昨日書いていたこれ
斎沖の話のメモ
書いたよ。斎藤さんも沖田さんもひたすら可哀想だけれど斎藤さんの方が可哀想度が高い話になりました。
なんていうか、設定から考えた話だからけっこうそのまま書いたので1時間くらいだからと思ったのですが、こういう話は書きたいと思っていたから好きな性癖だけが詰め込まれているな! と思います。
こういうしんどい二人からしか得られない、もしくは苦悩しているはじめちゃんからしか得られない栄養素は確かにあるんだよ、仕方ないね。マスターちゃんはおにちくしょうなんだ!(こう言っておけばなんでも許されるという悪しき風潮)
絶刀
「はぐれたねえ」
とりあえずは刀を振り回しながら言ってみたら、沖田ちゃんに怒られた。
「いいから手を動かす! マスターとマシュさんには卑弥呼さんと壱与さんがついていますから!」
「ハイハイ」
そう呟いてから視界が眩んだ。厄介すぎる。毒と火傷に呪いを撒き散らす大型のエネミーって、蘆屋さんじゃないんだから、と考えてから流石にあの人も毒だの火傷だのは撒き散らさない……よね? とぼんやり考えた。
「毒と火傷……それに呪いなら卑弥呼さんと壱与さんで対処できるでしょ。毒自体はマスターちゃんも大丈夫らしいし」
ぐらりと視界が歪む。ああそうか、これ違うわ。僕だけ受けてるのおかしいだろと思ってたけども、沖田ちゃんには弱体を弾く礼装がついてるんだった。どうも思考が回らないのはなんでだ? あんまりデバフが掛かり過ぎたか?
それにそうだ、これ僕に掛かってるんじゃない。このあたり一帯の空気が一面穢れている。なんだよここ。新しい方の邪馬台国かよ、お茶くれよ。とか考えていた時だった。
「十分ですね、ここで決めます」
「あ、一番隊隊長さん、下がった方がいい感じ?」
「出来れば」
そう言って刀を構えた沖田ちゃんは絶刀を使って宝具を撃つつもりなのだろう、とそのまま軽く半歩下がれば、発動したスキルはやはり絶刀だった。
「は?」
それは絶刀、病弱から強化されたはずのスキルだった。周りの気を集中させて、宝具を撃つための数値を集中させて、それで。
それで当たり前のように彼女はその剣撃で大型のエネミーを斬り殺してから、その場に膝をついた。
「おい、沖田! 何やってんだ!?」
「来ちゃ、駄目です」
血を吐いた沖田は、吐血したというよりも、全身がズタズタに切れていて、そのまま周囲が暗くなり、火傷の痕が見えた。
そうだ、先程彼女が絶刀を使った時に見えたのは、集まるはずのないもの。
そうして自分の腕や体を見て、思わず沖田に駆け寄っていた。
――傷がない。火傷も、毒も、呪いもない。
「何吸い取った!? おまえ実は馬鹿なの!?」
僕からも、周囲からも、沖田が全てを吸い上げて、そのまま使ったのだと分かった時には、膝を折り血を流す彼女の首筋に鬼神丸の柄を思い切り打ち当てて、沖田を背負い込んで走り出していた。まずい、血が止まらない、それに、火傷も呪いも毒も、何もかにもコイツの中に入ってる。
「下手したらってか、下手しなくても死ぬぞ!?」
*
「つまりどういうことなの」
「斎藤君、そういう責めるような言い方は……」
希臘の医者が言うことが一向に分からず、それどころか『珍しい症例だ!』とかなんとか言って数値を測定し始めたその狂っているような医者の神と、それから天才ことダ・ヴィンチちゃんが言う『霊基のバグでも霊核の異常でもないからどうしようもない』ということの意味が分からずにマスターちゃんとマシュちゃんに要約するように問えば、山南先生はやめるように言ってきた。だがそういう訳にもいかないので一応言っておく。
「すんませんね。でもさっきの医神さんの説明も意味が分かりませんし、今見ていても回復に向かっているようにも処置を施しているようにも見えないもんで」
「それは、そうなんだが……」
そう言って先生が視線を落とした先にいる沖田ちゃんの寝る寝台は悲惨すぎた。彼女は着物のままだったが、特段の治療をされるわけでもなく、傷も、毒も呪いも火傷もそのままに、ダラダラと血が流れ続けている。実際に着物も寝台も用を成しておらず、医務室の一画にベッドが置かれ、淡々と血だまりが出来ていくだけだった。
「アスクレピオスとダ・ヴィンチちゃんの言ってたことの繰り返しみたいになるけど、いい?」
「うん」
そう言えば、マスターちゃんは頷いて言った。
「簡単に言うと、沖田さんのスキルの絶刀が急速に変化した。強化された、というふうに解釈される形だったみたい」
「強化?」
僕の問にもう一度頷いて、彼は続ける。
「きっかけは分からないけれど、スターとNPを集めるスキルが急に強化された。そうしたら、周りからそれだけじゃなくて呪いとかのデバフ、既に受けていたダメージも吸収し始めた、というのが今の状態」
「そんなことが、強化になる訳ないだろって言ってんの」
小さく吐き捨てるように言って、もう一度沖田を見たが、相変わらずどろどろと流れる血にどうすることもできないというように困ったように、怯えたようにしているマスターと、それを問い詰めるようにしていた僕を遮るように割って入る声があった。
「詳しい説明は私がしよう」
そこに現れたのは疲れ切った顔の諸葛孔明……の姿ではない現代の魔術師、エルメロイⅡ世さんだった。
*
場所を変えよう、と短く言われて、沖田を見ていたかった、というよりもただ淡々と治療もされずに血を流しているのに、と言い募ろうとしたら、山南先生から「私が見ているから」と言われてしまった。気を遣わせたのが申し訳ないし、それにしたってあの時沖田と一緒にいたのは俺なんだ、と思い直してその提案を飲む。
「あー、そのすまん。ミス沖田の姿がどうとかではないんだが、あまり血みどろのところだと込み入った話がしにくいし、マスターとマシュはなんだかんだあっても君たちほど荒事に慣れている訳ではないからね。いや、私が若者に対して過保護だと言われればそれまでなんだが、場所を変えるべきだと思っただけで、彼女に対して他意はなかったのだが、不快に思ったなら謝罪する」
「いえ」
隣室のテーブルに着いてすぐにそう謝罪してきたエルメロイⅡ世さんにそう言われて、短く応えれば、彼は大きく溜息をついた。
「あの、エルメロイ先生、何が……」
「二世をつけろ……とか言っている場合ではないな。なんというか、ギリシャの医神殿はスキル変化という点において症例と言ったのだろうが、サーヴァントや魔術的な観点から言えば、今回のスキル強化も、現在のミス沖田への『治療』というか、放置に見えるがあの状態も説明がつく内容だ、という話を彼にしに来た。一番心労が掛かっていそうだったからな」
「え?」
ぽつんと呟いたら、苦虫を噛み潰したような顔でⅡ世さんはこちらを見た。
「今回起こったのは急速なスキルの変化、というのは聞いたと思う。そうしてこれは変化というより強化だ」
「それは、周りの呪いや傷を吸収するということでいいんですか?」
「そうなる。本来はターゲット集中に近いかもしれない、マシュのように周りをサポートして盾になるようなスキルで、もちろん保護や保険を掛けて使うスキルだったものが強化されて、攻撃だけでなく敵味方関係なく呪いやダメージを自分自身に集中させた」
「でも、元々沖田のスキルはそういうターゲットの集中スキルじゃないし、だから」
「そうだ、だから表現が難しいが、そういったことを含めて集中させることが強化された」
それを強化と呼ぶのか、と思ったが、その人は続ける。
「分かりやすい類似例だとフェイカーだな。周りの呪いを吸収するスキルがあるだろう?プリテンダーだが本来は彼女も古い魔術師だ。私もまあ知り合いだが……」
言葉を濁したⅡ世さんだったが、それにハッとしたように頷いたマスターたちに、記憶をつまぐる。こういう時に周りにはもっと関心を持たないと、と思いながら、あの魔術師だ、と思い至って呟いた。
「周りの呪いや傷を吸収することになんの意味があるんです?」
「現代において一般には意味がない、本当に。ただ、それが意味のある行為になることや時代、価値観もある」
そう言われて、古代の魔術師はあらゆる呪いを自身の身に引き受けることで主君を守ったのだと思い出す。そう思ったら視界が暗くなった。まさか、と言いたくもないことが口から零れた。
「まさか、死因?」
「……そうなると、それらを集めることがスキルの強化に必要になり、その結果として強化されたスキルが発動する。それで宝具が撃てる、と考えるのが普通だと思う」
こんなこと言いたくないが、と続けてからⅡ世さんは天井を見上げて、それから俺ではなくてマスターとマシュちゃんを振り返った。
「あのな、魔術師だのサーヴァントだのってのは狂った連中が多すぎるんだ。君たちのような一般人の理論は通用しない。出来れば私もそちらの一般人側に入れてほしいがね。だがこれで辻褄が合うだろう?」
「ですが、それが沖田さんを治療しない理由にはならないと思います!」
マシュちゃんの言葉は最もだったが、それについてもⅡ世さんが補足をしてくれた。
「だからな、こんなこと本当は言いたくないんだが、医神殿や技術顧問の言うようにリソースを入れても無意味どころかこうなるとその方が症状を悪化させる。なぜなら彼女は自分自身の強化というか、血肉にする感覚でダメージやデバフを吸収してスキルを強化した。そうなったらもう魔力は満杯なんだよ。だから令呪やリソースによる回復はそもそも損傷していない扱いなのだから効果がないし、治療を施す方が危険、ということになる。あとは余剰分を自然消費するしかない」
「え……?」
「だからだろう。血から呪いや火傷が抜けきるまでダラダラ流させて、そうしてそれから傷が塞がるはずだ。おそらくだがそれでスキルが切れれば傷の修復はオートだ。経過観察は必要だろうが」
溜息をついたⅡ世さんに、思わず頭を下げた。
「すみません、当たり散らすようなことをしました」
「いや、普通の反応だったと思う。あれはちょっと、なんというかひどすぎる」
「マスターちゃんにマシュちゃんもごめんね、だいたいさ、僕らがはぐれて、僕が沖田ちゃんの横にいたくせに、あいつがああなったのは僕の責任なのにね」
そう取り繕うように笑って言ったら、二人に何か言われそうになったから席を立った。こんな子供相手に自分があまりにも浅はかで子供じみているけれど、どうしようもない程に耐え切れなかったから。
*
ダラダラと流れる血は、ベッドの下に血だまりを作っていた。横に椅子を置いて、靴だのスラックスだのが血に濡れても構わず本を読んだり端末を見たりしていたら、山南先生や土方さんや新八が呆れたように遠巻きに見ているのは知っていたが、どうせ霊体化すればすぐ治る程度のことだから、と思って放っておいて沖田を見ている。
「死因。刀傷だの首だの腹だのはいくらでもいたよね。火傷もあった。人を呪うような死に方なんてのもいくらでも。毒もあったかもなあ」
ぽつぽつと言って、そういうのを集めてでも誰かを守ろうとしたのが沖田のスキルになっちまって、誠だとかなんとか言うのなら、それはあんまりだと思う。
「だからさ、逃げれば良かったんだよ」
みんな馬鹿しかいないじゃん。そんなひどい目にあってまで頑張って、新選組だのなんだのやって、結局は朝敵だとか言われて死んで。沖田なんかその名前もないままに病で死んで。
「馬鹿馬鹿しい。そんなのってない」
そう思いながらパシャ、と血だまりを踏んだら、緩く小さく瞼が動いた。
「あ」
カルデアに帰還して、傷という傷から血を流して、その呪いのような死因を流し続けてもう半日ほど経っただろうか、という夜中に小さく沖田が目を開ければ、言われていた通りにスキルが切れた扱いになったのか、そのまま血を流す傷が消えていった。
要するに、集めた死因を手放したから全て消えた、という意味になるのだろうか。
「あれ? なんだか、変な気が……」
「っ……!」
そう言って起き上がろうとしてもふらついて起き上がれなかったらしい沖田を、そのまま血みどろのベッドに縫い付けるように抱き締める。生きている、分かっていたけれど、生きている。
もうどこにも死因も死臭も、呪いも、傷も残っていないと確かめるように抱き締めれば、驚いたように身を固めてから、だけれど彼女は不思議なことを言った。
「ああ、斎藤さんですか。どこも痛くはありませんか?」
「え?」
「痛くないですか? 沖田さんがいますからね」
ああそうか。
まだ夢の中にいるのかもしれない。血を流し過ぎたから。
それが彼女の夢なのかもしれない。
「大丈夫だよ」
だからそう答えたら、彼女は笑った。ひどく柔らかくて、儚い笑みだった。
「斎藤さんも、皆さんも、沖田さんが守ってあげますからね」
そんなことを言わないでほしいのに、言わなくていいのに、と思いながら彼女の白い頬を撫でた。泣き出しそうなのを覚られないように、巧く笑えているだろうか、と思いながら。
*
その後、気が付いた巡回のネモ・ナースさんやナイチンゲールさんに沖田ちゃんも僕もすぐに風呂に放り込まれた。沖田ちゃんのメディカルチェックは当たり前なんだけど、『呪い等のデバフが流れている』ということが前提の血を浴びた、という扱いで僕もメディカルチェックを受けて、夜中の3時、そろそろ朝かなあ、という頃には解放してもらえた感じだった。
沖田ちゃんは霊基の数値も何もかも問題がなく、輸血と言ったか、血を注ぎ足す必要もないということで、それからスキルについても今回限りになる様に絶刀を調整しておいた、とダ・ヴィンチちゃんが言っていた、と伝言をもらったから、いったんは安心してもいいのだろう。
沖田ちゃんは経過観察と睡眠、ときつく言われていたのもあって、そのまま部屋に同伴することになり、今度こそ白いベッドで横にならせれば、すぐに睡魔がやってきたらしい。
「あー、寝なよ」
まだいろいろと理解の追い付いていないような状況だった彼女にそう言えば、ぼんやりと、先程の不思議な声とも違う、だけれどどこか柔らかな視線で沖田はこちらを見た。
「斎藤さんが、辛そうだったので」
「え?」
「マスターたちとはぐれちゃいましたし、呪いとか、毒とかいっぱいで。私は礼装があったから良かったですが……でも、私の方が先に死んじゃったんですよね」
「何言ってんの、やめなさいな」
そうはぐらかすように言ったのは、レイシフトであった出来事と、新選組時代の出来事が混ざっているような言葉だったからだ。まだ混乱しているのかな、と思う一方で、もう聞きたくないと駄々をこねるような思いもあった。
「もう辛いことや痛いことはありませんからね、沖田さんがいますから」
半分眠りかけの女が言った。やめてくれと叫び出したい声がのどに詰まった。
「大丈夫ですよ。今度は死んだりしません。置いていったりしませんから」
「やめろ、頼む、やめてくれ」
「沖田さんが、いますからね」
笑った女はそのまま目を閉じて眠ってしまった。その布団に思わず顔を伏せてしまい、その心音を聞いて、エーテルの身体でも生きてるのだと思うことでしか自分自身を保てない気がした。
「置いていったのは、俺の方だよ」
ごめんと小さく呟いたそれは、夜と朝の隙間に落ちていった。