ンドゥールの話

出来たのでいったん日記に上げます。
けっこう考えたけども考えても考えても苦しいどころじゃないなと思いました。
ヴァニラくらい突き抜けてしまえばいいのに、とか、花京院くらい投げ出してしまえばいいのに、とかいろいろ考えたけども駄目そうですね。ンドゥールさんは全体的に詰んでるんだなあと思います。
ンドゥールの考察日記
↑あとがきに該当するというか、これを前提にして書いています。こういう感じでンドゥールさんについて考えて書いた小説です。サイトに入れようと思ったけども時間切れなので明日か明後日HTMLにしますね。ちょっと傷が痛いのと明日血液とかの検査だから明後日以降になったらすみません。眠い!

ンドゥールさんのこと真剣に考えすぎて胃が痛くなってきた。駄目だこれ。
9栄神の名前から始まって承太郎との会話と最期あたりまで。だいぶンドゥールさんのテンションの上がり下がりが激しいです。そんな人じゃない気がするんだけどそんな人だとも思う。

依存症

「価値? 生きる意味?」

 ………………?

「自分に価値を感じたことがなかった。価値、そうだな。価値という概念がなかったと言い換えることもできる。そもそもの話として、殺人にしろ窃盗にしろ、それは生きるために必要なことだったからだ」

 これは別に言い訳ではなくて、貧民街というか、そういう場所で生きていくにあたってスタンドが便利だったというのも実際にはあるし。

「おれは目が見えなかった。だから元々の手合割どうということを言っていられるほど真っ当な環境じゃあなかったし、そこで生きいくうえで目が見えるとか見えないとかはどうにもならないしどうでもいいことだ。それは同時に物を盗むとか人を殺すとかがどうでもいいことだった、とも言える」

 少しだけ驚いたような気配がしたが、まあそうだろう? 『生きていく』ということを目的にしたとすれば、そうならざるを得なかった、というだけの話だ。

「それに目が見えないでこのスタンドがあることでどんどん精度が上がった。皮肉でも何でもなく、見えないなら聞けばいい。おれよりも遠くまでこのスタンドは行けるのだから、その音を聞いて、その音の先を殺してしまえばいい。音も空間の把握も、目が見えていたらここまでにはならなかっただろうな……ある意味で『スタンドのせいで』だ。例えば今、おまえがおれのこれに納得しているとおまえのようなスタンドで心が読めずとも分かる、そんなことは出来なかったろう」

 言葉にトンと卓を叩く音がする。不快気で苛立ったような、それでいてどこか焦ったようなそれは、どこか可笑しくさえ思えた。

「咎められることは怖くはなかった。言い訳ではない。実際におれは盗んでいるし、傷つけているし、殺している。だから咎められるのは当然なのだ。だから怖くない。警官に、兵士に、法に咎められるのは当然だ。常識やルール……規範としてそれは認識はしている。だが、価値としておれにそうやって咎められ裁かれる『恐怖』はなかったし、なにも感じなかった」

 トン、ともう一度指が卓を叩いた。その音は意味が分からない、というよりは、意味が分かるゆえの苛立ち。おれに対して、というよりはおれの発想に対して、というところか。そういうところが傲りなのだろう。おれとこいつのどちらの傲りなのかは分からないが。

「だがな」

 そうだ。だが。

「おれはDIO様に出会って、自分よりも圧倒的に強い、目の前で規範や則を超えて一瞬でおれを殺すことが出来るだろう人から『価値』を認められた……いや、『価値を与えられた』。だから、あの人だけは怖い。あの人そのものが怖いのではない。あの人から価値のないものとして捨てられるのが怖い。それくらいならいっそ死んでしまいたい」
「あなたの妄信はある意味でアイスよりも危険で傲慢です」
「さて、そう言われても否定できない。敢えてあれと競うつもりもないが」
「あなたはあなたの悪性や異常性を自ら理解していて、それでもあの方を信奉している。それだけがあなたの異常性の担保だと分かっている」
「もう一度言うが、否定はしないよ」

 そう言って笑ったら、彼はため息をついて言った。

「ゲブの神が笑うと地震が起こるとかつてエジプトの人々は言ったそうですね」
「それは面白い。それならおれはこれ以上笑わない方がいいのかな?」

 名前も知らない「スタンド」で、軽くダービーに触れた。その笑みを、何とか殺しながら。

「ゲブ神……」

 目は見えないが、いろいろと集めて知ったそれを整理する。独り言が多いと言われるが、考えをまとめるのに口に出してしまうのは癖のようなものだろう。というよりも、筆記するという手段を取れないゆえかもしれない。

「大地の神。おれは別段伴侶はいないし持つ気もないが……引き離された、というのはどうにも不憫だな。それで、天地が分かれたためにゲブは大地を支え、山を作り、笑えばそれが地震となる、か。奇妙な神だ」

 凡そ自分には関りがなさそうな、と思ってから杖を引き寄せて地面の音を聞き、するすると近くまで戻ってきたそのスタンドが手に触れた感触が『水』であり、そうして自分は地面から発せられる音を聞いているのだ、と思いながらそのスタンドに触れてみた。

「水。スタンド。音。地面。自分自身」

 おれは目が見えない。代わりにスタンドがあった。
 スタンドのせいで生きてこられた。生きる意味だとか、価値だとか、そんな崇高なものを考える暇はなかった。ただ生きるために人を傷つけた。
 その悪。それについて考えることもないままに……いや、少し違う。考えることを放棄したままに生きてきた。

「そうだろう? 人を殺して楽しいとは思わないさ、やはり」

 だが腹は減る、寝床はいる、金は要る。
 必要だから、という理由と善悪を秤に掛けてみれば、それは勿論、やってはいけないと分かっていてもそんなことばかり言っていられないのではないだろうか?

「言い訳だと言われても構わないし、そうだと思う。だからこそ、おれは警官が怖くはない。咎められて死ぬことが怖くはない」

 それだけのことをしてきたのだから、それについて怖いと思う方がむしろおかしいだろう?

「怖いならやらなきゃいい。初めから、こんなことしなきゃいい。そこに勝てる見込みがあって、切り抜ける自信があって、能力があるからやったんだろう? スタンドのせいで、と言い訳してもいい。だがやっていることそのものを消すことは出来ないし、消す気もない」

 その一線でまともでありたい訳でもない。本当に単純に、『そういうものだ』と思っていたし、それは深すぎるほどの自分への嫌悪と軽蔑だった。

「悪いことなんだよ。悪だ。目が見えないから物を盗んでいいのか? スタンドが使えるから人を殺していいのか? 答えはノーだ。だが、要不要の観点で言えば必要だった」

 ぴたりとスタンドの水が有形となって喉元から顔、頬にかけて這ってくる。自分でそう動かしているのに、その動きがどこかぎこちなく思えるのはなぜだろう。

「だから、その価値を、その悪事の価値をDIO様に、あの人に見出された時に、おれは本当の意味で道を踏み外したのかもしれないし、そもそもDIO様さえいなければ、おれは悪事の自覚がなかったのかもしれない」

 スタンドと自分の聴力や感覚に対する評価、価値を認められ、共に来るように言われた時、それは光明だった。
 あの時に出会ったあの人は、あの時も、今でもあまりに強く深く大きく美しい。
 自分には何もなかった。ただ人を傷つけて、生きのびて、寝て起きて、食って、それで終わり。生きる、という意味は生物としての本能か何かなのか。だがゲブ神について考えていた通りに伴侶はいないし、得ようとも思わない。
 死ぬことを恐れることもない。ただ無意味に生きていたそこに価値を見出された時に、だから唐突に怖くなった。

「おれの今までの振舞は、ではなんだったのだろう、と」

 だから。

 ああ、気持ちが悪い。気持ちが悪い。気持ちが悪い。
 こんなことがあってはいけないのに。こんなことをしてはいけないのに。

「おれは今までずっと悪事を行っていた。それを気に掛けなかった。気に掛けないようにしてきた。気づいてしまえば狂うと分かっていたからだ。ただの日々のために人を殺す、そんな平凡で平板な悪が裁かれないことの異常。分かっていた。スタンドのせいだ。スタンドを持っていたから生き残れた。スタンドがあるためにこうできた。誰にも見えない。誰も気づかない。誰かが気づけば止められたかもしれない。だがおれは奪い続けた、傷つけ続けた、殺し続けた」

 だけれども。

「DIO様は違った。このスタンドが見えた」

 初めてのことだった。人を殺すこのスタンドが見えて、だが咎めるではなく、価値があると、共に来いと言われた。

 その時におれは本当の意味で、最も犯してはならない罪に踏み込んだ。

「ああ、この人が救世主だ。おれを悪から救ってくれる」

 それは言葉ほど美しい意味を持たないから、きちんと言い直さなくては。

「おれはこの人に従って、この人のために悪事を働くのだと言えば、自らの悪性を、自らの犯したことを、肩代わりしてもらうことが出来る」

 それは責任の肩代わりかもしれない。押し付けかもしれない。悪の救世主、そうだ。救い主。悪を悪と認め、悪の力が必要だといい、必要だから悪でいいと言われれば、それは悪のままでいていいと、認めたその人がいる限り、自分の悪の在り方を担保されていると『錯覚』できる。

「おれはどこまで罪深いのだろう」

 そんなこと、こんなおれが考える程度のことをDIO様が気づかれないはずがないと知っている。知っているのに、おれはすべての感情を、嫌悪を、罪悪を、DIO様に押し付け、担保していただけば、それが支えになり、あるいはそれで身も心も軽くなり、いくらでもその方のために『スタンド』を、自分の能力を使うことにも、人を殺すことにも何をすることにも何の抵抗もなくなった。

「だがそれは、ただ単におれの中のこの悪性をDIO様に擦り付けて、そうして救われているだけで、何も解決していない、だからおれはあの人を失えば、すべてを失う!」

 おれは死ぬことが怖くはない。当然の帰結だから。
 おれは警官が怖くはない。咎められるのは当たり前だから。
 おれは戦いが怖くはない。勝ち負けや生き死には付き物だから。
 だが、あの人にころされるのだけはいやだ。

「あの人にころされる? そうだ。見捨てられて殺される。その未来がよく見える。DIO様がおれを失うなどありえない! そんなことを考える方ではない! おれがDIO様を喪うなど、それも烏滸がましい! ただすがっていたおれが見捨てられるだけだ、そうして見捨てられたことは即ち殺されるのと同義だ。いや、むしろ殺された方が幾許か救いがあるッ!」

 叫ぶように、吐き出すように、悲鳴のように、嗚咽のように響く自身の声がした。
 ああそうだ。あの人に殺していただけるのなら、手に掛けるだけの興味が残っているのなら、まだ価値はあり、救いはあるのだろう。
 だが、見捨てられ、興味を失われ、価値がないと断じられた時、それはつまり無関心によって『ころされた』ということだ。

「愚かだ」

 おれは泣き出しそうになりながら笑っていた。
 自らの悪の発露を知りながら、それを押し付けて、勝手に救われて、勝手にすべてをあの人に見出したのはおれなのに、おれはまだDIO様に求め続ける。
 求め続け、それに応え続けるあなたが悪いとでも言うように。

「だからおれは、あなたに全てを捧げてでも」

 見捨てられるくらいならば、全てを捧げる。
 自らのすべてを押し付けてしまったのだから、せめて。

「愚かだ」

 もう一度言ってみたら笑いが落ちた。
 大地の神が笑うと、地震が起こると言われていたらしい。それならば。

「笑わないようにしなくては」

 どんなに自分が愚かで、どんなに自分が可笑しくても。

「それがおれの結末なのだから」

「恐怖。強く深く大きく美しい。そうだな、あの方を一言で言い表すならば恐怖。それは間違いではない」

 ならばおれはあの人に恐怖しているのか? ……違う。それは違う、気がする。花京院のように? ポルナレフのように? 違う。おれはおれの意思であの人に『恐怖している』。

「だがそうなると、それは彼らと同じではないのか?」

 そう思ってから、花京院が泣きながら吐き出すように言い募った自身の孤独について思った。
 スタンドがあるために、その『法皇の緑』のために孤独だった日々がDIO様によって埋まったのだと言いながら嘔吐した彼に思った。

 変わりがない、と。

「DIO様に出会って初めて恐怖を感じた。そうだ、恐怖という物自体がおれの中にはなかった」

 生まれついて目が見えなかった。それは手合云々以前として、自分の生まれた階級としても土地柄としても、どうにもならないものだったが、おれにはスタンドがあった。スタンドがあったために、何とか保護される幼年期をやり過ごせば、あとは人を傷つけて、物を盗んで、人を殺してしまえば生き残れた。

「そこに良心の呵責はないのか? と問われればない。そうしなければ生きることが出来なかったからだ。だが、そこに嫌悪はないのか? と問われればある。スタンドがあるせいで、おれは生きることが出来た」

 自分自身への嫌悪、スタンドへの嫌悪、法も警邏も、殺人さえ、何も怖くないという歪んだ背離、今まで生きてきて見たこともない世界への背馳。

「気持ちが悪いと思った。悪というもの、そのものになっていく自分への嫌悪。気持ちが悪い。だがそうしないと生きていけない。生きていくことが出来ない。そうしてその気分に反して、生きていくためにおれの聴力と神経はどんどんと研ぎ澄まされて、スタンドはどんどんと強化された」

 気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い。

 生きていかなければならないのに、生きている世界をおれは見たことがない。その真っ黒でも真っ白でもどちらでも知らないその世界のため、食って寝るためだけの世界。光という概念すらない世界。そこでただ本当に食って寝て、年老いて、今まで殺した誰かのように年老いて死ぬためだけに、今日も誰かから奪うのか?

「気持ちが悪い」

 どうしようもない嫌悪。どうにもならない吐き気。自分自身の悪性の発露の歪み。

 だから。

『すごいスタンドだな。だが、それ以上にそのスタンドをそこまで操る術をどこで身に着けた?』
『……は?』
『うん? 射程も威力も十分だが、おまえの聴力と感覚がなければ何の意味もないし価値もないスタンドに成り下がるだろう、それ』

 当たり前のように言われて、頭を撫でるように触れられた手に、だからおれは恐怖した。その手はあまりに強く深く大きく美しい。見えなくても分かるのではない。見えると確信できた。見えたのだ、と。

 ああ、だから。

「死ぬのは怖くない。しかしあの人に見捨てられてころされるのだけはいやだ」

 あの時と同じように承太郎の顔が見えたような気がした。そうだ、おれにとって死ぬというのは、あの人に見捨てられるということだ。

 あの人に出会ってやっとはっきりと分かった。
 おれが今までやっていたことはやっぱり悪いことだった。
 悪だ。間違いなく悪いことだ。
 何かを盗むのも、人を傷つけるのも、殺すのも。
 そのためにこの力を使うのも、耳が良くなるのも、神経が鋭くなるのも。
 全部全部全部全部、悪い。悪いのに、この人はそれを認めてくれる。
 悪いことなのに、見えないのに、駄目なのに、そこにいてもいいと言ってくれる。なら、この人のためにやる悪いことにした方が、今まで感じた嫌悪や背馳よりもずっと『世界』そのものに馴染めるのではないだろうか?

 それは初めて感じた生きていることの価値であり、生きていることの恐怖だった。

 悪だ。おれの行いは悪だ。それは間違いなく、おれ自身がはっきりと分かっている。DIO様もきっと悪だ。だが、少なくともおれはおれ自身を殺してしまえるほどにはあの人のおかげで世界に留まることが出来た。

「悪には悪の救世主が必要なんだよ」

 おれは確かに悪いことをした。だが、それで裁かれても、罰を受けても、殺されても、少しも怖くはない。それはおれを殺せない。

 なにせ。

 あの人に見捨てられるよりも無様で無残なころされ方が、この世にあるだろうか?

「だからあの人は強く深く大きく美しい、恐怖なんだよ」

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