我が君の手向けの駒を引き連れて行末遠きしる志あらはせ

遙3から無印エンド景望と九郎さん。html文書を書く気力がないのとエロなしだから追記に入れておきます。続き書いたらエロになるからその時はちゃんとサイトに入れますね。景望エロしかなくて本当にな。
タイトルの通り、景時さんが住吉大社に頼朝様の使者として代参した時に詠んだ歌から。
久々に遙やってさ、景時ルートで大号泣して、後日談の歌の話を見てまたボロボロ泣いて……景時さんも望美ちゃんも幸せになってねって気持ちしかない……。

「我が君の 手向けの駒を引き連れて 行末遠き しる志あらはせ」
私の主からの馬を連れて参りました。源氏の行く末は遠く、長いものとなりましょう。この源氏の世が続きますよう、どうぞその霊験を現していただけないでしょうか。(「吾妻鏡」梶原平三景時、住吉大社にて詠む)

 

「我が君の 手向けの駒を引き連れて 行末遠き しる志あらはせ」

「摂津?」
「ちょっと用事でね。用事というか仕事というか……すぐ戻るし大丈夫だから」

景時は夕餉の席で望美と朔、そして母にそう告げて、明日から少し出掛けると言った。

「政務は九郎と弁慶が。というかこの件も九郎からの仕事というか……まあそんな感じだからいつも通り家のことはよろしくね」

笑って言った景時に、望美はその笑顔のどこか何か遠くを見るようなそれに、ふと不安になった。
荼吉尼天を破り、景時が頼朝からこの京での生活を勝ち取ってから一年ほどが経つ。それは、景時と望美が祝言を挙げて一年ということにも、望美がこの世界で景時の隣にいることを選んで一年ということにもなり、その一年のうちで多くを知った望美には、その彼の笑顔がどこか何か、どうしても耐えがたく、思わず声を上げた。

「景時さん、それ、本当に九郎さんからのお仕事?」
「え?」

ぽかんとしたように返答した自身の夫に、望美は夕餉の膳を食べ切って、それから言う。

「言いたくないの?」
「そういう訳じゃないんだけど、望美ちゃんには相変わらず何でもバレちゃうな~」
「あ、兄上?」

そう気の抜けたように、それでも望美の言葉に肯定するように応じた兄に、朔が驚いて声を出せば、景時は緩く笑って言った。

「大した仕事じゃない。頼朝様から摂津の住吉大社まで行ってこいって言われただけだから」

そう言い置いて、彼は夕餉の席を立った。

「頼朝様からだなんて……ずっとなかったことなのに……」

不安げに言った朔に、望美は『明日早いし、今日はもう寝るから』と寝てしまった景時のことを話そうと朔の対に来ていた彼女は少しだけ暗い顔で息をつく。

「九郎さんも知っているなら、大丈夫だと思うんだけど……」
「そう、よね」

きっと自分よりも望美の方が心配している、と思った朔はどこか無理に笑って言った。

「住吉大社に参詣するだけでしょう?大丈夫よ、代参なのだから何もないわ、きっと」
「そうだよ、ね」

その言葉に、朔は少しだけ目を見開く。それは、兄を心配しているというよりは、何か、どこか覚ったような、どこか遠い言葉で笑みのように見えたからだった。

「景時さんは……うん、大丈夫」
「望美……?」

問い掛けは、上手く言葉にならなかった。

『我が君の 手向けの駒を引き連れて 行末遠き しる志あらはせ』

オレは結局、と景時はその摂津国の大社で一人思う。密告や暗殺ではない。そうではない。ただの代参で、そうしてそれは、結局、なんて思うことではないと知っていた。
その大社で詠んだ歌に、全てを込めたのだと思えば、九郎や弁慶、母や朔、そうして妻であり自身をこの泥沼から救い出してくれた望美の顔が浮かんだ。

「すべて、込めたんだ。だから」

京での平穏な生活。それはずっと望み続けた幸せ。何でもない日常。
自分には絶対に届かないと思っていたすべて。

「だから」

彼は小さく呟いて、そのままその京へ向けて踵を返した。

「戻ったよ」
「……景時。早かったな」

六波羅に戻った景時に、九郎は小さく息をついて声を掛ける。それは、兄である頼朝からの命をこなしてきた彼への申し訳なさと、それから何かあったのではないかという不安から来る感情だった。それを読み取ったように、景時はいつものようにへらりと笑う。

「九郎、そんな顔しないでよ。住吉大社に馬の奉納してきただけなんだから」
「だが……兄上の命は本当にそれだけなのか?俺も聞いているし文も読んだ。だが、それ以外の命もお前は受けていたのではないかと」

苦し気に言った九郎に、景時は緩く笑った。そうして、その二人しかいない執務室で九郎を見詰めた。やっと手に入れた平穏。やっと、言えると思いながら。

「ねえ、九郎」
「なんだ?」
「オレさ、九郎のことを友だと思ってる」
「……いきなりなんだ。当たり前だろう」

当たり前だと言ってくれる友と、その友を殺すことになるかもしれなかった自分と、そうしてこの参詣。そうして、この京での平穏。

「望美ちゃんからも疑われたけど、ほんとに今回の頼朝様からの御命令は住吉大社に馬を奉納するだけなんだよ、本当にさ。暗殺でも、密告でもない」
「景時……」
「もう、そんなことする必要をないように、望美ちゃんや九郎たちが戦ってくれた」
「違う!本当の意味で兄上を、政子様を止めたのはお前だろう、景時!」

叫ぶように言った九郎に、景時はやはりゆっくりと笑う。幸せだ、と思った。誰も殺さなくていい。誰も傷つかなくていい。誰も、何も、損なわれない当たり前の毎日があることが幸せだと思った。

「俺は!お前を友だと思っていた。だが、その一方でお前に何度も嫉妬した。笑うといい、兄上からの信頼を得ているお前が羨ましかった。なぜ俺ではなく景時なのだと何度も思った!だが、俺は、お前があんな命を受けて苦しんでいることなど一つも知らなかった。知らなかったのに友だと思い、あまつさえ羨んだ!笑え、こんな愚かな」
「九郎は愚かじゃない」

静かに響いた声に、九郎はぐっと唇を噛む。その姿に、景時は続けた。

「愚かなのはオレだよ。だけどさ」

その言葉に反駁しようとした九郎に、景時は続ける。

「だけど、それでも、九郎たちも、望美ちゃんも、オレといてくれる。こんなに愚かなオレと、居てくれる。だから、さ」

静かに、彼は言った。

「住吉大社で、歌を詠んだんだ」
「……歌?」

脈絡もないような、その言葉に九郎が首を傾げたそこで、彼は滔々と言った。

「我が君の 手向けの駒を引き連れて 行末遠き しる志あらはせ」

それに、九郎はハッとしたように目を見開いた。彼はそれでも、だから、だけれど、と頭の中を様々な感情が行き交う。

「それでもオレの主は頼朝様だった。頼朝様に逆らって、京での生活を手に入れて、九郎たちと一緒に過ごせて、望美ちゃんも隣にいてくれる。だけれど、それでも、オレの主は頼朝様で、源氏で、だから、だけど、この平穏がいつまでも続けばいいと、思った」
「かげ、とき……」

何を言えばいいのだろうとその彼の告白に九郎は気が付いたら涙を落としていた。何も知らぬままに友だと思い、共に戦い、そうして彼の苦悩を知らなかったのに、と思うのに、彼はそれでも一人闘い、自らのすべてを賭してこの平穏を手に入れてくれた。
すまなかったと言うべきだろうかと思い、それは違うと九郎は思った。

「ありがとう、景時」
「改まって言われると、照れるなぁ」

ふざけたように言った友に、九郎はいつまでも涙を落としていた。

「おかえりなさい」
「ただいま」

遅くなってしまったのに、湯浴みを終えれば部屋で当たり前のように待っていた望美に、一言そう返して、景時は彼女を抱き締めた。

「ねえ、景時さん。大丈夫だよ」
「……うん」
「朔も、九郎さんたちも、どこにも行かないよ」
「望美ちゃんも、居てくれる?」
「当たり前です。私は、景時さんの隣じゃなきゃ嫌だから、ここにいるの」

はっきりと答えてくれた望美に、縋るように、その存在を確かめるように景時はその体を強く抱き締める。
この平穏を手に入れる勇気をくれた、この平穏で隣にいてくれた、自身のただ一人の人を、抱き締めた。

「九郎にさ、言ったんだ。住吉大社で歌を詠んだって。この日々がずっと続けばいいと思って歌を詠んだって」
「うん」
「だけどね。オレには、神様に願うよりも、君がいる」

誰よりも大切で、誰よりも信じた神様のような少女は、今、自身の腕の中に居るのだと思いながら、彼は言った。

「平穏が欲しかった。幸せが欲しかった。オレは望んではいけないと思っていた。だけど、君が全部くれた。だから、今度は約束する。何度だって約束するよ、この幸せを、オレは絶対に守り抜いてみせる」

それは神に誓う言葉ではない。
最愛の人に誓う言葉だと、彼は知っていた。
最も恐れた、それでも自らの主君であった存在に逆らい、それでも手に入れたかったその少女。その勇気と愛をくれた少女に誓う言葉なのだと。

「ありがとうございます、景時さん。だから、私も約束します」
「うん」
「ずっと、一緒に居るから、景時さんは大丈夫だよ」

望美の言葉に、ぽたりぽたりと涙が落ちた。手に入れた平穏。願った、だけれど血に汚れた自分には許されないと思っていた日々。

「オレが信じるのは、神様なんかじゃない。君なんだ、望美ちゃん」
「私が信じているのも、景時さんだから、大丈夫ですよ」

優しく言った彼女を、彼はいつまでも抱き締めていた。

「我が君の 手向けの駒を引き連れて 行末遠き しる志あらはせ」
私の主からの馬を連れて参りました。源氏の行く末は遠く、長いものとなりましょう。この源氏の世が続きますよう、どうぞその霊験を現していただけないでしょうか。(「吾妻鏡」梶原平三景時)

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