カラギナン

ブログ拍手などありがとうございます。
追記から型月の斎沖現パロ。書きかけというか一章目です。2万字くらいで収めたいですが、入院している間に書けるかな…暇だしな…頑張ります。

 

カラギナン

自販機に『あったかい』飲み物が並ぶようになって、私は冬を実感する。今年は秋から一気に冬になだれ込むような季節だった。

「早いですね、いろいろと」

ぼんやりと呟いて、小銭を入れようとしたら、スマートフォンがコツンと当てられた。

「早いもんだね、ほんとに」

そう背後から抱え込むような姿勢で声を掛けてきた男に驚く前に、この自販機は電子マネー対応でしたか、とそちらにばかり意識が行った。
その人が、流れるような動作で革手袋なんていうどうにも堅気には思えないそれでピッとココアのボタンを押したら、電子マネーの音らしい賑やかな決済音がして、ガコンと『あったかい』ココアが落ちてくる。
屈んで私の足の横からそれを取り出したその人は、ぴたりとそれを頬に当ててきた。

「どーぞ」
「今日はどういう御用件です?」

そのココアを受け取って言えば、彼はへらりと笑った。全く、これのどこがモテるんでしょうね。

「いい加減観念してよ」

無視してココアを開けて飲めば、へばりつく様に、纏わりつく様に、彼の声が耳に入る。

「増粘安定剤」
「硫酸を多く含む、なーんて酷いじゃない」

私の言葉を正確に理解した男が、革手袋越しに、唇に残っていたらしいココアを撫でて舐めた。

「お付き合いは堅気の方が良いですねぇってずっと言ってますが」

「それは無理なご相談、お嬢さん」

笑った男に一つ息を吐いて、ココアを飲む。甘ったるい液体が喉に絡まった。

「僕に気に入られたのが悪いんだよ?」

男は笑った。

カラギナン:増粘安定剤、硫酸を多く含む

はじまり

出会いは夏。大学生は夏休みなんてもんがあっていいですねぇ、なんて馬鹿みたいなことを考えながら部下が鉄パイプで殴ってなんか吐かせようとしてるのをぼんやりと見遣る。
濁った悲鳴を聞きながら、要所要所で出てくる言葉に、ああうん、だいたい分かった、と思って一言。

「はーい。もーいいよー」

その言葉に何を勘違いしたのかホッとしたような顔が見えた気がしたが、気のせいだろう。ドシャッと人が一人この世から消える音がして、僕は適当に煙草を吸った。

「帰ってくるって、誰がすか?」

今日処分した相手から引き出した情報を適当にまとめて上司の若頭というか土方さんに渡したら、「そういや帰ってくる」と彼がもう世間話の方向に舵を切って言ったから、とりあえず聞き返す。

「あー、おまえは会ったことないんだったな。よく考えたら頭痛くなってきた」
「自己完結止めてくれますか、ほんとに。関係ないなら女んとこ行きたいんですけど」
「大学、夏休みでな」
「え、土方さんの隠し子とか?」
「ぶん殴るぞ」

僕の軽口にそう言って、彼は紙切れを投げてよこした。

「沖田総司?」

誰だ、と口の中で呟いたのは、その男のような名前に比して、載せられた写真が明らかに女、それもまだ成人したかしないか、くらいだったことから来るものだった。
ついでに紙の上部を確認すれば、うちの組の幹部をまとめた紙資料で、今どき紙でまとめる上に、かなり上の方だと分かる。
もう一度よく見れば、役職名は空欄、役どころは……

「は?あの大学ですか?」
「まあな。夏休みまでに片を付けてこっちに戻るとよ」
「えーっと、理解が追い付かないので補足説明をいただけると」

本当に意味不明で問いかければ、土方さんは長くため息をついて言った。

「どこから説明したもんかな。そいつは近藤さんの養子でな」
「はぁ?お嬢様?とか?」
「それで済みゃぁ良かったんだが、もともと別のところで捕まってたんだよ、ま、端的に言えば親に借金の肩代わりに売られたんだな」

へー、壮絶ぅ、なんて軽口を叩いたら、ちょっとにらまれた。よくあることじゃあないですか、なんて思ったから。

「そんとき10くらいだったか。まあ小さすぎてなんもされてなかったが、そのせいで、というか」

そこで一旦土方さんは紫煙を吐いた。
それで僕は合点がいって彼の代わりに話を続ける。

「そーいや、この大学の理事長サンってうちの組がいろいろ狙ってるやつでしたよね」
「まあな」
「素人のくせに売春斡旋っていうか学生さん使って大層儲けてらっしゃる、でいいんでしたかね」
「そういうことになる」
「じゃーなんでお役所が手を出さないかって、裏にその筋のやつの下部組織がいて、泳がせてるからその前にこっちで片付けていろいろやろうって話だったような、違ったような」
「概ね合ってる」

僕の言葉に短く返すのみの土方さんに、大きく息をつく。

「夏休みも何も、その大学の理事長が半殺しで警察に引き渡されて大学は被害者多数過ぎてどうしようもねぇってニュースを見た気がするんですが、昨日」

女の部屋で、と続けたら、土方さんがもう一度盛大にため息をつく。

「安心しろ。その件で裏についてた連中の後始末は役所の仕事だし、そのおかげさんでこっちは少しいろいろと融通が利くようになった」

いや、ちっとも安心要素がないです、だって、つまるところ。

「この子がやったの?」

ぽつり、と呟いたら土方さんがまたため息をつく。

「その裏についてた組の下部組織っつーかそこな、元々そいつが売っ払われてたとこでな。『ちょーどいいから大学入ってきます』って言い出して、それでいろいろあって。あー、夏休みも何もねぇな。永倉が迎えに行ってる」
「はぁ!?永倉さんってことはこの子試衛館預かりっすか?」
「表向きはな。だからおまえは知らなかったし、『帰ってくる』って言っただろうが。永倉もこっちに戻る。試衛館の方は山南が適当にやるとよ」

試衛館と言えばうちの組の下部組織だ。設立は8年くらい前。下部組織なのになぜか古参幹部の出入りが激しくて、ついでに邸宅がでかいから無駄遣いだなーくらいに思っていたが。確か、試衛館の方もこちらに合流させて経営を云々という話があったと思うが、それなら山南さんが適任なのだろうし、そうだとすれば年末までにこちらにすべて統合されるだろうとそこまで考えを回してから、辿り着いた解を口にしてみる。

「もしかしなくても、試衛館ってこの子の」
「専用の邸みたいなもんだったな。近藤さんが馬鹿みたいに可愛がってるから、しゃーねえだろ」
「箱入り娘ェ……
「箱入りなワケあるかよ。箱入りだったら組一つ潰さねぇよ」

珍しく土方さんががしがしと髪をかき混ぜて、本気で困ったようにした。
そこに、軽く部屋のドアをノックする音がする。そうしてそれから土方さんの返答も待たずにいつも通り軽い口調の声が掛かる。

「ほいっと、帰りましたよ」
「あー、帰ってきたか。ご苦労」
「ほんとにご苦労なこってすよ。そーじったらまた可愛くなっちゃって」
「猛獣使い……
「いくら土方さんでもぶん殴りますよー」

にこにこと入ってきたのは案の定永倉さんで、一応僕より年上だし、というか幹部同士ではあるけれど、どう挨拶したもんかなと思っているうちに、彼は適当に椅子に座って手持無沙汰のように脚を組んだ。自由だな、相変わらず。それから今気が付いたというようにこちらを振り返る。いや、土方さんってか若頭の方見てくれませんかね、この状況だと。

「あ、斎藤。今日はこないだの……よく知らないけどなんか吐かせたんだっけ?お疲れー」
「はあ、ドウモ」

おざなりな、しかしかなりフランクかつ愛想のいいそれに、本当にこの人どうしてくれようと思いながら僕も適当に返す。そうしたら永倉さんはやっと土方さんの方を見た。

「ね、土方さん、聞いてくださいよー。帰りの車でさぁ、総司が大学のコンパ行った話聞いちゃって。情報とか言ってたけどほんとにもうさぁ。あんな可愛い子お持ち帰りされちゃうでしょ?俺が嫁にもらっていい?ていうかちょうだいってばぁ」
「聞き飽きたから近藤さんに聞け。あとまともな報告してくれ、頼むから」
「えー、近藤さんは絶対くれないじゃん。まあ、テキトーに報告しますってか詳細は一昨日うちのが報告書に書いた通りなんで」

僕の眼前で土方さんと永倉さんの意味不明な会話(まああの大学の件だろうけど)をしたところで、土方さんが永倉さんを真面目な目で見遣る。

「だから、沖田はどこで何やってるか聞いてんだよ」
「ああ、そっち。こっちの邸に戻したんで、とりあえず風呂入れましたけど。使ってる基礎化粧品とか聞きたい感じ?」
「ナガクラァ……
「じょーだんですってば。ちょっと怪我してたの書いてあったでしょ?ほんとに嫁入り前の女の子だってのに。風呂入れて、さっき傷塞がったのも確認したとこです。相変わらず土方さんだって過保護じゃん」

ため息のように永倉さんが言ったら、土方さんが机の内線を取る。ワンコールもしないうちに、彼はその受話器に声を入れた。

「沖田、ちょっと来い」

当たり前に返答は聞こえなかったが、土方さんはガチャンと内線を切った。

土方さんが電話をして5分もしないうちに部屋をノックする音がした。

「入れ」

 誰かと訊ねることもなく土方さんが言えば、「失礼します」と、この邸宅では殆ど聞くことのない、若い女の声がした。

「誰……?」

 入ってきたのは日本人離れした髪の色(自分も他人のことを言えないというのもあるが、地毛だとすぐに分かる程度には綺麗に調えられていた)の大学生くらいの「女の子」だった

「ああ、さっき言ってた沖田総司だ。こっちは斎藤」

 僕の言葉応じる様に土方さんが言って、それからこちらを指してその子に言えば、着物姿の彼女はスッと頭を下げた。

「沖田総司と申します。以後、お見知り置きを」

 凛とした声で言われて、どう返そうかと思っていると、永倉さんの明るい声が掛かる。

「そーじの方が偉いんだからいいのよー」

 そう言われてハッとする。そうだった、オヤジの娘さんなんだから、と思ったが彼女は首を振る。

「最年少の幹部の方と伺っていますから。私よりも組には大切かと」
「相変わらず堅いのねー。総司だってこないだ一個潰したじゃん」

 永倉さんがそう言うと、土方さんが盛大に溜息をついた。
「それが良いことだなんざ、俺は一言も言ってねぇよ」

 そうして彼女をじっと見る。思わず僕もまじまじと見てしまったが……つーかよく見ると美人ね?

「ケガは?」
「大したことありません」

 彼女の答えに、土方さんはやはり息をつく。

「永倉」
「あー、まあ山崎の見立てだと、痕、残るかもって」
「ハァァ」

 その永倉さんのバツの悪そうな答えに、土方さんは彼女をギッと見た。いや、怖いわ。泣くわ、僕なら。

「処分はご随意に」
「腕だったな、見せろ」

 土方さんが言うと、その子は特段のためらいもなくその桜色の着物の袖を捲った。

「うわ……

 思わず声が出てしまい、咄嗟に口を塞ぐが睨まれた。こわ、ちょっと土方さんより表情ないわ、この子。
 だって、そこにあったのは真っ白な陶の肌にザックリと赤い切り裂き傷。縫い跡が綺麗なのは山崎だろうからそれなりに治るだろうが、確かに痕は残るだろうと思われた。

「なにか」

 問われて思わず答えに詰まるが、一応ね、そこまで怖くもない……いや、怖いけど一応ね。

「君さぁ、女の子でしょ?オヤジの娘だって聞いてるけど、嫁入り前の娘さんが作る傷じゃあないとはじめちゃんは思いますよ?」

 そう言えば彼女はもう一度こちらを睨み付けてから、ふと首を傾げた。

「はじめちゃん……?」
「アレだ、斎藤一だから一ちゃんって自分のこと呼んじゃうあざとい男なのよ、そいつ」
「永倉さん……流石にそこまで言わんでください……

 それに彼女……沖田ちゃん?近藤じゃないのよね、さっきから聞いてる感じだと。永倉さんは名前で呼んでるみたいだけど、土方さんは沖田だし資料も近藤じゃなくて沖田になってたし。沖田ちゃんでいいか、彼女は一つ頷いてこちらをじっと見た。あ、可愛い顔してるじゃん。

「土方さんの処分に準じますが、一手仕合を」
「はい?」
「銃でもスタンガンでもお好きにお使いください」
「え……

 彼女の言葉に固まっていたら、土方さんがまた息をつく。

「総司……斎藤の言ってることなんかおかしいか?」
「おかしい、とまでは言いませんが、初対面でここまで言われる筋合いはなく」
「近藤さんにも叱られただろ」
「近藤さんと同じ様なことを言うのが癇に障ったと言い直しましょうか」

 そう沖田ちゃんが言ったら、「初めからそう言え」と言って土方さんは眉間に手を当てて天井を見た。

「どうする、サイトー?総司強いけどここで引いたらいろいろもう俺が責任取って嫁にもらうしかなくなるんだけども」
「どうしてそうなる……
「いや、僕もそれはちょっと分からんですけど、まー、言うこと聞かんお嬢様にはじゃじゃ馬ならしと行きますか」

 そう言って革手袋をはめ直したら、彼女は笑った。

✳︎

「なんでよ……

 結果として僕は銃を使い、沖田ちゃんは竹刀一本のまま、気が付いたら僕が稽古場の天井を見上げていた。

「弱いですね。幹部を辞めては?私から上申しましょうか?」
「いや、弾丸避けるとかないわ、あとこっちは真剣に使ってたのになんで竹刀が斬れないの、ズルしてるでしょ、ゼッタイ」
「斎藤さんが弱すぎるだけかと」


✳︎

「それがどうしてこうなるんです」
「え、うん」

僕より強い美人さんなんて興味が湧かない訳がないじゃない。そーいうわけで、永倉さんからお世話係を強奪
……間違えた。譲ってもらった次第である。

「よろしくねぇ、沖田ちゃん」


へらりと笑って言えば、彼女は大きくため息をついた。


「土方さんが」

「うん?」
「あなたはしつこいから永倉さんの方がマシに感じるだろうと」

あらまあ、ひどい。


「つれない事言わないでさぁ、ほら、新しい大学まで送るから、ね?」


そう言って、オヤジこと近藤さんが懇意にしている学長の、いやこれはこれでヤバいけど、本当は沖田ちゃんを入れる予定だった大学のキャンパスまで車で送る。車を走らせてしまえばさすがに逃げ場もないだろう。


「大学自体は夏休み明けからだけどキャンパス見学していいってさ、良かったね」


へらりと言えば睨まれた。


「初めからその予定で今日は夏のオープンキャンパスでしたので」

「でも、ほら新入生じゃないしさー」

いろいろ折り紙付きだし、なんて続けているうちにキャンパスが見えた。


「ここで結構です」

「はーい、あ。沖田ちゃん、ちょっと」
「はい?」

そう言って車から降りた彼女を手招きすれば、素直な沖田ちゃんは律儀に振り返るから、僕はーーー

「なっ!」
「気を付けて楽しんできてね?終わる頃迎えにくるから」

彼女の唇に触れるだけのキスをした。

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