嫌い


 嫌い嫌い嫌い!

「嫌い!」
「そう」
「勝手に死んだ近藤さんも、言うこと聞かない土方さんも、お別れなんて言う斎藤さんも、嫌い!」

 嫌いです、大嫌い!

「俺は好きだよ」
「私は嫌いです!嫌い!どうせ行ってしまうんです!」

 私を置いて、私の言うことを聞かないで、私に隠れて、勝手に傷ついて、弱っちいくせに、みんな私よりずっと弱っちいくせに!

「じゃあずっと好きなままでいたら俺の勝ちでいい?」
「どうせ私を置いていって弱っちい斎藤さんなんて死んじゃいます!」

 そう、とその人は笑って言った。嫌い、です。
 だから、いかないで。





「おーきたちゃん」
「斎藤さん……せっかくカルデアにいるんだから麺類以外も食べたらいいと思いますよ。いえ、まあ何でもいいと思いますけど」

 僕がラーメンの載ったお盆を置いて勝手に相席したら沖田ちゃんは呆れたようにそう言った。カルデア、ね。不思議なところだ、本当に。

「僕は麺類好きだからねぇ」
「まあいいと思いますけどね、人の食生活に口出しは……沢庵にはしたいですけど」

 ああ、あれはなあ……と思いながら僕は一箸ラーメンを食べて、それからその日常の会話の延長線上のように言う。

「嫌い?」

 そうしたら沖田ちゃんは目を見開いた。

「僕は局長とか副長みたいに勝手に死んだりしなかったけど。それでも嫌い?」
「……あんな、昔のこと」

 泣き出しそうな声で女は言った。

「ずっと好きでいたら俺の勝ちって言ったけど、今でもお前のこと好きだから勝ちでいいかな?」

 そうしたら、今度こそ本当に彼女は泣き出した。情緒というか、感情というか。

「嫌い、です」
「そう。好きだよ、沖田」

 笑って言ったら沖田ちゃんはぼろぼろ泣いた。ああ、麺がのびる。


2021/7/11