カステラ


「こ、これは?」
「南蛮カステラ異国風」
「いや、カステラの時点で異国なんですが……」

 部屋に上がり込んできた斎藤と、ふるふると震えるカステラを見ながら沖田は彼を見返した。なんでワイシャツにエプロン付けてるんだろう、と思いながら。

「いや、作ったから食べてもらおうかと」
「沖田さんの霊基ウェイトをかさ増しして笑う気ですか!?」
「どーしてそうなるの。これしぼんじゃうらしいから早く食べて」

 そう言って斎藤は適当にフォークで切り分けたそれを彼女の口許に運んだ。

「え、怖い」
「ひどいなぁ。赤い兄ちゃんに習ったから多分大丈夫だって」

 そう言われてまあ、エミヤさん監修のもとなら、とぱくりと沖田はそれを食べた。

「あ、おいひいです」
「食べてからしゃべりなさい。うーん、「あーん」というより餌付けだこれ」
「しつれいですね!」
「だからちゃんと食べてから」

 そう言って斎藤はもう一切れ切り分けて口元に運んでみる。今もぐもぐと食べていたものを食べきった沖田は、それをまたぱくっと食べた。

「うん、これは餌付けだ……なんかそういうのじゃない」
「あんです?」
「だーかーらー」

 食べてからしゃべりないさ、と三度言って、彼はテーブルに皿を置いた。確かに持ってきた当初よりしぼんでいるな、と思いながらそのカステラを見たら、今度こそそれをしっかりと飲み込んだ沖田が不思議そうに彼を見返した。

「どうしたんです、急に?お菓子作りに目覚めた、とか?」
「うーん、話すと長いような短いような話なんだけどね、秋葉原あったじゃない」
「ああ、ありましたが、それが?」
「うん、あの特異点が出来る直前にね、共用のオーブンが壊れたんだよ」

 そう言って斎藤は少し深刻そうな顔をする。厨房のオーブンはもちろん壊れていないが、サーヴァントや職員が使う共用のオーブンが壊れた、というのはどういうことだろう?と彼女はきょとんと首を傾げる。

「なんかね、僕もあんまり詳しくないというか詳しく知ると駄目になりそうだから端折るけど、『ボタンがいっぱいあるのが悪いのだわ』とのことです」
「あああ……それでエミヤさんがブチ切れたと」
「……まあ。そういう訳で金子はたっぷりあってね、電気街の方でちょっと付き合わされまして」

 ジャンクショップでいろいろと眺めていたらエミヤに捕まって(そもオーブン破壊の現場を目撃していたからもあるのだが)、なんで僕が、と言ったところ、現代に近いサーヴァントで常識がありそうだから、と返ってきた。どんなだ、と思ったが、家電製品とは無縁であるから、ということは伝えたが、結局エミヤに付き合って買ったために、試作品第一号を作ることが許された。

「なんかね、湯煎焼き?とか言って水入れて焼く機能が付いたらしいからそれっぽいものを作った」

 そう言ってだんだんとしぼんでいくそのカステラを見ながら斎藤は遠い目をした。

「菓子って作るの大変ね。分量一つで失敗するし、後から醤油ぶち込むみたいな真似が出来ないじゃない」
「ああ、それはありますねぇ」

 そう返してから、ではなぜそれをここに?と思ったら、それを読んだように斎藤は笑った。

「沖田は甘いもの好きでしょ」
「え?」

 突然呼び捨てられたそれはどうしてか昔を思い出させた。

「団子も餅も大好きだったじゃん。僕はそこの娘さん目当てだったりしたんですけど」

 そう言って彼は残ったカステラをぱくりと食べた。
 『そこの娘さん』がどこの娘さんか、なんて彼は言わなかったけれど。
 甘い。


2021/4/5