五本指ソックス
「なにそれ?足袋?」
「五本指ソックスです」
「は……?」
沖田ちゃんがほわっとした顔で僕のベッドに座っていたから、何かあったのかな、と思っていたら、足元がいつもの足袋でも素足でもなくよく分からない靴下だった。それがほわほわした顔の原因とは到底思えないけれど一応突っ込んでおいたら(だってベッド占拠されてるし)、ふふふと彼女は笑った。
「これを履いていると脳の思考回路が分断されリラックスできるとパラケルススさんが」
うわ、絶対ガセだ。でもなんというかどこかぼうっとリラックスした状態の彼女は、なんだっけ?えーと。
「プラセボ?」
「?」
不思議そうな顔で見返された。プラセボ?プラシーボ?とにかくリラックスはしているらしい。
「なんでまた急に……?」
「最近ちょっとDVDの見すぎで疲れていまして」
「何見てたの」
「ジ〇リです」
なんでちょっとチョイスが可愛いんだろうね、と思ってから、思い出す。
「気に入ったの?ト〇ロ」
この間部屋に誘った時に何とはなしに恋人っぽいことをしようというだけでライブラリから借りてきた映画のタイトルを言えばこくこくとうなずかれる。
「それからマシュさんにヘッドセットをお借りしてどこでも映画を見ていたのですが、ものの〇姫とナウ〇カを連続で見たのがちょっと涙腺と脳の処理速度にダメージを与えてしまい」
「いや、ヘッドセットが多分一番ダメージ与えるからやめなさい。テレビとゲームは一日の限度を守りなさい」
「お母さんみたいなこと言う!」
そう言って沖田ちゃんはぱたぱたとその五本指ソックスを履いた足をベッドにぶつけた。
「しかしこれがあれば脳が休まります」
「休まりません」
なんでこんな詐欺まがいの商売に、というかパラケルススさんそんな商売やってんの?そういう非科学的なこと絶対しない人に見えますけども。
「そういえばパラケルススさんも『ひけんたいになってください、ぷらせぼの』っておっしゃってタダでくれましたが、ひけんたいもぷらせぼもよく分からない沖田さんでした」
「いい被験体だと思うよ、ここまで来ると」
そういう事情か、と思って大きく息をつく。なんだって言うんだ、本当に。
「それで聞きたいんだけども」
「はい?」
「なんでここにいるの?」
「え?」
不思議そうに返される。なんでって、だってそうでしょうが。リラックスできるらしい靴下を履いて、なんでまた他人様のベッドを占拠してるワケさ。
「だから、なんで僕のベッドにいるかって聞いてるの」
「ここが一番リラックスできるからですかね」
「はい?」
思わず変な声が出て返したら、不思議そうに、当たり前というように返される。
「いや、部屋以外でも試してくださいと言われてボイラー室はあれですし、土方さんの部屋はうるさいだけなので、はい」
この女……男の部屋が自分の部屋の次にリラックスできるとか宣ってる自覚ないだろ……!
「もっとリラックスしたい?」
「いやー、これでもう脳の疲れも取れたような」
「脳に直接快楽でも叩きこんだらリラックスできる気がしない?」
「ふぇ?」
これ俺悪くないよね?と思いながら彼女のそのリラックスの元らしいソックスを脱がせてみる。下からってのも悪くないな。
2021/4/11