなとふと思い至った。
「買うのか?」
「あー、止めておく」
「冷やかしなら他所でやれ」
ぴしゃりと言って彼はもう一度「縛」と呟いた。
「呪だな、まるで」
「シュ?」
「まじないのこと」
「縛というまじないがあるのか」
「ある」
ひどくひんやりとした双眸がワシを捉えた。両目のある独眼竜も10年くらいでやっと見慣れたな。
「アンタは自分にまじないを掛けてる」
「え?」
「お前が『トクガワイエヤス』であるというまじないを掛けてる」
「そうだろうか」
「オレの名を言ってみな」
「『伊達政宗』」
「ほら」
……性質の悪い男だ。
「一人相撲なら止めておけ」
ワシの目線は自然と彼の胸元に向く。エプロンにプリントされた社名に、伊達の文字はない。
彼はツイと片目を閉じた。
彼は片目を閉じることができる。彼には双眸がある。
ああ、彼の母にも会ったことがある。確か学校の清掃活動に保護者として来ていた時。
そう。義なんて古風な名前じゃなかった。
もちろん彼も、政宗なんて古風な名前じゃなかった。
「なあ、自分の名前を忘れるってどんな気分だ?トクガワイエヤス」
*
「転校する」
「いつ?」
「来週」
「どこに?」
「滋賀」
「遠いな」
「ああ」
三成はやはり今日の放課後も更々とノートに数字を書きながらふとそんなことを言った。転勤族らしいことは知っていたが、今生の彼はわりと友達作りが上手いから、これをここ以外で言ったらけっこうな騒ぎになるのではないだろうか。女子あたりが色紙を準備するパターンだ。
「言いたいことがあるなら言えと何度も言ったが、機会が無くなる。言え」
「ないよ、特に」
「夜は眠れているのか」
「夢にお前が出てくると言ったら驚くか?」
「いや。しかしそれは悪夢だな」
彼は小さく笑いながら言った。そのやわらかな笑みを、今生は誰もが見ることが出来るその絶望。
嗚呼。
秀吉公と、半兵衛殿と、刑部と、そうしてそれからワシしか見たことのないはずだった笑顔を、今生の彼は誰にでも見せる。
「バーゲンセールだな」
「私は安いか」
ふふふと三成は笑った。
「実は私も夢見が悪い」
「へえ」
「貴様が出てくる」
「……」
「貴様はひどく私に詫びるのだが、私には心当たりがないから適当に『許す』と言っているのだがな」
堪え切れないように彼は笑った。
「必死な貴様は見ていて存外楽しいがな」
「酷いなあ」
ああ、これもまじないなのだろうか。多分ワシらは同じ夢を見ている。
『許す』という言葉を、ずっと計りかねている。
許さないでほしい。
四百年の昔に、お前からすべてを奪ったその罪を。
「詫びたいことがあるのなら、今聴こう」
笑いながら三成は言った。だからワシはそれにつられるように言った。
「ワシを許すな、三成」
「ふふ…可笑しいな」
「何がだ?」
「俺は三成なんて名乗ったことないよ、 くん」
いつもと全く同じスピードで、しかしていつもと全く違う口調で三成は言った。三成?違う。彼はいつもこうしている。私などと名乗るのは放課後だけで、放課後はワシしか居なくて、ああ、では全て知っている?ああでは彼は全て覚えている?
……そんなの初めから分かっていた。
ああ、彼が呼んだワシの今生の姓は徳川ではない。
「家康」
「なんだ、三成」
「会えて良かった」
不意に彼は冷たく笑んだ。昏く笑んだ。
嗚呼、この笑みはワシしか知らない。
この笑みだけは、この昏く冷たい笑みだけは、やはり誰にも見せぬのだと思ったら、それは安堵でも絶望でもなくただただワシを苛んだ。
あの日、曇天の関ヶ原で死んだあの時と同じ笑み。
この笑みは、他の誰にも見せられはすまい。
「滋賀は良い所だ。一度来るといい」
「佐和山だろう。何度も行ったよ」
「そうだったな」
「上手く行ったか?」
「円周率の計算はもう飽いた」
パタンと彼はノートを閉じた。
「400年の昔話も、もう飽いた」
π = 3.14159265…………………
「死ぬるか」
「そうさな」
石田三成は、笑った。
*
それからいくらかの年月が経ったが、ワシは結局滋賀に行くことはなく、三成ともそれきり会ってはいない。
ただ、年に一度だけ区の図書館で滋賀のローカル新聞を閲覧するのが習慣になっていた。
それを始めた最初の年に佐和山のあたりで自殺者があったが、名前の記述はなかった。
それからも、ワシはずっとその新聞を毎年一年分まとめて読んでいるので、滋賀の実情には詳しいつもりだ。
我らの病は、ひどく深い。
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みんな狂ってる。
家康の狂気度が一番低いという驚きの内容(当社比)
SAN値削り要員が伊達さんの時点でいろいろ詰み。
この話で一番まともなこと言ってるのは実は家康。のつもり。
本文中にも明言はしていませんがこの後滋賀に行って三成は自殺します。転校してすぐというか転校したら家康がいたので帰って自殺しようというあれ。家康が滋賀のローカル新聞を年に一回だけネットで見るのは「あ、死ぬな」とは分かっているから。
だからといって何がしたいわけでもないのでだいたいそんなかんじ。
伊達さんはまあゲストだよね(開き直り)
2016/01/04
2019/04/14 掲載