萌えたというより燃えたので、その後の穴熊くんとあいちゃその話を追記に。
やっと正月のいろいろが終わったので、ジャンプラをまとめ読みしていたら訳のわからん読み切りの将棋漫画があって、ガチマンさんやべえなと思いながら棋譜を想像していたら「いや、これもしかしなくとも本気で考えてる?やだこの漫画こわい」となって昔取った杵柄ということで(本職は囲碁です)、そんな感じの穴熊くんの一人称な話を書いていました。
・穴熊くんの同門の先輩と師匠が捏造されている(名無しモブです)
・穴熊くんのプロとしてのスタンスが捏造されている(サーセン)
・あいちゃそがプロになります(普通に諸々やべえやつ)
これだけ書いてもヤバいことしか起こっていませんが、そんな穴熊×矢倉みたいな×みたいな+みたいなぼんやりした話を追記に。
追記:さすがにこのサイトでは需要なさすぎだろと思ったのでピクシブにも上げておきましたがピクシブでも需要があるか分からないので、気になった方はジャンプラで無料だから読んでみてね!!!
「誰が天才だ、バーカ」
悪態をついたら先輩にぽかっと叩かれた。
「お前が言うな」
ひどい話だ。
ぼくは天才なんかじゃない。
違う。
ここには天才なんか、いない。
環状線ミレニアム
パチと駒を指す音と、ぱちりと時計のボタンを押す音だけが支配する部屋は、あまりにも簡素だ。だけれどここではその音だけが世界を決める。その音だけが全てを決める。
A級だからなんだってんだ、と同じ門下の先輩から、「今日からA級だろ」と言われて発破をかける意味で朝に指した対局を思い出しながら、あの人の指す将棋の方がぶっちゃけ好きだ、というのが顔に出ないようにしながらぼくは相手が投了するまでの手数を考え始めていた。勝てる。これは勝てる。
A級の初戦がこれなら、きっと。
きっと、今朝師匠の下を離れて、大学に進学した先輩も納得してくれるんじゃないか、なんて思った。
どうでもいいことを思った。
「誰が天才だ、バーカ」
投了の声を聞いて、ぼくは小さく礼をして、感想に入る一瞬の隙に朝と同じことをつぶやいていた。
みんな、血を吐くような努力をして、そうして捨てられていくんだ。
天才なんか、いない。
ここは誰かを蹴落として、誰かに蹴落とされて、それでも生き残れる奴にしか居場所がない修羅場だ。
『オレはもういいかなって』
結局プロになることを諦めた先輩と指しているほうが楽しくたって、結局、結局みんな辞めていく。
そうしてぼくは、その一戦さえ血肉にするためにこの盤面を貪り尽くす。
そうやって出来上がったのが「天才」なら、そんな称号は、いらない。
*
アイドル、特に新人だったり、売れていない、これから売れるんじゃないかっていう、周りにまだ見つかっていない女の子が好きだ。だけどぼくのドルオタ趣味はそんなに軽いもんじゃない。
天才が、いると思っていた。
アイドルには本当の意味でプロがいる。そこにいるだけで美しいとかかわいいとか思えて、千とか万の観客一人一人、全員に「今自分のこと見た!」と思わせる才能を持っている人がいる。
だからだ。そうなる前の、新人のアイドル、そういうプロの段階に至っていない、ぼくと同じくらいの年齢の子たちは、その才能を磨くことに必死なんだと思ったら、ぼくはたちまちアイドルという職業に親近感を覚えた。
天才なんかいない。
握手一回のために、売上一枚のために、ステージ一回のために、すべてを捧げているんだと知ったとき、ぼくはアイドルを本当の意味で尊敬した。
尊敬?いや、同類相憐れんだと言うべきか。
一握りの「天才」になるために、あらゆるすべてを捨てる姿に、ぼくは自分を重ねていた。
だから、あの日の出来事は、ぼくにはたぶん一生理解できない出来事だった。
『お客様の中で詰将棋を作れる方いらっしゃいますかー!』
運営の人の声が聞こえて、プチっと脳内の回路が切れた。
「舐めてんじゃねえよ、オレたちを」
思わず地が出たその日は、たまたま推していたグループの新人発表の日で、その飯事に詰将棋をやるというそれは、アイドルも棋士も馬鹿にしていると思った。
だから飛び切り面倒なやつを一つ作って提供したら、その子はそれを解いてみせた。
「天才だ」
ステージを見つめながらぼくは思わずつぶやいた。
なんて、輝かしい。
アイドルにふさわしい可愛さを持っていて、愛嬌があって、そうしてその上、プロの作った詰め将棋を解いたときの笑顔。
天才は、いるんだ。
「天才、だ」
ぼろっと涙がこぼれた。ぼくは一生この子に敵わない。叶わない。血反吐を吐いて、上り詰めたぼくは、じゃあぼくは、この子に一生敵わない。
*
「え、それ本気で言ってます?」
「『将棋』が超強い『アイドル』なんだよ、あいちゃそは!!!」
「いや、もうアイドルじゃないけど」
「ぼくの中ではまだアイドルっていうか、『君に一生敵わない!!!』」
「曲タイトルみたいなノリで叫ぶな!!」
「はいはい、穴熊くんはそのノリを絶対会館で出さないでね。あと矢倉くんは明日から昇段するんだから収入的な意味でも安定するわけで、win-winの関係ということで、なるべくこう、穴熊くんの妹弟子~的な感じでうちの一門を売っていってほしい。元アイドルが華麗に転身!女流棋士が初昇段!なんと兄弟子が穴熊六段!いいね、すごく雑誌の依頼来てるよ」
「穴熊くんさあ、なんで自分の師匠ぶん殴ったことないの」
「え、経営戦略は大事だよ」
明日、あいちゃそはプロになる。アイドルを辞めて、奨励会に入って、めきめき頭角を現した彼女はやっぱりぼくの思った通り、プロになった。
あの日、たまたま持っていた将棋盤で将棋を指し始めた時に、ぼくの中の「将棋が強いアイドル矢倉相」は、本当の意味でぼくのアイドルになった。
「唯一のソフトをやりこんだ結果」
と彼女は言った。その言葉がぼくに突き刺さった。
将棋が楽しくなくなったのはいつだろう。
奨励会に入った日?プロになった日?A級に上がった日?
違うんだ。本当は違うんだ。
ぼくは将棋が死ぬほど好きで、君と将棋を指していると死ぬほど楽しくて、いや、死にたくはない。だって死ぬほど好きだった、「楽しい将棋」を君は思い出させてくれたんだ。
どの対局だって本当に楽しい。心底好きだ。だけれど、それが誰かの足かせになったとき、誰かを追い落としたとき、ぼくは小さな痛みを覚えた。
あの日、あの日だけじゃない。同門だろうと、違うところだろうと、同年代の、年上の、年下の、誰かがこの道を捨てていく。彼らが捨て去ったその道だから、誰かが這いずったその道だから、ぼくは「天才」と呼ばれることを絶対にやめられなくて、「天才」でいることだけが彼ら彼女らに返せるぼくのすべてだった。
だけど、あいちゃそと指した将棋でぼくは将棋を楽しむことを思い出した。いつか義務のようになっていたそれを、彼女は唯一のソフト、唯一の娯楽として極めて、楽しんで、そうして言った。
「7八成桂」
それは、ぼくのアイドル。千とか万の観衆の、一人一人が「自分を見ていた」と錯覚させるのがプロのアイドルなら、ぼく一人にしか伝わらない歌詞を叫んだあいちゃそはアイドルなんかに向いてやしない。だけど、君はぼくのアイドルだった。
「いやー、将棋もドル売りの時代ですな」
「絶対違うから」
「真顔で殴らないで!!!」
ま、ぼくだけのアイドルなんですけどね。
でもぼくは、それでもオレは棋士だから。
君が楽しさを取り戻させてくれたとしても、昼飯に毎度毎度五目チャーハンを淡々と頼むレベルのプロなんだよ。
「はーっ、でもタイトル戦とかお給金とかもうアイドル時代と全然違う。ほんとお母さん休ませられたの嬉しくて」
にこっと笑ったこの少女は、女流棋士で初めてプロになる。それはすなわち、女流タイトルを総なめにしたということだ。
油断なんてできない。
明日から、この棋士があのぱちりという音がすべてを支配する世界に殴りこんでくる。
「矢倉さん、オレは君を待っていた」
「え?」
天才なんて、いない。
そこには君が追い落とした誰かと、君を食らいつくそうとする誰かしかいない。
「君が天才だとしても、オレは君に負けたりしない」
「『ガチマンさん』は負けたじゃない?穴熊くん?」
挑発的な小悪魔アイドルの不敵な笑みに、ぼくは心底楽しくなって、あの日の棋譜を思い返した。
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たまたま将棋盤持ってたのめちゃくちゃウケる、と思いながら書きました。
タイトルはミレニアム囲いから。流行ったなーと思っていたんですが、最近また流行ってるみたいですね?
ところでこの二人は得意戦法が穴熊と矢倉でいいんでしょうか?じゃあ辞めた先輩の名前、振飛か居飛でいいかと一瞬思ったんですけどタイトルからして舐め切っていたのでさすがに辞めました。申し訳ありませんでした!!!(振り飛車一本の知り合いに土下座していくスタイル)
===真面目な感想===
あまりにひどかったので真面目な感想を追記。
相ちゃんほんとにアイドル向いてないのにさ、アイドルやるのが切なくて、お金稼ぐっていうその動機がなんていうか、そこからの64でやった将棋が好きだったんだなって思ったらほんとに切なくて。貧乏とかそういうんじゃないんですよ。相ちゃんは将棋が好きなんだよ!!って思ったら切なさがすごかったです。穴熊くんに勝てるくらい強いっていうよりも、穴熊くんに勝てるくらい将棋が好きなんだよ!だからいつも考えてしまうんだよって思って。
そう思った時に、プロの世界ってセミプロでも「楽しい」っていう部分はもちろんあるんですけど、穴熊くん的に言えば「プロは」遊べないんですよ。
だから相ちゃんと穴熊くんのあの毎週末の対局は、二人にとって「楽しい」将棋だったのかな、なんて思ったりして。
===ここまで真面目な感想===
いや、ここまで書いたけど穴熊くんそこまで深く物事考えてねえな!?