永斎書いていました。元気があるようでないというか、そんな感じでずっと寝落ちしてたから久々に永斎書いたんですが、書けるものは書けるうちにって思ったので(奏章3やってて思った人)。
寝落ちし続けてメールなどすみません……。変なメッセージとか送ってないかなって本気で寝落ちした昨日思った(とつぜんのまきこみ)。
サイトの方に頂いているメッセージやコメントはお返事できていると思います。何かあればつつけば起きますので、コメント欄かメールなどからお願いします! 他力本願ですみません……。
永斎です。現パロ。新選組→カルデア→現代で全部記憶がある状態での現パロです。現パロって言うのかこれ?
カルデアのあとどうなるか分からないので早目に書こうかな、みたいに思って書いた。はんせいしていない。あと田舎はだいたいこういうもんだと思っているけれど田舎に対する多大なる勘違いかもしれない。どこもこんなもんじゃないの?(田舎とは?)
Aqua Timezの「MASK」を聴いていました。これけっこう永斎だけども永倉さんが言っているようで何だかんだ純粋なのは斎藤なんだよなあと思う。
https://www.uta-net.com/song/125438/
歌詞
これの歌詞と歌い方がね、とても。頑張ったけど届かなかったっていう新選組そのものに対するはじめちゃんっぽさがあって好きです。
『「曇らずに」』と『「嘘はつかずに」』のところがすごく永倉さんと見せかけて斎藤君なんだよこれ。絶対、永さんだけじゃなくて、副長にも、沖田さんにも、山南さんにも思ってるけど一番できないのが自分っていうぺしょぺしょになる案件。
追記
とてもどうでもいい追記ですが、この現パロの永倉さんはご実家と別に不仲でも何でもないです。むしろ仲は良好じゃないとキレ散らかして家出しそう。
永倉さんが斎藤を可愛い可愛いしているだけの話って書いていて健康になるなあって思います。そこに至るまで互いに血反吐はいてくれると私はより嬉しい。ごめんね、マスターちゃん鬼畜生みたいな性格してるからさ。
小春日和
「風邪っぽい」
呟いてからごろごろとベッドで転がる。喉がイガイガして、なんか咳が出る。
「っぽいっていうか、これ風邪」
分かるけども、と思いながら、どうしようかと思って天井を見た。町の住宅、住宅というか、アパート? アパートよりは戸建てに近いけれど、団地よりはアパートに近い。多様性、と言い掛けてから、ただ単に田舎なだけだ、と思い直す。
この町には当たり前だけれどもマンションなんてもんはない。高層住宅ってやつか? そんなもんない。いや、どっかの自治体に出来たとか聞いたけども、こんなとこに作っても誰もこないし、と思いながら自分のどこかしら臆病な部分が治っていないのを確信する。
何周しても、何度やっても、結局。
「結局失くすから、無駄だって分かった」
小さく言ったらひどく馬鹿馬鹿しくなった。
これで三回目の人生的なもので、僕の達観というには幼い感情はほとんど閾値どころか最低限の刺激さえも何もかにも不要になっているのかもしれない。
*
サーヴァントは退去。退去ってなんだよ、と思ったのはマスターとマシュちゃん、それに職員さんたちに申し訳なかったからだった。これから先、確かに死人の僕らはいたって意味がない。それは分かっているし、この『人理保障機関』とかいうふざけ切ったカルデアとかいうのも解体っていうのも分かる。
「ていうか碌な組織じゃなかったし」
ぼんやりそう言ってみてから、そうなんだけどもね、と呟いてみる。そうなんだけどもさ、だからってそりゃあないんじゃない、と思わないでもない。職員さんたちや所長さんはまあまあ魔術っていうの? そういうところに食い扶持があるのかもしれない。むしろ所長さんなんて、「一生こっちに来るな!」とか言い方は酷かったけど、マスターがもうこんなひでぇ界隈に関わらなくていいようにしようと頑張ってくれちゃってるみたいだし。根が善人なんだろうね……いや、根というか見るからに善人だけども。
「普通の人生かあ」
今更、と言い掛けて、今更かもしれないけれど、それを選べるのならそれでいいのではないか、と思えるだけの度量がまだ自分には残っていなかったことを思った。
だってこんなことに急に使われた復讐のひとつくらいしたっていいんじゃないの、くらいには思ってしまうのは、僕が相変わらずクソガキだからだろうか、と思いながら、退去の前にぶらぶらと散歩をしていたそのカルデアの中で不意に手を引かれた。
「あっぶね! って、おまえかよ」
「悪かったな」
平然とそう言った男の顔が眼前にあって、ずいぶんふらふらと歩いた結果、こんなところまで来ていたのか、と我に返った。あ、ここ、今更みたいにこんなとこ、と思っていたら、何もかにも分かっているようにそのまま引き寄せられて頭を抱えるように掴まれた。
「あ」
何だコレ、と思う間なんてないし、分かってもいた。
噛みつくように口付けられて、それからここは廊下だとか、ていうか他に誰かいたらどうすんだ、とか思ってから、ふらふら歩いてこんなとこ、新八の部屋の前まで歩いてきたのは僕の方だった、と思い出す。
「悪かったな」
そう言って唇を離してから、新八は同じことをもう一度言った。そうしてこちらを覗き込む青い瞳がずっと好きだったから、その意味が分かりたくなった。
「待たせた時間が長すぎた、いろいろと」
「うるさい、馬鹿」
そう言ったら着物姿だからか若い霊基の男はこちらを引き寄せてきた。身長なんて大して変わらないか僕の方がでかいのに、なんでこう、違うんだろう。年齢だろうか、それとももっと他のなにかだろうか。
「これでも結構嬉しかった。結構ってのも違うか。かなり、よりももっとだな。一生分の運かなんかを使い切ったくらいには、だ。ほんとにあの日、おまえにフラれた時には堪えたから」
「そ、れは……」
おまえが、と言おうとして、結局置いて行ったのはどちらだったのだろうとぼんやり思った。二度目なんて思いもしなかった。だって実際に明治になって再会しても何も間に合わなかった。いや、もっと前から、浪士組に、新選組にいたころから、何度も無意味に身体を重ねても何も分からなかった。
無意味だと、思っていた。思いたかった。
そうでなければ、あの日捨てられた自分が、あの日新八を選ばなかった自分が、本当の意味で無為になってしまう気がした。
「じゃあ僕は、自分を正当化するためにおまえを選ばなかったのか」
「は?」
最後の最後にこんなことを言うから可愛くもない、と思いながら、だってもう退去するしかないんだから、と思って、やっと互いの思いが分かって、やっと新八に追いつけて、やっと気持ちが分かったからと言葉にしようとしたことが、こんなに最後に出てきたのは、だけれど。
「怖かった、好きだった、愛してた。嬉しかった、悲しかった、辛かった」
子供のように、ただその感情を連ねる僕を、その男はただ抱き留めていた。そういうところが好きで嫌いなんだと何度言えば分かるんだ、と駄々をこねるように思った。
「だけど、今は、今度こそ本当に僕が選んだのに、またいなくなるのかよ」
もしかしたら、ここで新八を選んだのも、好きだと、愛しているということさえも、自分自身の正当化だとしても。
「好きだよ、本当に。愛してる。好きだった、じゃない。好きだよ、新八」
最後くらい笑えばいいのかな、と思って笑ってみたら、目許をなぞられて、泣いているのに気が付いた。もうきっと、会えないと知っていた。こんなふうなら、会えない方が良かった、なんて思わないけれど。
あの日振り切った手が、今こうやって触れる温度が分かるなら、きっと。
「なあ斎藤」
「なに」
言いたいことだけ言って、泣きたいだけ泣いて、だけれどもうすぐ、あと10分もすれば退去だからいいだろ、と思いながらワガママみたいに言った僕に彼は笑って手を伸ばす。目許に触れていた手が、そのまま唇に触れた。からかうように、遊ぶように、そうして男は言う。
「悪かったな」
それは今日だけでもう三度目なのに、その中で一番凶暴で、獰猛な笑みの中で言われた言葉。
「は?」
「悪かった。俺はおまえが思ってるよりもしつこいし、案外手癖が悪いんだ」
言葉の意味が分からないままに、その男の笑みが脳裏に焼き付いた。そこでカルデアでの記憶は途切れている。
*
「あー、だる」
ダルいんじゃなくてね、怠いの、と誰に言うともなく言い訳する。本当に体調悪いんですよ、と。今日は土曜だから職場は休みなのだが、と思ってそれから地方公務員、もっというと地方の町役場勤務って何だかんだ言ってもブラックではないけども、世間一般で思われているほど『公務員』って感じじゃない、本当に。と、やはり誰に言うともなく考えた。
「週休二日はいいけどさぁ……町に住むのはほぼ義務というか採用条件に入ってるし……財政云々の時期は一ヶ月は毎日残業で深夜0時回りますしね! 地域のお祭りとか飲み会入ってなくて良かった!」
思ったほど楽じゃない、のは分かっているんだけども、それでも適正な職種ではあると思う、と同時に、だから、だけどここに来たんだろ、と思った。
「こんなとこ、誰もいないし」
あー、そういや、会津も斗南も雪降ったなあ。カルデアも雪降るとこにあったらしいし、僕が行った時には世界が真っ白だったしさ。
「ここも雪降るしなあ」
あんまり考えもしないで、東京の大学出たら地方の町役場に勤めるから、とだけ言って転籍届出して、引っ越して、そのまま移住して。一年目の冬に雪が降っていろいろ懐かしくなった。
同時に、自分には新選組の頃も、カルデアの頃も記憶があるのに、座なんてところに還れなくてこうやって現代でまた警察じゃないけども地方公務員やってるのがあまりにも似合っていて、雪を眺めながらふと笑って今年も秋の終わり、冬の入り口で……
「そんな感傷は良いんだけども、風邪だねコレ……」
あー、咳出る。こういうのって沖田ちゃんとか高杉でしょ? 僕喘息もない健康優良児なんですけども! と昔の知り合いを引き合いに出しながらゴロゴロベッドで転がる。
「病院しかないよね、そうだよね、町立病院があるだけ死なないで済むけども……」
市販薬で済まそうかとも思ったけれども、何となくそういう気にもなれなかったのは思った以上に怠いからだった。なんかこれ、ちゃんと診てもらった方がいい気がするって思うような体調不良って真面目に久しぶりかもしれない。そう思いながら、いつまでもゴロゴロしている訳にはいかない、と、とりあえず起き上がってシャワーを浴びたらクソ寒い。ヤバい、熱高いかもしれない。着替えてそれから病院の診察券を引っ張り出し、保険証と車の鍵を確認して、重い身体を引き摺って部屋から出た。
*
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ですよ~」
「大丈夫に見えないんだけども……予算組むの深夜までやり過ぎなんじゃ? まだ10月でそれって年度末本格的に死なない?」
「何言ってんですか?」
「いや、君が何言ってんだよ」
土曜日の午前中も開けている町立病院は閑散としていた。それはそうだろう。毎日やっているけれども、今日は内科しかないというか、そもそも普段から町内の先生が一人くらいしかいない。あとは当直含めて大きな自治体頼りの外部委託で、これだって実質休日当番医みたいなもんだ、と思いながら診察券と保険証を出したら、受付というか病院事務を委託している会社も休みだから受付担当で休日出勤の役場の上司……福祉課の係長から言われた。
こんなことまで役場職員がやらなきゃならないのだからこのくらいの規模の町なんだし、と思ったが、だんだん思考がぼんやりしてくる。あ、ヤバい、受付して、あと血圧って自分で測るんだっけ? あれ、あんま来ないからおぼえ、て、な、く、て……?
「あ? なにこれ? なんですこれ? 死にかけてません?」
「あ、■■君! じゃなくて先生! うちの職員なんだけども彼、典型的なワーカホリックで! っていうか待って!? ちょっと待て、頭打つなよ!? 斎藤君倒れてる、倒れてるってば!」
そう、係長の叫び声と、なんかその前に聞き慣れたムカつく声がして、そのままなんか白衣着た医者? 医者だよな? まあ寄っ掛かってもいいか、こいつなら。なんでかそう思ってそのままそっちに倒れたら、抱き留められた。まあ、ここ病院だし、いいんじゃ、ねえの? 知らね、そもそも、コイツ、が、悪いんだから。
「クソガキ」
そうしたら小さな呟きが聞こえて、そのまま意識が暗転した。
*
「……?」
「気ィついたか?」
「……どこ?」
殊更に幼い声で言われて呆れ果てるより先に可愛くなった。どこ、か。
「すげぇ可愛い」
「?」
熱が高いのもあるのだろうが、意識がはっきりしない、まではいかないが、それなりに寝ていたのもあるのだろう。ぼんやりしていたままで天井を見上げていた斎藤がこちらをじっと見て不思議そうにしてから、少し考えるようにして驚いたように飛び起きようとしたからその肩を軽く押したら、そのままベッドに戻っていったから本当に体調不良なんだなあ、と当たり前のことを当たり前のように思った。
「な、んで!? なんでおまえここいんの!? ていうかここどこ!? 僕の部屋じゃないっていうか、病院!? 病院いたよね僕!?」
混乱の極みという感じの斎藤の質問に一つずつ答えていくことにしながら、それでも口を挟まれるのは面倒なのでとりあえずベッドに固定するように軽く押して、圧し掛かるまではしないがその横に座って肩に手を載せたら驚いたように動きを止めた『斎藤一』に話をしていく。こうしてやると“いつも通り”大人しいもんだな。
「なんでってのはおまえが病院に来た時にいた医者が俺だったから。いたっていうか今年度から常勤なんだけども知らなかったんだな、薄情者」
「は……?」
まあ、俺も気づいてなさそうだしあえては接触しなかったのは意地が悪かったかもしれないけども。
「で、おまえが受付で盛大にぶっ倒れた時に通りかかったからそのまま診察して、俺の見立てとしては典型的な『風邪』。ウィルス名とかまではまあいいとして、呼吸器疾患っていうかそういうのだな。発熱もあるし、飯食ってなかったろ? 抗生剤まではいらんと思ったが、生理食塩水とか点滴もせざるを得ないくらいには衰弱っていうか、単純明快に脱水症状起こしてたぞ、おまえ」
「あ、の……?」
混乱したようにこちらを見ている斎藤に構わず続ける。
「そんで、受付してた福祉課の係長さんは入院させて見張っといてくれって言うんだけども、そもそもそんな理由の病床空いてねえし、病棟の方の当直、今日俺じゃねぇからそのまま連れ帰ったんでここは俺の部屋ってか家。町内だぞ?」
「うそ……」
なんで嘘つかなきゃならないんだよ、と思ったら笑えてきた。同時に、合法的に自分のとこに斎藤を連れ帰ったと思ったら別の笑いも落ちてくる。本当に、可愛い。
「おまえ相変わらずだなあ……。出納にいるのは有能だからだろうが、予算の時期でもそうでなくても休みも取らずに残業しかしてないってアホか」
「は?」
「係長さんが出納ってか総務課の課長さんに電話して確認したら、おまえ夏季休暇も消費してねえって、こういう職場だとかえって周りに迷惑掛かる案件だからな。10月だから規定で今月まで取れるから、来週休んでいいってよ。何日だっけ、夏季のアレ」
まだ言われている意味が分からず不思議そうに、それでも焦ったようにしている斎藤の額を撫でてやったら、まだ熱っぽいそこに触れていた手に、そろそろと布団から出した手が触れた。
「あ、の……」
「なんだ」
短く訊いたら、目許に涙が溜まっているように見えた。いつかのように。
そこに触れようとするよりも先に、斎藤が泣きながら言った。
「しんぱち?」
「おう」
応えたら、今度こそ声を上げて泣き出した大切な存在を抱き留める。泣きながら、それでも確かにしがみつくように、確かに抱き締め返してくれたその温度を確かめるように。
*
なんで泣いているんだろうとか、もう分からない。分からないけれど泣くしかできないのはどうしてだろう。悲しいわけじゃない。ただ、そこにいるのが『永倉新八』だと思ったら、その姿形だけでなく、その記憶も、記録も、そうしてきっと共有できた感情も持っているなら、きっと持っているから、こうして受け止めてくれるのだと思ったら、どうしても嗚咽が止まらなくて、そのまま新八に抱えられるようにして泣いていたら、ずっと抱えていてくれた新八が笑う声がした。その声さえ懐かしいのに、ずっと、ずっと。
「待たせて悪かった。時間かかったから」
「ご、めん」
「おまえが謝る事じゃないっていうか、あんま泣くな。可愛いけど」
ストレートに言ってきた新八にポスっと頭を撫でられて、それから目許や唇に口付けられる。泣いているから、と思うのと同時に焦ってしまう。
「うつる、風邪」
「別にいいだろ」
医者だと言っていたのにそうだけ言ってあやすようにそう言ってそうしてまた僕をベッドに戻した新八は笑う。
「別にいいだろ。可愛がりたいだけなんだから」
「っ……そういう、こと今言うか?」
「今更?」
そう言って新八は人の悪い顔で笑うが、この顔のどこが人好きがするとか、頼りがいがあるとか言えるんだ、マスターちゃんにしろ、誰にしろ、と古い記憶で思ってそれから目許を撫でられた。寝ろ、ということなんだろうと思ったが、分からないことが多すぎてふとその手に触れたら少しだけ困ったように、だけれどやはり笑って言われた。
「あー、うん。なんてーの、前世の前世か。あん時けっこういいとこ婿入りしたのにサボってたからカルデアでは結構希臘の医者とか、ナイチンゲール女史から基礎的なことは聞いてたんだよ、医学。世辞だろうが覚えも悪くはないとも言われたんで、記憶もあったし、生まれた家もまあまあの相性だったし有効活用するかと思った」
「……?」
「ま、現代じゃだいぶ違うけどな。基礎的な部分から違うから一からやり直しだから苦労はしたが……で、大学病院で研修医やったり、そのまま実地やりつつ学位も取ったりして今年から帰ってきた感じ」
「帰って、きた?」
なんか眠くなってきた。そうだ、熱あるし、新八が言う通り体調悪いのは、そうだから病院行ったんだし。もっと話したいこといっぱいあるし、聞きたいことあるのに。寝たらもったいない、のに。そう思っていたのに新八に目許を撫でられたら眠くて、安心しちまって、だけど。
「眠いなら寝とけ」
「ん、でも……」
「ああ、斎藤は東京かどっかから来たんだっけ? 町立って名ばかりだよなあ」
なにそれ? 名ばかり? あれ、『ナガクラ院長が非常勤になるための病院給与について』……なんの書類だっけ? どっかで見た。あ、そっか年度末に病院から上がってきた予算関連の?
「ながくら?」
「永倉。俺の苗字だけど?」
揶揄うように、いたずらが見つかったように、新八は笑う。
あれ? 永倉って、この町に一軒しかなくて、で、医者の家系、家系で決まるもんじゃないけども、そういうのって思った記憶があって、だけど、だから……。
「寝てろ。明日な」
そう言われて目許を撫でられたら今度こそ本当に意識が落ちていった。ゆっくりと、沈むように。だけれどどこも冷たくない。
*
「おはよ。なんか食うか? っていうか食え」
次の日目が覚めたら、体はだいぶ楽になっていた。枕元には当たり前のように新八がいて、そうして目を覚ましたらすぐにそう言われた。
「うどんでいいか。ちょっと待ってろ」
「新八、ちょっと待て、作るから!」
「何言ってんだおまえ。まだ状況分かってねえだろ? ここ俺の家だから台所使えねぇってかまだ寝てろ。風呂入る時は言えよ、倒れると悪ぃから」
そう言って寝てろとまた額に触れて部屋から出ていった新八の背中を呆然と見つめる。何がどうしてこうなった。というか本当に一晩、目も覚まさずに寝ていたのは良いんだけども、いや、良くはない……? え、新八なら別に良いのか? なにこれこわい。
そうぼんやり考えていたらいつの間にかかなりの時間が経っていたらしく新八が部屋に戻ってきて、そこには当たり前のように二膳分のちゃんとしたうどんがあった。うどん……?
「新八が作ったのか?」
「は? 学生時代も勤務医の時も一人暮らし長いってかここでも一人暮らしだし、飯くらい作れるけど? ああ、でもミスった」
そう言って僕の疑問に答えながらそれをサイドボードに置いて割り箸を渡してきた新八は少し苦い顔をした。え? ミス?
「食わせるなら粥にすれば良かった。具いっぱい入れるかとか思ってうどんにしちまったんだよなあ。食わせたら絶対可愛いのに」
「うるさい!」
意味不明なこと言うな! とだけ言って、僕はそのうどんをもらうことにした。
*
「あの、今更だけども、新八って永倉院長の息子……?」
「おう。つーかこの町出身。まあ医者だのなんだのってのは家系で決まらんのが普通だが、こういう田舎だと一軒あると役に立つんだよ、医者も神社も寺も、その家にやらせときゃ問題ないみてーな家があると便利」
そう田舎特有というか、田舎あるあるなのだろうが現代的にはどうなのだろう、ということをさらりと言った新八に、なんかいろんなものが遠ざかるような、意識とか、と思いながらうどんを食べていたら彼は続けた。
「兄貴も医者なんだけども……前の時はさらっと死んでたから知らなかったが、というか同じ人間か知らんけどもだいぶ人格破綻……マッドサイエンティストの脳外科医でな。県庁所在地の大学病院で手術ばっかやってるから俺がこっち来た。あのバカ兄貴症例によっては県外にも行くし……。俺は外科ではあるけど内科もちゃんと診るから便利に育ったとは師長さんから言われた」
「べ、便利って……あ、帰ってきたっていうか師長さんとか福祉課の係長とも知り合いっぽかったけども、住んでるってでも、ここ独り暮らし……? あれ?」
「ああ、それか? 兄貴結婚してるし。義姉さんも医者なんだよ、兄貴よりずっとまともな人だけども。ただ勤め先が県庁所在地だからほぼいないくせに家から通ってることになってて、俺は実家から追い出された。『新婚の邪魔するな、だが親父の病院は頼んだ』って……こっち帰るって連絡入れたら呆れてモノ言えなかったけど、好都合だったな」
そ、そういうもんなのか? 何だかんだ言っても僕は逃げるみたいに……みたいというか、本当に。東京とか、関東とか、そういうところにいたくなくて、人の大勢いるところが嫌だってだけで、大学出たら逃げるみたいに戸籍まで移して移住して、田舎の町役場に就職したんだからこっちの事情なんて知りもしないのは当たり前だけれど。
ひとの多いところにいたら、何かの間違いで座に還れなかった自分のようなヤツと会ってしまうかもしれないと思ったら怖かった。
相手に自分と同じようにずっと記憶があるかも分からない。だんだん、こうやって全部覚えているのにこうして人間として生きている自分がおかしいのだと思うようになってきたら、その恐怖はどんどん膨らんだ。
『やっぱりあそこで終わりだったのに』
もうゆっくり休みたかったのかもしれない。
もう出会いたくなかったのかもしれない。
嘘じゃない。もう一度会えたことも、やっと思いを伝えられたことも、何の呵責もなく、取引でも、憐憫でもなく体を重ねたことも嘘じゃないと知っているのに怖かった。
全部嘘だと言われれば、それは嘘だったのだろうと思うしかないから。
そう思うことしか、できないから。
そう思って、いたのに。
「だが、これから町に戻って病院勤めりゃ時間も出来るし、どうやって探しに行くかと思ってるうちに、気が付いたら網に掛かって待ってたんだから、やっぱり斎藤はいい子だな」
可愛い良い子だ、と言われて撫でられた。
「何、言って?」
「何って? 俺が言わなくても俺のところに帰って来るんだからいい子だろ? 少しくらい悪い子でも気にしねえけど、斎藤は可愛いから」
え、ちょっと待て。僕就職先間違えた? 間違えてはいないけども、何ですかね、これ。逃げようとした結果、虎穴に入ってません? いや、逃げようとしたわけじゃないんだけども。ていうかなんで、なにこれ、え?
「悪かった。俺はおまえが思ってるよりもしつこいし、案外手癖が悪いんだ」
「は?」
昔、あのカルデアで別れる時に言われた言葉を、あの時の笑顔のままで言われた。意味が分からず聞き返せば、新八は笑顔のままで続ける。
「座に還るとか、人間だとか、日本だとか海外だとか、そういう帳簿、あの時もう見てたんだよ。だからおまえが思ってるより俺は手癖が悪い」
え、そんなもの見れたの? あ、だから所長さんなんかマスターちゃんが帰った時の場所に配置がどうこう、いろいろ調整がどうこうってダ・ヴィンチちゃんと?
「そんで一回フラれて、カルデアでやっと手に入れたのに、それをまたカルデアで勤務終了だから手離せるほど俺はあっさりしてない。おまえが思ってるより俺はしつこい」
それしつこいって限度越えてない? 医師免許ってしつこいの範囲超えてるよね?
言葉にならない声が脳内で空転しているうちに、空になったうどんの器を下げられて、そのまま口許を撫でられて気が付いた。あ、これキスする時の合図だ、と思ったら、何も変わっていないのがかえって、嬉しいような、気がして。
「んっ」
「閉じんなよ。まあいいけど」
だけれど反射的に唇を閉じたら、それが重なるだけでなく舌先でなぞられて思わずやっぱりこいつ深いやつする気だった!? と今更のように離れたそれに思ったらふにふにとまた唇を指で撫でられる。
「飯食ったし薬。昨日処方もしたから今持ってくる」
「あの、ずっと?」
当たり前のようにそう言ってきた新八に思わず訊いたそれに、べろりと軽く唇を舐めて、猟奇的に男は笑った。
「悪かった。またずいぶん長いこと待たせたな」
あの日の最後の言葉を繰り返すように、新八は笑った。
*
「痛み止めと、咳止めと、あといろいろ。全部錠剤にはしたけど飲めるか?」
「飲めるけど? なに? ヤバい薬なの?」
そう薬を持って戻ってきた新八に、なんかだんだんここで一緒にいるのが当たり前になりつつあるっていうか、前世みたいな、そういう全部の記憶があることを受け入れて、そうして当たり前のように新八と一緒にいられることに納得しつつあるのは大丈夫だろうか、と思いながらもそのまま甘えるようにしてしまった中で、そうよく分からないことを聞かれたからちょっと皮肉交じりに答えてしまう。というか飲めるかってなに? え?
「……顆粒だと苦いだろうからこうしたが、錠剤も全部糖衣で出てる薬じゃねえし」
「……そんなことない。そこまでガキじゃない!」
「ほら、飲ませてやるから」
「やめろ!」
そう言って口許に手を伸ばそうとしてきた新八から薬をひったくって水で飲んでしまったら舌打ちされた。何だコイツ……。
「やらせろよ」
「なにそれ」
「可愛がらせろ。せっかくまたこうやって捕まえたんだから、もっと可愛がらせろ」
「ストレートに言うな!」
「とりあえず風呂入るぞ。入れてやるから」
「一人で入れるわ!」
だ、駄目だコイツ! カルデアでもそうだったけども、一回リミッター外れると構い倒したいモードに入るやつになってる! モードっていうかカルデアの時は本気で最後まで治らなかったんですけどもね!?
「て、ていうかここどこなの!? 今更だけど町内って言ってたよな!?」
「え。うちの山荘。町内だけど病院まで車で30分くらい掛かるから不便なんだよなー、あのバカ兄貴に実家から追い出されたから。一軒家だからいいけど冬は雪やべぇし。もともとスキー場の近くだけど」
「!?」
「ああ、そういやおまえの車、面倒だから病院の駐車場に置いてきたわ。夏季休暇と合わせて今日が日曜だから、明日からで10日くらいはここにいるしかねーな、おまえ。安心しろよ、所在ってかそういうのは総務課の課長さんにも言ってあるから。入院よりいいんじゃないかって言ってたぞ。良かったな、上司公認で休めて」
「は? それって」
「待たせて悪かった。おまえが納得して許してくれるまで構い倒して可愛がってやるから」
そう言って新八が笑ってこちらを撫でてきた。笑っているのに、とても凶暴に見えるのは気のせいだろうか。その笑顔がとてもとても楽しそうで、凶暴なのはきっと見間違いではない。
「分かるまで、いくらでも可愛がってやるから」
あ、これ詰んだ。この休み十日間というより、人生的な意味で。
緋雨さん家の永斎新作だ〜!😭これこれ、この味〜!となっています
やっぱ緋雨さん家の、合法的に囲って可愛い可愛いと構い倒してちゅっちゅしてる、永さんから出てるデカめの矢印にたじたじになってる斎の、永斎が!好きだー!!!!
極限まで構い倒して甘やかそうとする永さん見たいですね……どこまでやろうとするんだ……!?
んふふ、久しぶりに緋雨さん家の永斎新作が読めて幸せです❤️かーわいー!❤️
ありがとうございます!また捕まっちゃったね、合法的に囲われて可愛い可愛いされる生活が始まるね❤
もう永倉さんが可愛いしか言っていないのがうちの永斎なので、諦めてね斎!という感じの話だったのですがいつも通りのうちの永斎でも楽しんでいただけて良かったです!
構い倒して甘やかして可愛がって……どこまでやる気なんだ永さん……!