秋葉原


「無明三段飛ばし!」
「甘ぇ!型なんざいらないんだよ!」


……


「大人げないわ、とても」
「で、でも見てクロ!ほぼ直線で、エアホッケーなのにパックが浮いたのを流れるみたいに返してる!牛若丸さんみたいに!」
「あのね、イリヤ、だからって宝具までは牛若丸さん使ってないし」
「そ、それは…あれ直撃したらどうなるんだろう」
「死ぬと思うよ」

 ぽつんと美遊が言った。沖田さんも最近来たワイシャツの人も(スーツを脱いでいた)どうかしている、遊びの範疇を越えてる、とクロエは呆れながらエアホッケーに興じる新選組の一番隊隊長と三番隊隊長を見つめた。牛若丸さんが後ろでうずうずしてるの怖い、と思いながら。





「あれ、沖田ちゃんもゲーセン来てんの?」

 ばったり会った沖田に(ばったりではないのだが)、へらっと斎藤は笑いかける。子供たち相手にエアホッケーをしていたところだった。

「あれ?斎藤さんは土方さんとエロ本漁ってるとばかり」
「どういう認識なの!?あとその子たちの教育っていうか僕の印象が悪くなるからやめて!?」
「大丈夫ですよ、サラリーマンさん」
「その呼び方やめてねー、一ちゃんでいいよー」

 かがんでクロエににこっと笑いかけたら沖田が三人を背中に隠す。

「ほら、これが駄目な大人の男の典型ですよ。遊び人を自称してますから近づいちゃいけません。きっとメイド喫茶よりきわどいところの帰りでしょう。島原みたいな。あと斎藤さんは小さい子にも手を付けようと」
「だから、そんな場所は秋葉原にないし、印象が悪くなる!新参者なのに!」

 斎藤は言ってスーツを脱ぐ。

「そんなに言うなら相手してよ」
「うわ、脱ぎやがりましたが。青少年の育成に良くないのでコテンパンにしてやりますよ!」

 そうして話は冒頭に戻る。





「はい、ドロー、引き分けですね」
「牛若丸さん、この人大人げないですよね、宝具で軌道を変えてましたよ!」
「それ言ったら沖田ちゃんもずっと宝具使ってたじゃないの!」
「二人ともとても大人げないですが、遊びに手を抜かない姿勢は私も見習わねば!ということでお三方!続きやりますよ!」

 牛若丸の元気な声に、少女三人の悲鳴がこだました。





「いやー、なんか久々に遊んだ遊んだ。こんなのあるんだね。コンピュータ系ばっかりかと」
「あれ?斎藤さん知っててここを休憩場所にしたのでは?」

 それにぐっと斎藤は言葉に詰まる。

(いや、正直副長と一緒にエロ本漁るのもいいかなって思いましたよ、本気で今どきの二次元すげぇもん!でもへそくりマスターちゃんに払って(あ、エロ本とエロゲの分は残してある)沖田ちゃんがよく休憩してる場所聞いたとか言えない雰囲気っていうか言える雰囲気なんてどの時空にも存在しねぇよ!)

 という言葉を飲み込んで、彼は言った。

「あー、いや、ちょっと通りかかって。たまにはゲームでもと」
「よくカルデアでやってますよね?」
「アレは違う!!」

 エロゲだから、と言いかけてやめる。当たり前だがそんなこと彼女は知らない。

「エルメロイさんが感心してましたよ?自分は興味のないジャンルだが、全ルート?やるのはなかなか解放自体が?難しい?」
「そーね、最近の二次元凄いと思う」

 目を逸らしながら言った斎藤に首を傾げて、でもいいか、と沖田は言う。

「ちょっと喉も乾きましたし、隣行きませんか」
「え、隣ってメイド喫茶よね?ちょ、どういうこと?沖田ちゃん?」
「え、だからメロンソーダでも飲もうかと」
「だめ、モテちゃう!メイドさんに沖田ちゃん取られる!」

 ていうかメイド喫茶によく行くの!?と叫ばれたので沖田はやっぱりきょとんと返す。

「え?はい。お食事美味しいですし、メイドさん可愛いですよ?」





「噛み合ってないわ」
「サラリーマンさんちょっとかわいそう」
「そんなものかもしれないね」

 少女たちから憐みの視線を向けられていることなんて彼は知らない。


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イベント「アキハバラ・エクスプロージョン! 〜願いの街と愛を刻まれた彫像たち〜」より。

2021/3/25