蝶の夢

追記から景時×望美の京ED後で何となく梶原さんに自信がないいつもの話。最初の方に九郎と弁慶が出てきます。梶原さんの精神を抉っていく感じの話になってしまって、「邯鄲」に近いかなあと思ったけども、これはこの後ちゃんと祝言だの初夜だのエロだの書きたいなあと思っているから出来たところまでという感じで上げたのと、それからなんというか、何といえばいいのか…
本当にいろんな意味でDLCとボイスダウンロードしてから「いや、まだ恋人なのかよ」とか「梶原さんの部屋質素だな」とか「望美ちゃんの部屋可愛いな」とか「これは結婚してないと許されないだろ」とか色々思って書きました。何年前なんだって話なんですが色々再燃というかなんというか。
精神的に成長した方がいいよと思うけれど、ゲーム本編やるとリズ先生の次くらいには精神的に大人だからあの行動が許されるところあるよね兄上。

景時さんと望美ちゃんっていっつもスガシカオの「真夏の夜のユメ」の感じが強くて
「ボクは孤独でウソつき いつもユメばかり見てる」
とか
「君がやさしく笑った 遠い世界の出来事みたいに」
とかそういう感じで、でもこれも梶原さんの一方的なというよりは双方向でこういうどうにもならない感情がある気がするなあ、と。

「理解だと?理解とは概ね願望に基づくものだ」(「イノセンス」・荒巻大輔)

そんな感じで追記から景望。エロ部分などがしっかり書けたらHTMLにしてサイトに入れます。結局エロになるやつ。

「お前、まだ望美と祝言を挙げないのか?」

唐突、というつもりは九郎にはなかったが、九郎の言葉に書類を書いていた景時はふと目を上げる。

「え?急に何?どこ情報?」
「……兄上と政子様」
「うわぁ……九郎の口から二人の名前出てくると普通に怖いなぁ」

素直な感想を述べれば、呆れたように九郎は彼を見た。

「景時……流石に望美も朔殿も母君も心配するのではないか?」

特段おかしなことを言っている訳でもないだろう、というくらいの気持ちで、九郎は景時に問い掛ける。弁慶はまだ外から戻っていなかった。そう問いかけてみれば、景時がどこか遠くを見るように、それでも真っ直ぐに自分を見返してきて、また面倒なことを考えているのではないか、と付き合いの長い九郎は思った。

「……九郎はオレが意気地なしの情けない馬鹿だって知ってるくせに」

やはり彼の口から出てきた言葉はひどく感傷的で、そうして無意味な言葉に思えて、黒は大きく溜息をついた。

「……俺はお前をそんなふうに思ったことはない、景時」

きっぱりとそう返せば、景時は笑う。その笑みが、九郎にはどうしようもなく壊れかけているような、そんなふうに思えた。

「思っていいんだよ?」
「は?」
「意気地なしの馬鹿だって思って、軽蔑して、幻滅していいんだよ?」

言葉に、彼は景時を見詰め返したまま、ふと様々なことを考えながらも、その奇妙な、それでいて彼にとっては最大限考え尽くしたことなのだろうという思いを抱いて、それがひどくどこか何かに詰まるように思えた。

「……景時、そういうことは弁慶にでも頼め」
「九郎だから頼んでるんだけどなぁ。弁慶はなんていうかねぇ」
「微妙な優しさを俺に求めるな、馬鹿が」

自分で口にしながら『微妙な優しさ』というそのことを、九郎はぼんやりと思う。そうだ、これは厳しさや否定ではなく、優しさだと知っていた。
梶原景時という男を否定することが優しさなのだとすれば、それはどれほど彼にとって救いだったのだろうと九郎は思う。

「誰でも良い訳ではないだろう」

呟いてみれば、景時は笑った。

「そうだね。少なくとも望美ちゃんは否定してくれないから」

あんな結末になるのなら、否定してほしかったと彼は言うのだろうか、と九郎は考える。いや、結末は違ったかもしれない。屋島で、或いは壇ノ浦で。彼の真意を見抜いたからこそ、自分も景時も生きているのだと思ったのに、それを否定してほしかったのが景時だと知っているというのは驕りだろうか、と。

「お前は死にたかったのか、望美を殺すくらいなら」
「どうなんだろうね。まあそうなんだけどさ」

歯切れ悪くそう返して、景時はやはり笑う。

「あんなことしたくなかったよ。でも望美ちゃんには全部バレてて、そうしたらああするしかなかった。ほんとに自分でも笑えてくるけど、それで結局成し遂げたのが頼朝様に逆らうことって馬鹿みたいじゃない?今まで一度もやったことなかったのに」

苦笑して言った彼に、九郎はぼんやりと半年ほど前のその日々を思った。自分自身、何も知らなかったとしか言いようがない。兄の信を得ている景時に嫉妬したこともあった。だが。

「少なくとも今は平穏だ、ということでは駄目なのか」

自分で言ってみても、どこか何かが違うようなその言葉に彼は笑った。

「駄目ではないし、これが望んだものだったのも間違いない。だから、今が平穏ならそれでいいかなって思うのも間違いではないでしょ」

暗に、これ以上は望まない、と言った友に、九郎は息をつく。なぜ、彼の手からは幸せが零れ落ちるのだろうと思ったら、その何一つ知らないままに横にいた自分が遣る瀬無く、そうして同時に、誰も何も遮るものもないのに、幸せだからもういいと言える彼がひどく遣る瀬無かった。

「とどのつまりは景時が意気地なしということでしょう」
「弁慶?」

唐突に執務室に柔らかな声が響いて九郎が顔を上げれば、いつも通りに笑った弁慶が続けた。

「景時のお望み通りに微妙な優しさを与えてあげますが、それで君はいいかもしれませんが、望美さんはどうするんです?こちらに残って、君の隣にいるのに、君はそれで十分かもしれませんが、何もかも見抜いていた彼女にとってそれは幸いでしょうか?」
「……あのさぁ、幸せの価値観とか人それぞれだし、ちょーっとオレが求めてるのとは方向性が違うんだけど、弁慶?」

そう言ってきた景時に、弁慶はただ笑う。

「優しくするとは言いましたが、何も君の思い通りに優しくする必要もないでしょう?僕としては君を否定するより望美さんのことを考えた方が優しいかな、と」
「だから」

思わず言い募ろうとした景時に、彼は続けた。

「君に意気地がなくて、やる気がなくて、情けがなくて、思いやりもない状態で、それを指摘されたいのなら僕は九郎と違っていくらでも指摘しますがね、その状態でも当たり前のように君を信じて戦って、挙句の果てには元の世界を捨ててまで君の帰りを邸で待っている望美さんはどうなるんでしょうか?」
「そ、れは……」
「考え方が狭くなりすぎている気がするので言いますが、祝言を挙げるとか挙げないとか、室にするとかしないとか以前の問題として、景時は自分の範疇のことしか考えていないように思えますよ。それに付随する、いえ、付随という言い方も何か変な気がしますね、望美さんもそうですし、朔殿も、母君も、もっと言えば九郎も僕も、鎌倉殿やら政子殿のことも含めて考えてみてはどうです?君は自分がどうしようもないからどうでもいいと言ってるようにしか見えませんので」
「どうでもいいわけじゃ、ないけど……」

呟いた景時に、弁慶はにっこりと笑う。

「どうでも良くないなら望美さんにはヒノエの室にでもなっていただきましょうか?熊野も安泰ですね?」
「だから、そうじゃなくて!」

その一言に顔を上げて叫んだ景時にやはり彼は笑うままだった。

「何がそうではないのです?」

あくまでも景時の口から言わせようとしているのだ、と九郎も景時自身も察したその言葉は、確かに優しさかもしれず、そうして同時に厳しさとも違う彼らしい言葉だったように思えた。

「分かってるんだよ。ただ、これ以上大切なものを増やしたくない。これ以上持ちきれない。これ以上、彼女を不幸にしたくない」
「……お前が大切なものを増やし、それが望美だとすると、それによって望美が不幸になるのなら、それはお前の考え方の問題だろう」

景時の言葉に口を開いたのは九郎だった。そうして彼は、この話はもう終わりだと言うように、書類を捌く景時に言った。

「帰れ。今のお前は本当に役に立たん」
「あのさ」
「言い募りたいことがあるのなら、それは当人に言うんだな」

突き放すようなそれが欲しかった訳ではないと思ってから、景時はぼんやりと考える。

「誰かに求めるだけでは、意味がないか」
「分かっているなら尚の事、ですね」

全部が全部、とまでは言わないが、と景時は思う。

「もののはずみ、みたいなもんでしょ」

自身が武に秀でることも、学を修めることもなく、ただ茫洋と生きていくのを分かっていたから、父はこうしたのだろうと京にあったころのことを思い、そうしてその父が死ぬことによって、何の覚悟もないままに、ただの総領が梶原家の頭領になった、もののはずみのようなものだ、と今でも彼自身はそう思っている。

「怖い」

一言そう言葉にしてみてから、今でもまだ何一つ上手く出来ない、何もかもが零れ落ちていくようなその感覚に、彼は笑った。

「馬鹿だなあ、本当に」

誰が、誰に、何に、何を求めているのだろう、と。

「ただいまー」

気の抜けた声で言えば、ぱたぱたと門まで走ってくる音がした。馬やらなにやらは家人が連れて行った後だったが、そこに飛び込むようにやってきた望美は、それでも不思議そうに景時を見た。

「早かったですね、というかまだお昼過ぎですよ?」
「うん、九郎に帰れって言われた」
「……え?」

ぽかんとした望美に、彼はだけれどこれは、彼女と共にあることを望んだのは、「もののはずみ」ではなかった筈だ、と彼女の目を見詰めた。

「あのさ、今からオレに時間もらえないかな」

その彼の目に、どこか何か遠くを見るような目に、望美はぽつんと呟いた。

「いくらでも」

笑って、呟いた。

「大切なものを増やすのが、ただ怖かった」

景時の私室には、物が少ない。望美や朔の部屋のように鏡や几帳が必要な訳ではないからといえばそれまでだが、望美はその言葉を聞きながら、この人は、自分で自分を取り繕いながら、それでも本当に必要なもの以外を捨ててきた人だから、とぼんやり思った。
だから、彼の言葉をただ黙ってその物のない部屋で聞いていた。

「今でも何かの間違いなんじゃないかと思うくらいには、この家の頭領になったことも、頼朝様の御家人になったことも、九郎の軍奉行になったことも、そうして何より君がここにいてくれることも、何かの間違いなんじゃないかと今でも思う」

間違い、という言葉に何か言おうとして、だけれど彼女はやめた。たぶん、と思う。彼の中では思うだけではなく、そのすべてが間違いなのだろうと思ったからだった。

「間違いで、もののはずみで、ちょっとした手違い、みたいな感じかな」
「手違い……」
「うん」

呟いた望美を、景時は正面から抱き留める。彼女の目を見て話すのが、どうしようもなく怖かった。
そこにいると分かっているのに、その狭間から零れ落ちそうなほどに、何かの間違いだったというように、何もかもに実体がないように、感じられた。

「屋島で、君はオレが死のうとしたのを知っていた」
「……はい」
「あの時から、ずっと。なんでかなって今でも思うよ」

その言葉に、彼女は応えなかった。景時が死のうとしたことを知っていたことではないと知っていたからだった。彼の疑問は、彼女に投げかけられたものではなく、彼自身が梶原景時という存在に投げかけたものだと知っていたからだった。

「ねえ、馬鹿みたいなこと訊くけどさ、何でここにいるの?いてくれるの?」

彼女を抱き留めたまま問われたそれは、あの日もう逃げたいと言った時のように、縋るようなそれだと望美には思えた。そうして彼女は、自身のひどく浅薄で、傲岸な思いを思い出す。

「景時さんが望んだ平穏を一緒に見たかったって言ったじゃないですか。だからこの世界に残ったって。だけどね」
「……うん」
「私はそんなに綺麗じゃないんです」
「え?」
「景時さんが誰を殺していてもいい、何をしていてもいい。ただ生きていればそれでいいと思ったから、ここにいるの」

そう言われて、景時はふと腕の中の少女が言う言葉を、自分にはきっと理解できないのだろうと思った。根拠なんてない。ただ、彼女はどんなに汚い姿を見せても、言っても一緒に居てくれた。彼女自身に銃口を向けてさえ、信じてくれた。そこにあったのはなんだったのだろう、と思うと同時に、自分自身の望みでしかなく、自分の考えでしかなく、幸福も、不幸も、それ全てが自分だけの考えだとなぜか思った。

「もののはずみでも、手違いでも、何でもいいんです。景時さんが生きているなら、それでいいと思ったからここにいるんです。酷いでしょう?」

ゆっくりと腕から抜け出して、真っ直ぐに景時を見詰めて望美は言った。その目を見て、何を言えばいいのだろうとこの期に及んで彼は考えていた。

「あの後どうなるかなんて、考えてもみなかった。こんな平穏をつかみ取れるなんて想像もしてなかったんです、私。だけど、ただ景時さんが死ななければそれでいいと思ったの。だから、たぶん、間違ってるのは私の方」
「そんなこと……」

言い差した景時の頬に、望美の白い手が触れた。もう剣を取ることもこともない手が触れた。

「そんなことあるんです。私ね、景時さんが何を考えているかなんて本当は分からない。だけど、景時さんを喪いたくなかっただけなんです。間違っても、手違いでも、もののはずみでも、貴方を手に入れたかった」

手に入れられればそれで良かった、と続けた彼女に、彼は言葉を失っていた。
手に入れる?何を、誰を、どうやって?

「手に入れたのはオレの方、じゃないのかな」
「どうでしょうね、私はなんていうか……そうですね、神子だから」

笑って言った望美に、景時もふと笑う。どうしたって、もう敵わない、と。
自分自身が情けなかった。隣にいてくれるだけで良かった。否定してほしかった。
分かるなんて言わないで、助けないでと叫び出したかった。
あの時、死ぬことも逃げることも許さなかったこの女神に、魅入られていると知っていた。

「ねえ、妙なこと言ってもいい?」
「何ですか?」

その全部が、どちらが手に入れたのかも分からない程に、ぐちゃぐちゃに混ざって、どろどろに溶け合って、もうどこにも行けないような気さえして。

「何かの間違いでもいいから、結婚してくれないかな、なんて」

こんな話をしたかったのだろうか、と思ったのに、口から落ちた言葉に景時は自分自身に笑ってしまう。何か、どこか、どうしようもない程に。

「いいですよ、当たり前じゃないですか」

微笑んで望美は言った。そうして続ける。

「だって私は景時さんのものだし、景時さんは」

言葉に彼はもうきっと引き返せないと小さく思う。

「そうだね、オレは君のものだから」

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