三所物(FGO・永斎🐰)

永斎の霊基異常ウサギですよ!🐰!
とはいっても今回はカルデアなんですが、いつも以上に脈絡がないのと、若干……表現は若干ですが、永倉さんの思考回路が全体的にバイオレンスとも違うし、猟奇的とも違うのですが、だいぶ追い詰められています。
なんというか、この人、前世で斎藤に逃げられてから追い詰められてない時ないけども……。その裏返しでどろどろに甘やかして手元に置いておかないと気が済まないタイプというか……拙宅の永倉さんのみの話ですのでご了承ください。

上にも書いた通り脈絡ゼロで突然始まります。ウサギである理由はちょっとだけありますが、なんというか……この頃ちょっと思考が……。
「メーベル」のカバーを聴いていたのでそんな感じ。元が女性声のボカロなんですが、男声で調声されたカバーを聴いていたのでなんぞ悲惨な歌詞に聴こえてどんどん追い詰められる内容になりました(個人の感想)。

 

三所物

 ふわふわとした毛玉、毛玉ではないと知りながらふと手を伸ばす。

「ウサギ、だな」

 違うと分かっている、というか見りゃ分かる。その肢体は昔と変わらずにすっきりとしているのに高い背丈。どこに力を入れればああやって刀を振るえるのか、と思うがその一閃は確かに肉を裂いて骨を断った。
 そう思えばふと今は仕舞っているこの男の愛刀を置いた棚に目が行った。

「あの頃の流行り、か」

 流行と言っても、とぼんやり寝起きで働かない頭で思った。鬼神丸も例に漏れずそう長い刀ではなかった。脇差は勧めで少し長かったが、そもそもあの頃は打刀にしてみても短いものが多かった。よくよく考えれば坂本の陸奥守もそうだ。家伝だと言うくせに、それでもあの尺なのだからお笑いだ。室内で振り回すにしちゃあ確かに打刀だって短い方がいい。太刀なんざ持ってても役に立たん。

「それで短銃にするのも悪くはないな」

 そう坂本のあれを思えばふと笑ってしまった。そうしてそれから、ベッドというか寝台だというのに、そもそもこのエーテルの身体ではなんの脅威もないだろうに、どうしてか寝る時は癖のように手近に置いてしまう自身の愛刀に触れる。いつでも抜けるという確信と、抜く必要などないことを考えながら。
 霊基によっては仕込みの杖になっていることもあるそれは、今は鞘に収まっている。確か岡田と坂本、それに高杉が何かをやらかしたそこであいつらは薩摩の人斬りに会っているはずだ、といつか見たアーカイブのそれを思いながらふと鞘をなぞってそこから柄に触れる。

「確かに邪魔だ」

 薩摩の刀には三所物の目貫がないものが多い。滅多なことでは抜かない、などという遠慮がない拵えは悪くない。というか、そんなもの邪魔なだけだ。

「礼儀? 馬鹿のすることだ」

 刀を持った時点で斬るつもりのくせに、礼儀だの武士だのと、そんなもの馬鹿な話だ。
 そう思いながら俺は斎藤のくすんでいるような、それでいて深い藍色をした髪に指を通した。

 人を斬るということは、畢竟、人を殺すということだ。
 刀なんざ、畢竟、人殺しの道具だ。
 そこに美醜を見出す? 俺には分からない。

 だが、分からないと言いながら、自分の刀が折れてさえその欠片を大事に抱え、その刀が折れてさえ使い続けた俺は、では何を思ってこの刀を取ったのだろうと思いながら、今はそうして刀を握ることもない斎藤の髪や耳を撫でてみた。深く寝入っているその柔らかなそれを撫でながら考えるのは、確かに刀を取るのに相応しいのは俺よりもコイツだったという事実だった。

「おまえは偉いよ」

 そう思えばぽつりと言葉が落ちた。丸まる毛玉がもぞもぞと動いたが、撫でる手を止めずに抱きかかえてみる。
 おまえは偉い、というか凄い。あの最後まで、刀を握ることに、銃を構えることに、人を殺すことに、おまえは間違いなく恐怖していた。自分自身に責任を感じていた。

「だから」

 だからおまえは俺とは来なかった。俺はおまえの何を知っていたんだ? 何も知らなかっただろうに。どんなに手に入ったと思っても、どんなに慰めても、どんなに逃がしてやっても、どんなに愛しても、おまえは自分自身から逃げなかった。
 初めて人を斬った時から、初めて人を殺した時から、その瞬間からおまえは逃げなかった。

「……なに?」
「ああ、起こしたか?」
「……なに?」

 そう思いながらくしゃくしゃにしていたそれに流石に気が付いたのか、ゆっくり目を開けた斎藤は、こちらの問に不安げにもう一度そう問いかけてきた。ぴくぴくと垂れていた耳が真っ直ぐに天井に向けられたそれは、不安と警戒だ、と気が付いた時には起き上がろうとしていたから、それを押しとどめてそのまま布団に縫い付けておく。

「どうした?」

 ああそうか。今はウサギが混じってるから、刀が握れないんだと、戦えないんだと、どこかで安心しているのは俺の方かもしれない。斎藤が戦えないとホッとするのは、だからきっとまだ怖いからだ。

 またいつかのように、誰かを殺して不安になればここに落ちて来るのに
 またいつかのように、誰かを傷つけて不安になってしまう斎藤が見たくないから
 またいつかのように、誰かのために傷つき続ける斎藤は辛いから
 またいつかのように、俺のために傷ついて泣き叫ぶ斎藤が欲しいから

「新八?」
「悪かったな」
「は?」
「ウサギだと少し安心する。俺が悪さできない気がして」
「……? 新八が悪さしたことある? 僕はいろいろ、その、してるけど」

 カレーパンとか、散歩とか、と小さな声で言った斎藤が半分ウサギになってるなんてそんなことが起こっているのに、俺は何を思っているのだろうと思いながら抱き締めてみる。

「昔っから悪さばっかりしてるよ、俺は」
「え……?」

 不思議そうに、不安そうにぱちぱちと目を見開いて、それから耳を垂れさせて、抱き着いてきたと思ったら、やっぱり不安げにその垂れた耳を擦りつけてきた斎藤に、不安なのはこっちも同じか、と思えばどこか可笑しな気分になった。

 いつもどうしたらいいのか分からない。

 あの日、「来るか」と訊いたそれ。あの日、手を離したそれ。斎藤の心も何もかにもを試したそれ。

「なあ、息止めろ」
「なに、が?」
「ちょっと吸ってから息止めてみろ。二、三分なら大丈夫らしいぞ?」
「は?」

 驚いたようなその顔で、だけれど素直に息を吸い込んだ斎藤の軽く開いたその唇に口付けたら、本当に驚いたように目が見開かれるから、そのまま擦り寄っていた柔らかい耳を撫でて、頬を撫でて口の中の舌を探ってみる。

「んっ?」

 本当に息を止めてしまっているのか、白かった頬が紅潮してきたどころか目に涙が溜まってきたのを見れば、言いつけを守るのはやっぱりウサギになって従順にでもなってるのか、鼻で息すりゃいいだろ、と思えばどこかおかしかったが、段々と力が抜けてきた身体を支えたままで、そのまま歯列をなぞって、もっと深く、口の中だけでは足りない、と段々思ってしまう。

 もっと、呼吸を忘れてしまえばいい。
 肺の中身を入れ替えてしまえばいい。
 肺の中身も、体の中身も、全てこちらのものに入れ替えてしまえばいい。

「なんてな」
「っ……!? なっ、に、すんだっ……!」

 そう限界手前で唇を離したら、文字通り脱兎のごとく飛びずさった斎藤の耳は垂れていて、尻尾がぴくぴくと動いたそれがどこか煽情的だと思いながら、唾液のついた唇を舐めて笑ってみる。

「俺は悪さばっかりしてるって言ったろうが」

 ああ、少し噛まれたか。唇が切れてやがる。そう思って拭ったそこに斎藤の手が伸びてきた。

「……それは悪さじゃないだろ、馬鹿っ八」
「は?」
「寂しいだけのくせに」

 そう言った斎藤に寝間着にしていた着流しの裾を引かれた。そのままかき抱くように、というか抱えるとも違うか、胸の中で丸まられた。

「まだ夜だし、寝てればいいだろ、馬鹿」
「……悪かった」
「分かってるから、別に気にすんな。新八いるから安心して勝手に寝てた僕も悪いし」

 そう言って丸まったままの斎藤に、自分の気が立っていたのをやっと自覚する。
 ああ、そうだな。三所物くらいは、いや、せめて目貫くらいはあった方がいい。

「なんかあったら起こせ」
「分かった」

 小さく応じてそれから思った。
 何かがあったら止めるのは、結局どっちだったんだろうな、俺たちは。

 

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「メーベル」

後書と覚書

歌詞の

「傷がついて変わっていった程度のもの」
「曖昧になるのは嘘に怯えるから」

とかこの辺が永倉というか斎藤というかどっちもどっちだと思っています。
今回はウサギ化しているため、斎藤の刀を預かっているのと目貫というかそういうのを合わせていました。中のは薩摩拵えの話です。永倉さんは元が武家だからきちっとしていそうだけども、仕込み杖のことを考えるとまあまあ緩いのかな、とも思う。
その程度のもの、でも曖昧に誤魔化して嘘に怯える、というのがウサギになってはっきりして互いに余計に怖くなる、でもよく考えたら怖くなった結果が生前だったから、みたいな二人だからと思って前から考えていました。

余談
聴いていたのがカバーなので音源は控えますが、男声の調声でわりと語尾が吐き捨てる感じになっていてある意味歌詞とミスマッチでもありつつ、追い詰められている感覚が好きでした。

「三所物(FGO・永斎🐰)」への2件のフィードバック

  1. 緋雨先生、こんにちは。通りすがりの一ファンです。
    緋雨さんの永斎🐰だー!!嬉しいです❤️端から見れば善人に見えて、そして実際きっとそうである永倉さんの、本文中で消し去られた後ろ暗い本心に、人間味を感じて興奮しちゃいました……!そしてその後、誤魔化すように、はたまた懇願するようにちゅーする永倉さん、たまんないですね!!
    これからも可愛い永斎🐰見せてください❤️

    1. くろわしさん、ありがとうございます🐰❤
      今回は🐰成分が少なくて申し訳ありません💦ありがとうございます!
      実際に善人だし、そうでもある中で、だけれどどこかしら何かしら抱えている部分はあるのかな、と思って書いた話だったので嬉しいです。
      誤魔化しながらここまで来てしまったと思っている部分もあると思うので、これからはもっとちゃんといちゃついて欲しいですね!🐰!
      これからは冬ですし、冬毛のもっとウサウサしい🐰成分多めの話書ければと思います!

      ありがとうございました!

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