彼岸には遠い(永斎・カルデア)

彼岸の中日ですね(働け)。
お参りの方がいらっしゃるんですが「雨ヤバくね?いつになったら止むの?」って話を皆さんとしています。おはぎとか炊き込みご飯とかもらっているからお彼岸ですねえ。

そしてだいぶ今更ですがサイトやこのブログで更新している小説について

・HTMLの処理で「!?」を「⁉」にすると、というか半角は基本データがバグるのでサイトに置いているものや日記のものは基本的に半角使っていないですって言い忘れていたような気がしますが読みにくくてすみません。サーバーの都合なのかFTPの都合なのか分からない。
・会話文の後の一行空けも意味がある時とない時がありますが、<br>タグの記述ミスがないように最初に入れたのが始まりのため見逃してください。

だいたいひさめさんの技術力不足では?とか言ってはいけない。

それはいいとして、永斎です。彼岸なのでそんな永斎の生前からカルデアで再会する話です。彼岸とか涅槃には縁遠いっていう話。「彼岸には遠い」、遠いというより縁遠い、そういうのが好きです。
そろそろえろどうじんも書きたいなあと思ったけれどえろになりそうでならないこの二人を誰か焚きつけておいてくれませんかね……。

 

「ひさし、ぶりだな……」

 言葉が出てきてそれから、何と言うのが正解だったのか考えた。

「よう。元気そうだな」

 当たり前のことのようにそう返されて、自分が言ったことが、自分が行ったことが

 正解だった筈もないのに

 

彼岸には遠い

 

「いつから?」
「最近。その辺で剣教えてるだけだ」
「そうか」

 いつかよりもずっと静かにそう言って、江戸……東京の一画で酒を持ってきた新八を家に上げて話を聞けば、本当に近くに住んでいるらしい、ということが分かって、訪ねてくるのも当たり前か、とぼんやり思った。

「松前ってか小樽の方にな、そのうち帰るっちゃ帰るんだが」
「そりゃあ、おまえは」

 元からそうだもんなと嫌味が出てきそうになってからやめる。もうそんな時代じゃないと思ったのもそうだったし、じゃあ会津と斗南はどうなると言われればそれはあまりにも無礼に思えたからだった。

「死んだなあ」
「……ああ」

 だから新八の言葉にあっさり肯定できた自分が怖かった。
 近藤さんの首を僕は見ていない。
 副長の……土方さんの遺品を市村がという話も『知らない振りをした』。
 それなのに、その言葉に肯定できたのは、成長だろうかと皮肉のように思った。

「怖くないか?」
「は?」
「俺は怖い」
「なに、が?」

 問われて思い出したのは、新八が隊を離れる時に『来るか』と一言問われた時のことだった。
 問われて思い出したのは、副長が北に行く時に『勝手に死ね』と叫んだ時のことだった。

「俺はこんなにあっさり時代が終わったんだと思うと怖くて仕方がない。本当を言うと後悔しかない」

 僕は、俺は、だから、どんな時も誰かに何かを任せながら、委ねながら。

「なあ、だから」

 そう言われて伸ばされた手を振り払った。そこになんの意味があったのかは分からない。昔のようにただ可哀想だと憐れまれたのだとして、それは本当のことだと分かっていたのに。
 何もかにもを誰かに担保されないと何も出来ないくせに、最後は自分で手を離す卑怯者のくせに。

「いってーな。今更おまえなんぞに手ェ出そうと思っちゃいねぇよ。少なくとも今は」
「は?」
「墓、建てるから手伝え。松本先生にも話付けてある。どうせ俺の我儘だから気にしなくていい」
「何言ってんだ、おまえ」
「怖いんだよ」

 凪いだ目の男は言った。その青い瞳は静かなままだった。

「区切りを付けないと、どこにも行けない気がしてる」

 そう言われて酒杯を取り落としそうになった。
 区切り? なんの? どこに行くための?
 そう思ったら思わず新八の着物の袖を引いていた。

「いくな」
「は? なに?」
「川の向こうは、冷たいから、おまえは行くな」

 必死に縋ったそれはどうしてだろう。それに今更だろう。僕はあの日、この男から逃げたのに、今更何を求めるのだろう。今更何を、縋るのだろう。

「安心しろよ」

 男は丁寧にその手の指に触れて、ゆっくりと袖から剥がしていく。振り払われるわけではなくて、その節くれ立った手の感触が、いつか褥で触れられたそれと変わらないのに、だけれど確かに離されているのだと思ったら、そこには妙な冷たくてそれでも熱を帯びた感触だけが残った。

「『今は』おまえに手を出す気はないし、そもそも墓だっておまえのためじゃない。俺のためだって言ってるだろ」

 そう言って必死に縋っていた手の最後の指をはがされて、それなのに袖から剥がされた指は彼の手の中に収められて、宥めるように弄ばれる感触が懐かしいのか嬉しいのか、それとも悲しいのか分からない。

「あ、の」
「おまえのためじゃない」

 繰り返されなくても分かっていた。僕のためじゃないと言うことで、またどうせ僕が気に病まなくていいようにするんだと。そういうところが嫌いだと、違う、新八のそういうところにもう寄り掛かりたくないのにと、やっと今度こそと思ったのに、と。

「先に進んでも川はない。どうせ俺は彼岸には遠い」
「やめろ、行くな、馬鹿なこと言うな」

 おまえだけは、と言ったらぼたぼたと涙が落ちて、それからああと気が付いてしまった。ああそうか。

「僕が向こう岸に渡りたいのに、どうしてみんな先に行くんだよ」

 そう言ったら新八に握り込まれた手を撫でられた。口付けることをしようとして、躊躇うようにしてから男は笑う。

「渡りたいのか?」
「渡ってしまいたい、渡らせろ、もういいだろ!」

 泣きながら叫んだそれは、誰のための言葉だったろう。

 新八に捨てられて 新八を捨てて
 副長に捨てられて 副長を捨てて

 会津で、斗南で、ここで、生き恥を晒しているのは、じゃあ何のためなんだ。

「もう、いいだろう」

 そう呟いたら涙と一緒に言葉がとめどなく落ちていく。

「もういいよって誰か言ってよ、頑張ったなって誰か言ってくれよ。もう向こうに、もう」

 子供のようなその言葉に、握ったままの手の指先を撫でた新八の手の温度も、動きも変わらないのがかえって辛くて、それが余計に悲しくて、と言い掛けたそこに言われた。

「まだだ。少なくとも俺は彼岸には行かない。行けない。俺もおまえも、どうせ行けない。俺たちは彼岸には縁遠い」
「……は?」
「だから墓を建てるんだろ?」

 そう問われて気が付いた。ああ、そうか。

「じゃあ僕のも斎藤にして、名前」
「分かった」

 頷いた新八がゆっくりと手を離した。
 彼岸には遠いと言った男が僕には遠い。今も、昔も。
 そうだとすれば。

「彼岸に遠いのは、どうせ僕もか」

 何もかもに諦めがついた。どうして改めてこんなことになったんだろうと、その白く美しい髪を見た。青い瞳を見た。
 ――僕を捨てて、僕が捨てた、遠い男を見た。

「改めて、久しぶりだな」
「あ……」

 甲斐から帰ってきた時に、そこはもうどうしようもないところだった。
 ぐだぐだだから仕方ない、で済ませようとしているのはどうかと思うんだけども、召喚も何もないままに、チケットだの、川中島から車で来ただの、とりあえず服新調しただのの連中が当たり前になってるこの特異点、年に一度くらいだからってマスターちゃんもマシュちゃんも目ェ逸らしてるけど、僕もそういうところあったけども、と何度も何度も言い訳しながら逃げ続けた男に声を掛けられて、その姿が着物姿であったことに驚いたのは、そうやって枝葉末節に逃げようとしているのかもしれなかった。

「な、に……?」
「久しぶりだな」

 もう一度言われて言葉が出てこなくなった。久しぶり? いつのことだ? この間の五稜郭? それともあの別れた日? そうじゃなくて、本当に墓を建てる話をした、日?

「なあ、俺の言った通りになっただろ? 先に進んでも川はない。どうせ俺は彼岸には遠い」
「やめろ……」

 やめろ、やめろ、やめろ

 死にきれないからここにいるって言うのかよ。
 違う、やめろ、あの日おまえに言われて墓を建てて、僕はあの時の、隊の時の名前を使って。

「行くな」
「だから行ってない。俺は嘘がつけない。特におまえには嘘をつきたくない。なにせおまえのことが大切だから」

 やめろ、やめて、やめろ

 また溺れてしまう。また縋ってしまう。またその優しさに付け込んでしまう。
 新八のことを愛していたなんて、新八が僕を愛していたなんて、正解だった筈もないのに。
 そうだと言うのに体が震えてしまうのは、そうだと言うのに手を伸ばしてしまうのは、僕が弱いからだろうか。縋る様に伸ばした手を握られて、そのまま引き摺られた。そのまま入った彼の部屋は、まだ新しいままの簡素な部屋のままで、机も端末もベッドも、何もかもが新しいまま。
 それがかえってここに来たばかりで、本当にここに存在しているのだと思わせた。
 だから部屋の扉が閉じたら、そのまま握り込まれていた手を引くようにして彼を白いベッドに押し倒すようにしたら、少しだけ驚いたように新八は目を見開いてこちらを見上げた。

「どうした」
「……いいから」
「……あ?」
「正解じゃなくていいから、嘘でいいから、冗談でいいから」

 縋っては駄目なのに、溺れては駄目のなのに、付け込んでは駄目なのに。

「好きにしていいから、壊していいから、だから」

 震える手で彼の手をシーツに押し付けて、きっとすぐに抜けられる拘束の中に置いた気になって、覆い被さる様に泣きたい気持ちのままで見詰めたら、そのまま抱き寄せられて口付けられた。

「え?」
「馬鹿なことばっか言ってんな」
「あの」

 ぽすっとそのまま回収するように抱き込まれて、ベッドに一緒に転がることになった新八に髪や頭を撫でられて、何度も口付けられる。唇だけではなくて、目許や頬にも何度も落とされるそれがくすぐったい。

「危なっかしいんだよ、相変わらず。俺も悪いんだが……いや、不安にさせてた俺が悪いんだな、これは」
「……は?」
「『『今は』おまえに手を出す気はないし、そもそも墓だっておまえのためじゃない』そう言っただろ? どうせ俺の逃げ道だったよ」
「なに、言ってんだ?」

 そう呆けたように言ったら、間近にある新八の瞳が笑った。青いそれが笑ってそれから細められてこちらを見る。

「なんとかしないと立てなかった。俺は今もそうだが、近藤さんも土方も嫌いになりきれないんだよ。おまえみたいに慕い続けることも出来ないくせに、そうはいっても嫌いになりきることも出来ない。他の誰かに語られるのも嫌だった。そのくせ、一緒に死ねなかった自分が悔しかった」

 そう言われて何を言えばいいのか分からなくなった。志、違う、誠と僕たちが呼んでいたものを貫き通したのがあの日、新八たちが隊を抜けるという結果だったとしたら、それはあまりにも酷なことだったと思う。互いにとって。片方だけではない。あらゆる誰かが、自分自身の思いを貫こうとしたのがその時代だった、なんて言えるはずもない。
 そう思っていたらふとまた抱き締める手が強くなった。

「それに、どうせそうでもしないとおまえは彼岸に行こうとする。そのうえ俺の大切な斎藤まで取られたくなかった、それだけだ」
「え?」
「危なっかしいんだよ、おまえは。どんだけ可愛がっても浮気性だし、ふらっとどっか行きやがるし、挙句の果てに土方? あの色男かよ。酷いことされなかったか?」

 そうどこか艶っぽく笑われて思わず腕から抜け出して距離を取った。なに、何なのコイツ!?

「されてないっていうかそんなことしてない! 何言ってんだおまえ!? 副長に言いつけるよ!?」
「へぇ? やってねぇなら助かるけど」
「っていうか別に僕だって女の子の方が好きだし! 別に僕も副長とか平助よりモテたし!」

 な、なんで僕ここで副長と張り合ってんの? ていうか平助ごめん、なんか、新八よりモテたのは周知の事実だから何となく名前出してごめん! べ、別に新八の名前出しづらかったとかじゃないからほんと!

「あ? そうなのか?」
「え?」

 あっさりそう言われて、そのわりにまた捕まって押し倒された。なに、これ。

「おまえが女好きなのもずいぶん人気だったのも知ってるけども、じゃあ俺はやっぱり遊びだったのか?」
「ちがっ! そうじゃ、なくて!」

 何言ってんだこの馬鹿!? ていうか僕は何言ってんだ!?

「ていうか僕で遊んでたのも、僕にひ、ひどいことしたのも新八じゃん! ひとのせいにすんな!」

 だから僕は何言ってんだ!?

「……やっぱり危なっかしいな、おまえ」
「な、なにが?」
「俺以外とやってねぇって言質も取れたし、確認ついでに思い出すまで可愛がってやる。そうやって繋いどかないと、またどこ行くか分かんねぇくらいには危なっかしい。せっかく川岸で待ってた甲斐がなくなるだろうが」

 そう言われてワイシャツに手を掛けられて悲鳴が小さく零れた。うそ、何コイツ、頭おかしいんじゃないの!? た、確かにそういう、そういう関係だったし、そういうのは新八だけだったけども、い、今やる!? 情緒とかそういうのないの!? あったらやっていいって意味じゃないけど!

「こら、暴れんな」
「うるさい、この色情魔! 放せ!」

 バタバタ暴れてやったら思い切り組み敷かれてそのまま口付けられて、そうしてもう見ていたくないと言うか、顔を見ていると絆されそうで目を閉じたら、耳元に声と息遣いがした。

「駄目か? 斎藤」
「っ……!」

 そういうの、ずるいと、おもう……。弱いの知ってるくせに。おまえの声じゃない、おまえに頼まれると、そういうの、なんか苦手で。

「ほめて」

 それで思わず小さく目を開いて、小さく呟いた。このバタバタとした時間になったというのに、それはあまりにも不釣り合いなようで、それでいたのに、いつか誰かに言いたかったことだったと思い出す。
 いつか、新八に言いたかったことだったのに言えなかったことだと思い出す。

「最初からそう言え、馬鹿」
「馬鹿はおまえだ!」

 緩んだ手の力と拘束、それからゆっくり抱きかかえるように抱き締められる。それからまた撫でられて、口付けられて、首筋に顔を埋めさせられて。
 そうしてそれから、泣いていたのだと気が付いた。彼の顔を見たくないなんて言い訳で、泣いていたから目を閉じていたのだと。
 こんなにもふざけているような時間だったのに、やっと再会できたことに安堵している自分がいたのに、僕はどこまで蓋をして、どこまで目を逸らすつもりだったんだろう。

「もういい。俺もいる。おまえは十分頑張った。俺も、沖田も、山南先生も、土方も、十分頑張った。みんなここにいる。おまえも俺も頑張った」

 そう言われたら力が抜けた。
 そうだ、カルデア、サーヴァント、英霊の座。そこにいて、ここに来たなら、僕たちは確かに『終わった』のだから。

「しんぱち、疲れた? 大丈夫か? 痛くない?」

 なぞった顔の傷に彼は笑った。笑ってもう一度僕をベッドに置いた。

「どこも。おまえは痛くないか? 俺と違って傷も何も隠すのが得意だろう?」

 そう言われて思い出そうとしたけれど、何もかにもが遠い気がした。ここでサーヴァントになったのは、だからたぶん、とても大切で、偶然のような出会いだけれどおまけのようなもの。

だから。

「痛くない。どこも痛くない」

 そう笑って言って、新八を抱き寄せた。もう十分抱き着いてるんだけど。

「でもどうせ、新八は疑り深いから確認ついでに寝る?」
「どこで覚えてくんだ、こんなの。こんなに可愛いんじゃ断れるわけないだろ」

 首筋に触れていた手がそのまま服を脱がせていく。
 ああそうだ、この温度。
 どうせ彼岸には縁遠い。

「彼岸には遠い(永斎・カルデア)」への2件のフィードバック

  1. 連日最高の永斎をありがとうございます……😭彼岸の日に、彼岸に渡りたいけど渡らせたくない永斎……良すぎる……
    永倉さんは供養塔を建てて区切りとして彼らの死を受け止めて、斎藤は永倉さんに「もう頑張ったよ俺たち」と言われて、死んで英霊になってカルデアに来て「終わった」ことを今になって受け入れられたからこそ、また二人は始まることができるのかな……と思いました。生前の生き残り組である永斎が大好きですね……
    私事ですが、板橋供養塔建立の件ですでにあのとき杉村と藤田だったのに永倉(中倉)と斎藤で名前が残ってることに私はずっと心が囚われているのと(ご存知かと思いますが!!🤣)、最近ちょうど「緋雨さん家の永倉さんの瞳の色が薄青なのいいよな……三途の川の浅瀬の色だって……」と噛み締めていたところだったのでタイムリーでした
    生前のことがあったけどそれを経てそれを乗り越えてデアでは甘々ラブラブになる緋雨さん家の永斎が大好きです……!毎度同じこと言ってる気がする!!
    えっ!?永斎のエッッッチな同人誌ください!?甘々ラブラブどころではない甘々ラブラブデロデロとろとろの永斎ください!!!!焚きつければいいんですか!?くそっ……じれってぇな、俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!!!

    1. ありがとうございます、ありがとうございます😭なんかこの頃永斎の波が……いつもだけども!と思いながらも読んでいただけて、こうして感想をいただけて嬉しいです……💕
      供養塔での一区切りと、それ以上に抱え込んでだけれど英霊で再会でまた始めるという二人もいるし、同時にやっと「終わった」「渡れた」という二人の生き残り組でもあるのかな、と改めて邪馬台国や川中島を読んでいて思いました。生き残り組……噛み締め……
      くろわしさんの供養塔解釈大好きなのでもうほんとに本当に美味しい、美味しいです……!そしてもうもう!ありがとうございます、そうなんです、青薄、薄青―!覚えていていただけて嬉しすぎる😭三途の川の浅瀬ならもしかして渡れるかもっていうのを意識してしまった彼岸の中日だったので嬉しすぎます💕
      更にうちの永斎のエロを焚きつけてもらってしまった!やらしい雰囲気になってしまった……「甘々ラブラブデロデロとろとろの永斎」……😋これは美味しい!(ちょろい)

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