僕が結婚できない理由
「しょうらいのゆめはさいとうさんをおよめさんにすることです」
「はい却下。ていうかどこで覚えたのこの子」
「きゃっか?」
「ダメだよって意味だよ」
「どうしてですか?」
「僕が男で沖田ちゃんが女の子だから、かな。僕はお嫁さんになれないの」
はぁ、頭が痛い。どういう発想をしたら僕がお嫁さんなんだ。というかこのアグレッシブさはどこから来てるんだ。
お隣さんの沖田さんちの総司ちゃんのアグレッシブさには毎度毎度驚かされるが、遂に僕を嫁にすると言い出したあたり、誰の差し金か分からないが、発想が飛躍し過ぎである。
「そんなことありません、さいとうさんはかわいいですからおよめさんになれます」
「お墨付きありがとうね、嬉しくないよ」
はぁ、ともう一度ため息をついて言ったら、ぽかんとされた。いや、なんで。
「うれしく、ない?」
「……青天の霹靂みたいな顔されてもね……」
「おきたさんではふまんですか……?」
いや、別にこの子が不満ってわけじゃなくて根本的に僕が嫁になる前提で話進めるのやめようぜっていうだけなんだけど、まあいいか。どうせ子供の遊びだし、二、三年すれば忘れるだろっていうか将来的にくたびれたサラリーマンになるくらいしか道がなさそうな近所の兄ちゃんなんて捨てられて当然ですから別にいいか、もう。
「不満じゃないけどね」
「じゃあおよめさんになってくれますか?」
「いいよー」
ヘラっと笑って答える。ちょっと虚しいなあ、この美少女に嫁扱いされても数年後には捨てられる運命、というか嫁、嫁さんかぁ……
「僕、結婚できるかなぁ……」
ふと思って呟いたらキッと睨まれた。
「すでにうわきのけいかくですか?」
いや、浮気っていうかどうせ捨てられるし……うん、幼女に捨てられる心配して虚しくなってるような男が結婚とか考えない方がいいな、色々と。
「浮気なんてしませんよ、そんなこと出来るほど器量も良くないし」
「さいとうさんはようりょうがわるいのでうわきしたらすぐきづきます」
何この子怖い。
「だからおきたさんいがいみてはいけませんよ」
いや、まあ先に捨てるの沖田ちゃんの方だと思うよ、という言葉を飲み込んで、僕は沖田ちゃんのなかなか進まない算数の宿題を見てあげる作業に戻った。
*
「だから沖田さん以外見てはいけませんよ」
「はい?」
「斎藤さんは器量が悪いと言うか要領が悪いので浮気できないのは知っていましたが、ヘラヘラしてると女性は寄ってくるんです。そろそろ本格的に結婚しましょう」
「あの?」
「『いいよー』って言ったのは斎藤さんですからね?」
式場はどこがいいですかねぇ、と楽しげに言われて僕は固まった。あの口約束というか、僕は結局こうなるのか、結局。
「三十路男のどこがいいの」
「全部ですけど」
「ヤダかっこいい」
ぼくがけっこんできないりゆう。
2022/3/20