キス
「機嫌直して。あと熱いから気を付けて」
そう言って紅茶を渡す。砂糖とミルクをこんなに入れたらもうなんか元の味分かんねぇ気が僕にはするけども。
「ありがとうございます」
そう言って沖田ちゃん専用のマグカップを握り込むようにして、彼女はこくこくとそれを飲んだ。
というか、だ。
狭い部屋に専用のマグカップを置いて、自分ではたまにしか飲まない紅茶に、それからコーヒーに入れることもない砂糖だのミルクだのを置いておいて。
「はぁ……」
「なんでため息つくんです」
思わず大きめにため息をついてしまったらゆっくりその甘ったるそうな紅茶を飲む沖田ちゃんがきょとんと聞いてくる。そうしてそれから言われた。
「というかため息つきたいのは私ですよ。毎度毎度、ここまで嫉妬癖が激しい人だと思わなかったと言いますか」
というか猫扱いってどうなんですか、しかも雌猫とか言葉のチョイス!と叫んできた沖田ちゃんにもう一度ため息をつく。
「うん、まあ……そうですね」
応えて空になったカップを見る。もう一杯コーヒーを飲もうとも思えなかった。そうしてそれから思い出す。ああ、そういえば、と。
「沖田ちゃん、紅茶飲み終わった?」
「?」
きょとんと首を傾げた彼女の座るベッドの横のサイドボードに彼女のマグカップを取り上げるようにして置く。聞いたのはこちらだが、まだ中身が少し残っていたのも知っていたから、零さないように気を付けて。
「んっ」
そうしてから彼女の頭を軽く引き寄せて、口づける。甘ったるい。やっぱりもう紅茶の味なんてしない、と思いながら。
縮こまった薄い舌を引きずり出すように絡めて、少し抵抗するようにした沖田ちゃんの柔らかい髪を撫でて、ぴちゃ、とわざと水音を立てて口内を犯す。
「ふぁっ、んっ」
「んっ」
つうと唇を離して、それから上気した顔の彼女にマグカップを持たせる。もう冷めてそうだけど、真っ赤な顔を誤魔化すように彼女は残ったそれをこくこくと飲んだ。
「なんですか、急に」
「昨日、キスしてなかったなあって思い出して」
笑って言ったら、沖田ちゃんは怒ったように、それでいて呆れたように言った。
「どーせ、猫ちゃんの躾にキスなんていりませんもんねー」
ふいっとそっぽを向いて言った彼女に、自分でもやりすぎたなあ、なんて思いながらもう一度その頭を掻き抱くようにして口づける。
「ふっ、ぁ」
「甘い」
その狭間でつぶやきながら角度を変えて何度も差し込んだ舌や、合わせる唇に、段々と理性が溶けたようにとろんとしてくる沖田ちゃんの顔に満足して、唇を軽く舐める。やっぱり甘い。
「ちゃんと言うこと聞いて最後まで頑張ったんだから、ご褒美いっぱいあげないとね」
笑って言ったら、沖田ちゃんがこてんと首をかしげる。可愛いなぁ、ほんと。
*
「んっ、ふぁっ、らめ」
「胸にもキスしたいなあって」
駄目?と彼女の胸を舐めていたそこから上目遣いで聞いてみれば、俺の頭を抱き込むようにして耐えるようにしていた彼女が上気した顔でぎゅっと目を閉じる。
「ずるい、です」
「なーにが?」
そう言って軽く頂きに口づけて、それから歯を立てたら、びくびくと体が震える。アレだなあー、ほんと。
「イっちゃった?」
「聞かないで、ください」
ふるふると首を振る彼女をゆっくりとベッドに押し倒す。昨日みたいにヤルのも好きなんだけどさ、本当はこうやって甘やかして甘やかして、そういう方が好きなんだけど。
「じゃあこっちに聞いちゃう」
「ひあっ」
だけれど、どうしても他の男といるのを見ると、やらかしちまう自分の狭量さが可笑しいくらいに思えた。しかもそれが、坂本だの岡田だのと、昔だったら有り得ん面子なのが余計に、なんて嫉妬にまみれた言葉を言うのはどうにもそれだって可笑しい、と思って少し笑いながら、彼女の太ももに口づける。
「んっ」
「可愛い、やっぱり」
「しゃべら、ないで、そんなところで」
切れ切れに言った彼女に構わず、ゆっくりと花芽に近づきながら口づけを落として、鬱血を残す。
「そんなところって、ここ?」
笑ってとろりと蜜を零すそこに息を吹きかけたら、ふるふると彼女の体が震える。可愛い、本当に。
「答えてくれないなら、ほんとにこっちに聞いちゃうよ?」
「ひゃうっ!」
そう言って彼女の秘所に口づける。とろとろと零れる蜜を啜って、軽く陰核に歯を立てて、舌で舐ったら、たまりかねたようにこちらの頭を抱き込んで、必死に快楽を逃がそうとする彼女が本当に可愛いくて仕方がない。
「らめっ、イっちゃいました、から!も、おわり、です!」
必死にそう言ってきた沖田ちゃんにここで終わりなんてひどいなあと思いながら軽く髪をかき上げて、そこから口を離した。
「まだキスしたりない」
「なに、言って!」
「どーせ今日、俺たち非番だし」
非番っていうかオフっていうのか?昔の癖で非番なんざ言っちまうが、まあ二人とも周回のシフトに入ってなかったし。入ってなかったから昨日の飲み会に沖田ちゃんは参加したんだろうし、だから俺も抱き潰したんだし。
そう思いながら、つうとそこを撫でて、軽く指を入れる。
「だめ、です!昨日散々!」
「ナカもいっぱいキスしてあげたいから、いいでしょ?」
ご褒美、とそれに弱いのを知っていながら耳元で囁いて、軽く指を折り曲げる。トントンと彼女の感じる場所を探るように刺激すれば、あえかな声を上げて指を締め付けてくる。
「指でするキス、気持ちいい?」
わざと羞恥を煽るように訊ねて、荒く息をつく彼女の唇を奪う。
「でも、こっちもね」
「んっあっ」
上の口にもキスをして、いくらだって甘やかしたくて、そうしてゆっくりと指を増やしていろいろな箇所を刺激する。とろとろと愛液が零れるたびに、こちらの指を締め付ける彼女の胎内も可愛くて仕方ない。
「も、何回も、イってるから、むりです!」
「知ってる」
「ひゃい!?」
びくびくと震える彼女に平然と答えたら跳ね上がるようにして逃げようとする。それを抑え込むようにして、彼女の痴態のおかげで十分硬くなった自身をそこに宛がう。
「でも俺はまだイってないからさ」
「ふやっ」
「それに、こっちもキスしたいなあって」
ぐちゅ、と軽く先端を挿れたら、真っ赤な沖田ちゃんが相変わらず恥ずかしそうに震えるのが見て取れた。いつまで経っても慣れないな、そういうところが好きなんだけど。
「一応言っておくけど、俺、猫とキスする趣味ないよ?」
「ここでそれ言いますか、あなたは」
困ったように、呆れたように言ったそれは許可だって取っちゃうからね?と思いながらゆっくりと自身を押し入れる。
「んっあっ、やうっ」
「ゆっくりやるから、ちゃんと息して」
「は、い」
額に口づけてそう言えば、とろんとした顔で受け入れてくれるから、ほんとにさぁ。
首輪付けて、飼い馴らさないと、どこでもかしこでもこんな顔しそうで心配になるの、今のおまえは。
昔みたいに触れたら切れる刃物のような方が良かったわけじゃないけれど、だけれど少しだけ、本当に少しだけ心配になる。
嬉しいのに心配になる自分が馬鹿みたいで、それを隠すようにしている自分も馬鹿みたいで、本当に。
「悪いコだなあ」
「……?」
「なぁんでもないよ?」
そう言ってゆっくりと絡みつく肉を拓いて奥の奥まで自身を入れる。
「あっ、おく、だめっ、ふぁっ!」
「駄目じゃなくて好き、でしょ」
そう言って下がってきたそれをトントンと可愛がる。
「このキスも大好きでしょ?沖田ちゃん」
「ふぁっ、おく、らめ、れすっ」
舌っ足らずに言ってくる彼女に構わずトントンと何度も刺激していれば、開いた口がこちらに吸い付いてくる。
「えろ」
「ふやっ」
一言言ったそれに真っ赤になった彼女に笑って、吸い付くそこに何度も口付けるように、戯れのように可愛がれば、もう限界だというように沖田ちゃんがしがみついてきた。
「も、駄目ですってば」
「ん。俺もそろそろ限界」
「じゃ、もうキスおしまいです」
「お姫様の仰せのままにってね」
そう言って殊更強くその唇に亀頭を押し当てて、圧迫するように刺激すれば、彼女はあっさり達してこちらを締め付ける。だからそのまま、子宮にドクンと白濁を撒いて、栓をするように、最後の一滴まで塗り込むようにぐちゅ、と捏ねまわしたら、びくびくと震えた沖田ちゃんがもっと強くしがみついてくる。
「はい、おしまい」
射精しきったそれをずるりと抜いて、ぽんぽんと頭を撫でたら、不意に彼女から口づけられる。
「んっ、っとぉ?」
「大丈夫ですよ」
軽く合わせただけのような、甘い味のする口づけの後に、彼女は笑った。
「どこかに行ったり、しませんから」
本当に、どこまで分かって言ってるのか知らないが、いろいろと困った話だ。
おまえは大人しい飼い猫になんてなってくれない。
それは俺が一番よく知ってるからさ。