もしもあなたが望むなら(FGO・太公望とコヤンスカヤ)

リコレクションやっていて思い出したので書いた話です。
太コヤって書こうとしてから別に恋愛要素はどこにもないのでどうしたらいいか分からなくなったので並べておきました。

太コヤ好きなんです。コヤンちゃんに嫌な顔されても絡み続ける太公望さん見ていたい気はするよね。
太公望さんに聖杯を入れる時は闇コヤンちゃんにも聖杯を入れると決めているのでまだ入れていません。どっちも100にはしたいけどもなんかこう、こう!

覆水盆に返らずの話です。太公望さんのHPが段々減っていく朝の食堂。闇コヤンさんがいつもの三割増しくらい優しいです。
「Bad Apple!!」

「もしもあなた望むなら」というタイトルもなんかいろいろ書けそうだなーと。
そんな感じで追記から太公望と闇コヤンです。

 

もしもあなたが望むなら

 

「やあ、おはようございます、コヤンスカヤ」
「……ずいぶんと遅いのですね、呂尚」
「分かっていてそう呼ぶのなら、君はやっぱり……っていうと殺そうとするの悪癖だと思うなァ……その爪どけてくれません?」

 とりあえず闇の方のコヤンスカヤにそう言ったが、光の方とも違って牙や爪が鋭い彼女の磨ぎ場にされてはたまらない、と寝坊してしまった朝の食堂で茶をもらってきてから、新しいビジネスでも始めようというらしいその隣に座ったら、すごく嫌そうな顔をされた。

「いいじゃないですか」
「広いとまでは言いませんが、こちらでここに座るあたりに悪意を感じました」
「動物は悪意に敏感だからなァ」
「死にたいですか?」

 そう言われたが仕方がない。そういう日もある、と思いながら茶を飲んで一息ついたら彼女は見ていた端末と書類から顔を上げてこちらをちらりと見て言った。

「それなりに、というか私は気遣いが出来ますので、本日のあなたは『太公望』と呼ばれることを暗に嫌がっておいでのご様子でしたから、嫌味を含めて『呂尚』とお呼びした次第ですが、何かありましたか」

 溜息と同時にそう言われて、コヤンスカヤに心配されているのかぁと思ったらどうしようもない程カッコ悪いな、とか考えてしまった。考えてしまってから、どうしたものかな、と思ってしまう。

「人に会いたくないからこんな時間まで部屋にいたのでしょう」
「バレたかァ」
「どうだか」

 軽く言われて、だけれど分かっているのは何故だろう、と思ってから別段コヤンスカヤにとってもどうでもいいことだろうに、と思ったのに、というか僕の勘違いでいろいろあったことについて一番怒っているのは彼女だろうに、と思いながらぼんやりと茶碗を見た。

「浮気っていうか、不貞っていうか、そういうことをしたことはないんですけども」
「はぁ? まああなたにそういうことが出来る甲斐性はなさそうですしね」
「それは認めますっていうか……でも僕バツイチなんですよね」
「……奥様に捨てられてますからね、呂尚様は」
「それなんですよねー、僕も悪かったというか、悪かったけども、別に浮気してないし、不貞もしていない。だけども」
「……分かっていてやっていたというのは浮気や不貞どころか、とか考えていらっしゃる?」
「……まあねぇ……そりゃあ僕だって仕事があった訳です。斉に行くために……妻に捨てられる必要があった、というか」

 そう口にしてから、自分の愚かしさが馬鹿馬鹿しくなった。僕は確かに元始天尊様からも言われてましたけども、自分で占ってみても、諸神に言われずとも、そうせざるを得なかった。だから。

「だから、奥様に捨てられるようにして、グータラした結果まんまんと捨てられた後に出世なさって、そうして縋られても『覆水盆に返らず』とか言ったクソ男……でしたね」
「言わないでください、ほんとに悪いことしたなーとは思ってるんですよ、心底」

 そうなんだけど、そうじゃない、と言い掛けて、それからそれ以上言ったら本当に駄目な気がする、と思ったのに、じゃあどうして僕はコヤンスカヤとこんなふうに話をしているのだろう、と思いながら彼女の目を覗き込んだ。

 獣、狐、精霊。
 吸い込まれるような雷天の瞳に、僕は何を見るだろう。

「君をね、ソラに打ちだしたら上手くいくって思ってはいる」
「そうですか」

 冷淡に、そうしてきっぱりとその獣は言った。

「だけども、出来ればそこにいてほしいとも思う」
「儘ならぬな、ヒトは」
「そうかもしれない。僕はただ妻を裏切っただけではない。覆水盆に返らずと言った、だけれどそれが本心からの言葉だったのが一番の裏切りだった」

 そうだ、本当は。本当の本当は。僕の本心は。

「戻らないのはあなた様の心だった。そうでしょう? それが本心だからそれが裏切りだと言うのなら、あなたはどこまで傲慢なのか」

 真っ直ぐに僕を見た妲己コヤンスカヤは言った。美しい瞳が懐かしい。どこまでも君は美しかった。どこまでも美しく、強く、そうして――

「僕は妲己が欲しかった。妲己の心が欲しかった。その時にはもう、誰も要らなかった」

 呟くように、その獣に言った。本当に、彼女が妲己ではないと知っているのに。
 君が愛玩の獣だと言うのなら、少しも彼女と変わらないのではないかと思ってしまうのは、だとすればきっと僕が間違っている筈なのに。

「あの獣が手に入るなら、なんだって良かった。他の女なんてどうでもよかった。それがかつての妻だろうと、罠に嵌めるようにして別れたとしても、それでもどうでも良かった。僕はただ、妲己が欲しかった。あの美しい女を愛していた。だから――」

 だから。

「だから殺した」

 そうだ。だから、だから、だから。

「僕以外の誰かに殺されるところが見たくなかったなんていう可愛らしい感情じゃない。ただ、殺したかった。絞め殺して、砕き殺して、封じ込んで、他の誰にも触らせたくなかった。それがどんな結末だとしても、妲己を殺したのは僕だという事実だけは変わらない」

 そうはっきりと言えば、コヤンスカヤは薄く笑った。それは微かな侮蔑と憐憫を帯びていた。

「だから、ですわね」
「は?」
「だからあの時、私に会ってあなたは恐れた。私の気配を、獣の気配を恐れたのではない。あなた以外の誰かが妲己様……妲己様に見えた誰かを殺すのではないかと、カルデアのマスターが私を、妲己様を倒すのではないかと思うと許せなかったのでしょう?」

 言い当てられたそれに目を見開いた。マスターは悪くない。君も悪くないと言おうとしたのに、僕は信じられなかった。そうして僕は信じていた。妲己は死んでなんかいない。彼女を殺すことなどきっとできなかったのだと。妲己は生きて、僕を憎んでいたとしてもそこにいてくれる、と。
 手が届くそこにいるのなら、今度こそ、手に入れたいと思ったのに、結局僕は妲己を殺していたのだから。もう何千年と前に。それでも忘れられないほどの鮮やかな記憶と共に。

「次は君の手を取るなんて言えないけれど」

 そうだ、僕は本心から妻を裏切った。返らないのは僕の心だ。裏切ったのは僕の方だ。僕は妲己に恋をした。妲己を愛してしまった。そうして妲己を殺してしまった。

「それを私に言って何になりましょうか」

 静かに言ったコヤンスカヤの白い頬に手を伸ばす。重ねられた手が無遠慮にこちらの手の甲を裂いた。だが爪が痛いとは思わなった。むしろ、己が身から血が流れることが不思議だった。

「次こそ必ず」

 君を殺す。
 君を愛する。
 君を――

「本当に、ヒトというのは儘ならぬ」

 女は笑った。ひどく懐かしい顔で。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です