出られない部屋
「「セックスしないと出られない部屋……」」
僕と沖田ちゃんの声が重なる。カルデアにはこう、こういう魔力リソースの無駄遣いみたいな事象がいくつもあると聞いてはいたが、約一年でその「無駄遣い」については重々承知……というか分からせられた。ただでさえ世界の危機だというのにこのカルデアどうかしてる、と思うことが一年間で何度あったか。
そうしてついに、無駄の中でも最も無駄だと思っていた「○○しないと出られない」系の部屋にぶち込まれたワケか……。ちらりと隣の沖田ちゃんを振り返る。顔を真っ赤にしてあたふたしているその姿は、確かに年頃の女の子だろう。だが、問題がある。大いにある。
「ねえ、一応、ちなみに、本当に確認のために聞くんだけど」
「は、はい?」
裏返った声で返してきた沖田ちゃんにかなり不安になりながら、しかし聞かない訳にはいかずに聞いてみる。
「沖田ちゃんってさ、セックスの意味分かる?」
敷かれた一組だけの布団を最早生気の失われた目で眺めながら、僕は彼女に訊ねた。そうしたらバンッと背中を叩かれる。いってーな。
「ば、馬鹿にしないでください!好き合っている男女が同じ布団で寝ることでしょう!?お、お、沖田さんだってそのくらい知っています」
ハァァァァァァァァァァ……………。
「ごめん、頭痛くなってきた……」
だいたい予想はついた答えだったけど、あまりにもひどい。あまりにも馬鹿だ。あまりにも……死にたい……。
なんなの、セックスについて説明しなきゃいけないの?嘘でしょ、保体の授業かよ……ていうか説明……説明してやるのか?あまりにもアレじゃないか?僕ただの変態みたいじゃないか?いや宝具とか思ったけど神霊クラスの宝具でも開かないらしいから道はないんだよなぁ……ほんとに魔力リソースの無駄遣いだと思いますよ、と現実逃避気味に考えていた時だった。
「ほらー、早くさいとうさんもお布団入ってくださいよー」
「ギャース!何入ってんだおまえは!」
沖田ちゃんがさも当たり前のことのようにその「一組しかない」布団に入っていた。おまえ、本気で馬鹿だろ……。
「変な鳴き声しないでくださいよ。一緒に寝て早く出ないと」
一緒に寝て、早く出る……。
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどここまで馬鹿だと思わなかった」
「なっ!?失礼ですね!早くお布団に……」
……そういやコイツ、好き合っている男女が同じ布団で寝ることをセックスだと思ってたよな。性交ってそういうもんだと思ってたってことでいいんだよな。好き合っている男女……。好き合って……ソウデスカ。
そう思ったらプツンと脳内の何かの回路が音を立てて切れた。
「ギャース!何服脱いでんですか変態!」
スーツを脱いで、ワイシャツを脱いで、それからスラックスも脱いでいたら、悲鳴を上げられる。うるせーな、もうなんかどうでもよくなってきたんだよ、こっちは。
そう思いながらするっと布団に入って、彼女の着物の前をはだける。
「そうだよな、とっととセックスしてこの部屋出るぞ」
「あ、の?服を脱ぐ必要性とは?」
……実践だ実践。うちの道場もそんなもんだったろうが。
2021/11/10