今年最初にブログに載せるのが永斎になりました。年頭のあいさつとかいろいろあるのですが諸般の事情というやつです(※またなにかやらかしたひさめさん)
追記から永斎の現パロ、転生パロ? みたいな何かです。
行頭字下げ出来ていないです、申し訳ないです、ちょっとエディタ使いこなせてないです、久々に使ったら本当に久々でした。
楽しかったです。この二人本当に楽しい、仲良く喧嘩していてほしい。
今更
大学四年の夏、僕は初めてそこに来ていた。
「ていうか、三年どころか二年くらいから就職活動っておかしいでしょ。インターンシップ? なんでもいいけど」
僕もご多聞に漏れず、と言いたいところだけれど、良いか悪いか知らないが、実家のある土地の地方公務員と決め打ちしていたので、特にそういったこともなく採用は決まっていた。
「まあ食い扶持があればいいかなー、くらいの」
上京してこれか、と普通なら言われそうだが、むしろ上京しても帰ってこいと言われるのは限界地方の性なのかなんなのか、と思いながらふらふらとその夏の休日に「最後だから」と言い訳したその場所に、電車を乗り継いでやってきた。
「ずっといたんだよな、僕」
……そこには昔、新選組という治安組織だかなんだか知らんが、剣術使いの多くいた組織の生き残りで隊長格だった永倉新八という男が主になって、それから斎藤一というこれまた隊長格だった男まで関わって建てた墓があった。墓というか供養塔というか、まあ、墓だ。
僕は上京してからずっとここに来ようと思っていたけれど、なんとなくいろいろな理由をつけたまま来ないでいて、そうして結局、地方に帰るということになるその夏、新暦の盆のあたりになってそこを訪れていた。
「来なきゃよかった」
駅を降りて、それからぽつりとつぶやく。そこまで来て怖くなった。
……盆に来たらマジみたいで嫌だった。だけどそもそもここに来ること自体が、と思いながら足は止められないまま雑踏に紛れるようにそこに近づいた時に、僕は息を呑んでそれから、その墓の前に立っていた男の背中に声を掛けていた。
「あの、ここの方ですか?」
「あ?」
振り返った男は記憶の中と寸分違わぬ姿をしていた。白、銀に近いのに、それよりも白と呼びたくなる綺麗な色の髪に、薄い水色の瞳。顔に着いた傷の位置まで同じなのはこの現代で何があったのだろう?
「違うけど? 管理の人なら別にいるんじゃねえの。悪いが俺は知らん」
素っ気無く答えた声もそのままで、泣き出しそうになったこちらをじっと見ているその『永倉新八』という男が、だけれど『永倉新八』である保証はどこにもないんだ、と僕は突きつけられていた。
でも、それでもいい。
ずっと怖かった。
僕には、不明瞭でも何でもない確かな記憶があった。この現代の史実と同じかと言われれば違うのかもしれない。だが、新選組という組織で三番隊の隊長をやっていた『斎藤一』という男だった記憶。
そうして、この墓を建てて、自分の名前を刻んだ記憶があった。
だからずっとここに来たくなかった。来てしまえばすべての失ったものをもう一度認めることになるような気がしていたから。だけれど、それでも決意して最後だからとやってきた目の前に、その墓を一緒に作った男がいるなんて、それだけで釣りが出るような奇跡だ、と思ったら、気が付いたら泣いていた。
「すみません、なんか、もう十分ですね、これ」
「あのよ、人の顔見て泣くとかすげえ失礼だと思わねえか、しかも墓の前で」
「そ、ですよね? すみません、ちょっと止まらなくて」
「そういうところがクソガキだって言ってんだよ、斎藤」
「……は?」
何言ってんだコイツ……?
*
そのまま供養塔に挨拶をして、それから近くのどこにでもあるコーヒーショップに連れていかれた。推定新八はクソ暑いのに冷房が入っているからという理由でブラックコーヒーを飲んでいた。デカいサイズのヤツ。
僕は気が付いたらなんか目線読まれて新八が買っていたものを飲んでいる。暑いなあとか、美味しそうだなあとか現実逃避気味に思ってはいたけど……。
「甘そうなもん飲んでんなあ」
「おまえが、勝手に、会計したのな⁉」
「そうだっけ?」
「うっざ! 変わってないどころか悪化してんじゃねえの? 若いのにボケてんじゃねえの⁉ おまえもあまいもん好きなくせに!」
「変わってない、か」
そう言われて僕はハッとした。当たり前のことみたいになっていたけれど、それは多分僕が一番恐れていたことだ、と。
「今更だけどよ」
「おう」
「おまえ、新八? それ、地毛?」
「……おまえの考えてる答えになると思うが、俺は永倉新八だな。夏ってかこの時期に休み取れたらあそこに行くことにしてる。観光客も多いからそろそろ無理かもしれんがな。ていうか今年で終わりにするかも」
「ほん、とに?」
「記憶もあるぜ? あの墓建てたのが自分と松本先生とそれからおまえだっていうのも覚えてる。そんでついでの質問にも答えれば、これも相変わらず地毛だ。目もな。職業病だからこっちも答えるがアルビノとかそういうんじゃない。単にこういう色ってだけで色素異常はないな」
一気に流れ込んできた情報と、それから懐かしさと悲しさと悔しさというぐちゃぐちゃな感情に、僕は墓の前でそうだったようにまたぼろぼろと泣き出していた。
「僕だけじゃなかった」
「おう」
「しかもなんでそれが新八なんだよ」
「まあそこはご愛嬌ってやつじゃねえの、元カレだし」
「うるせえばーか!」
そう言ったら頭を撫でられた。
「ちなみにおまえのこの髪はどうなんだ? 今時の大学って青とか許可されてんのか、すげーな?」
「……青に見えるのか?」
「青以外あり得んだろ」
髪をかき混ぜてそう言う新八に、僕は少し……いや、かなり驚いていた。この髪の色を正面切って青なんて言うヤツは珍しい、というか元が青だと分かっていないと青とは言わない気がしたから、そんなところで「本当に新八なんだ」と思えてしまったから。
脱色に失敗した黒だとか、傷んだ色だとかじゃなくて、青だとはっきり告げられて、余計に泣き出したくなるなんて馬鹿みたいな話だ、と。
「青、だよ」
「ふうん。相変わらず柔らかくていいな。暇なら今晩寝るか?」
「情緒!」
「そんなもんねえだろ、俺ら」
「今は欲しい!」
言ってしまってから「あ、やべえ」と後になって思った。これじゃあ今でも好きだって言ってるのと同じみたいだ、と。
「『今は』って、はじめちゃんは今も俺のこと好きなの?」
笑って問われて、本気でそう聞こえてんじゃねえか、と顔が赤くなるのを感じた。
それと同時に血圧下がってないかこれ、とも。
だってたまたま再会したのが供養塔ってか墓の前で、その相手にも記憶があって、それが昔の情人だった、なんてそれだけですげえ奇跡みたいな話だけどさ。
それだけで僕には十分すぎる、釣りが出ても、むしろその釣銭の方が高額商品になりそうな話だけどさ。
「袖振り合うも他生の縁ってやつで、一晩きりなら、昔みたいに寝てやってもいいよ」
だから思いっきり馬鹿にするみたいに、新八を、というよりは、自分自身を思いっきり馬鹿にするみたいに言ってやった。
今の新八も、相変わらず僕より年上で。
家族がいるかもしれなくて、たまたま会った大学生に記憶があったからって、そんな馬鹿なクソガキが昔の恋人だったからって。
そう思った瞬間に、スパンと頭を引っぱたかれた。
「ク・ソ・ガ・キ。ぶちのめすぞ」
「え、あ……すみません」
やっぱりそうだよなあと我に返って素直に謝ったら、新八は今度こそ盛大にため息をついてコーヒーを飲んだ。
「そういうふうに謝れとも言ってねえわ。勘違いしかしてねえクソガキ、斎藤のそういうところ一つも治ってないから安心した」
「……は?」
そう言って新八は相変わらず嘘を一つもつかないと分かる薄水色の瞳でこちらを見て、それから名刺大の……いや、名刺を叩きつけて立ち上がった。
「俺、明日で休み終わりだから帰る。じゃあな」
「あ、の」
「大学ガンバって卒業したまえよ、無敵のはじめちゃん?」
そう言って新八は立ち上がって振り返りもせずに店から出て行った。
これじゃいつかと同じだと思ったのに、僕は……。
*
『斎藤は来るか?』
『は……?』
新八の頭に血が上ったってんで、原田をやるって副長が、それで、だから、新選組はもうなくて、だって、でも。
『そっち、原田で、だから』
『あっそ。じゃあな』
行けないとも、行かないとも明瞭には答えていないのに、新八はあっさりと、引き留めることも、言葉を重ねることも何もせずに行ってしまった。
体の関係だとか、情人だとか、そんなのどうでもいいと思われたことが嫌だったのではなかった。
だって。
『そんなのどうでもいいって言ったの、僕じゃん』
選ばなかったのも、捨てたのも、新八のせいにしたのも。
『結局、僕じゃん』
*
だから供養塔を建てると言われた時に互いに妻子がいたのは良かったのかもしれない。
互いに? 違うだろう、僕にだ。
話をしている時も、新八は昔のことには『新選組であったこと』以外には触れはしなかった。
そんなの当たり前だろう。
なかったことにしたのは僕なのだから。
むしろ、なかったことにしてくれたのが新八なのだから。
何を期待していたのだろう。
『馬鹿みてえ』
*
叩きつけられた名刺を見るのは怖かった。きっとどこか連絡先でも書いてあるのかもしれないが、どうにもこうにも、なんと言えばいいのか。
「今更」
そうだ、今更だ。
記憶を持った数奇な関係、かもしれない。
本当にたまたま出会って、たまたまそこで見かけたから、コーヒー奢ったから、なにかあるんじゃないか、くらいのそれだったのかもしれないし、社会人なら名刺くらい持っていても当たり前なのかもしれない。
「休みには来るって言ってたし……でもそれも今年で終わり、か」
そんなことも言ってたな、と思いながら荷造りをしたそこでもまだ読めていなかった名刺を最後にスマートフォンのケースに入れてみる。自分でも未練がましいとは思うが、いつか何か、連絡できるかもしれないし、と。
「僕もどうせ、行かないだろうし」
会えて良かった、くらい言えれば良かったな、とやっぱり今更のように思いながら、僕は大学時代を過ごしたアパートを後にした。
*
「人手の問題はあるんだけどね……課長さんから聞いてる、よね?」
「大丈夫です、聞いてます、大丈夫です!」
限界集落に近い町の地方公務員、一応採用された後の試用期間や研修はあるが、配属先は選べないというよりもそもそも自治体自体が限界である。
「ごめんね、昨日までここに係長さんがいたの、斎藤君がいないと次は部課長クラスがいることになるの、マジで」
看護師長さんに言われてうなずく。5月、僕よりも寝てない可能性のある配属先の健康福祉課の課長に言われたのは『初年度からで本当に申し訳ないんだが、病院でもいい?』だった。町立病院の内勤、というか、町役場との調整や書類の管理、もちろん僕自身には看護師の資格や医師の資格はないからそういうことは出来ないが、事務方の仕事をすることになる。町立だから町からの出向、というよりは町職員の仕事、という形らしい。
「一年目くらいは役場の方がいいと思うんだけどねえ、人がいないの、人が」
そう言いながら師長さんは病院の一通りの設備やPCや書類の説明をしてくれた。
「あ、この人斎藤君。今年から担当です」
「よろしくー、歓迎会とかいつにしますか?」
「それ誰に決めてもらおうかあとでね、先生とか都合つく人も聞かないとだし。あれ、レントゲンとか技師さんとか教えたっけ? 私も段々分からなくなってきた……」
看護師さんたちとはまた違った揃いの制服の皆さんにも挨拶をして、ああそうか、会計や窓口は外部委託なのか、とメモを取る。師長さんもだんだん大変そうになっていてマズイぞ。引継ぎである程度の資料をもらっていたし、理解していたつもりだが、一旦自分でもまとめておかないと分からなくなるなこれ。外来や病棟の先生と看護師さんは町職員の形で、窓口は外部委託で、薬剤師さんや薬局はどうなるんだ? 確かにけっこう複雑というか、人足りてねえな、とメモを取っていたら、ふと肩を掴まれた。
「大丈夫ですかね、これすげーアホに見えますけど? 記憶力とか問題ありすぎて書類ミスられても俺のせいにされそうで嫌なんすけど」
「……は?」
「新八君……じゃなくて永倉先生は年が近い子が来たからって絡まないでね、ヤンキー気質抜けてないの分かってたけど……パワハラって言うの、そういうの」
「サーセン」
「え……?」
そうだけ言って白衣で白髪の男がドサッとカルテではないな、何か書類を置いていった。そうか、医者も書類を扱わざるを得ないほど回っていないのか。そうだな、いくら馬鹿の新八でもこんなに雑にカルテを扱ったりしないだろう。僕だってそう信じている……が……?
「誰がアホだ! 誰が今更おまえみたいな馬鹿のせいにするか!」
「うわー⁉ 斎藤君やり返すタイプだった⁉」
「うるせえ、黙れ! せいぜい俺の下でキリキリ働け!」
「新八君もやめて、斎藤君が新卒採用で即辞めちゃう!」
*
「信じられない」
などということがあった町立病院勤務初日の夕方、退勤後に内科検査室に呼びつけられて、僕は仕方なくスマホケースに入れておいた名刺を取り出してみた。
そこにあったのは、この病院の名前と、外来、内科・外科担当医永倉新八とかいうギャグみたいな名前だった。
「頭おかしい」
「おまえの頭がおかしいんだよ、名刺やったんだから読めよ……」
「え、医者? うそでしょ、おまえ馬鹿だし……」
「うぜぇ……ここの院長の放蕩息子だよ。自分の食い扶持さえあればいいんで医者といってもそこまでの金はいらんし、住処はやるからって言われたんで一昨年だかに来た。基本は内科。外科は……」
「……人体の急所が分かるから医者になろうとか」
「ご明察」
そう言って新八は僕の方を見た。
「……夏前から懐かしい名前もあるもんだと思ってた」
「新卒採用的な?」
「まあな。そんで、夏にあそこで会ってこれはマジかもしんねえなと思った。運命とかわりと信じないタイプなんだけど」
「……何言ってんの」
「記憶があるだけならまだいい。だが、それがおまえで、恋人だったおまえで、しかも別れて逃がした恋人で、再会場所がそんなもん清算しちまったようなあの場所だった。そんで渡した名刺に意味があるとも思ってなかった」
ああそうか、と今更のように思った。そうだよな、名前が同じでも、ここに来るのが僕だとは限らない。僕にしたってそうだ、あの日あの時記憶があった新八が、またここにいること自体がやっぱり奇跡みたいなことなんだ。
「ご、めん」
「謝んな。謝るなら俺の方だろ……悪かった」
新八に言われて涙が止まらなくなった。謝らないでほしいのに、やめてくれと言いたいのに、頭を撫でられたらもうどうにもならなくなるのは僕が弱いからだろう。
ずっと守られて、彼のせいにして、彼に甘えて。
「こんなことあるもんなんだな」
「う、ん」
うなずいて、だけれどその先は言わせたくなかった。
これ以上謝らないでくれ。
これ以上言わないでくれ。
これ以上、これ以上、これ以上。
「お、い?」
「ごめん」
気が付いたら新八の手を退けて口付けていた。新八に言われるのも、言わせるのも嫌だった。また同じことの繰り返しになるようで、また新八のせいにするようで。
「これだとまた、僕が選ばないで済むようにおまえはしてくれるから」
「おまえな」
呆れたような新八の、それでも優しい瞳に言った。
「僕と付き合ってくんない? ていうか付き合え」
「可愛くない告白どうも」
笑った彼に今度は着いていくという選択が出来ているならいいと思えた。
「これ以上新八のせいにしたくない」
そう言ったら新八はおかしそうに笑った。
「馬鹿だな。おまえはもう逃げられない」
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2026/1/14
田舎の永斎はいいですね。永遠にそこにいろ
こういう状況ではじめちゃんから告白もありだと思いました。
「物をぱらぱら壊す」作詞・作曲きくお様 初音ミク