氷菓子
「おっやつー!」
 食堂でぱくぱくと氷菓を頬張る沖田ちゃんの向かいに座って、何とはなしに声を掛ける。
「あんまり間食ばっかりしてると太るよ?」
「なっ!失礼な斎藤さんですね!それにサーヴァントは太りません!」
 そう言ってぱくりともう一口おやつを頬張った沖田ちゃんに、平和なもんだな、なんてぼんやり思った。
「ま、そういうことにしときますかね。その氷菓子、アイスクリン?」
「あいすくりん?アイスクリームですが?」
「ああ、ごめん。言い方古かったね。アイスクリーム、ねぇ……お腹冷やさない程度にしなさいよ」
 自分で言ってから、妙な自己嫌悪に陥って、僕は席を立った。スーツ姿のその自分を、アイスクリームという氷菓子を食べる彼女が見ているのが、どうしようもなく耐えられなかった。
◆
「俺は生きた」
 部屋で一人、ベッドに腰掛けて呟く。
 この洋装を着て、西洋の氷菓があって、それが当たり前になる時代まで。
「おまえは、いなかった」
 時代に抗ったのは同じはずなのに、同じ場所で戦ったはずなのに、どうして、どこで俺達は道を違えたんだろう。
 病だろうか?
「いや、きっと違う」
 彼女が病に倒れなくても、どうしてか、いつかどこかで道を違えた気がした。
「だけど」
 自分に言い聞かせる様に呟く。
 その彼女とまた同じ場所に立って戦い、彼女は病など気にせず菓子を食べ、俺はその横に居られる。
「あ、斎藤さんいたー!部屋でのんびりは珍しいから探しましたよ」
 そう考えていたところに、パタンと扉を開けた沖田ちゃんその人が明るい声を掛けて入ってきた。
「え?」
 思わず出てきた呆けたような声に構わず、開いた口に彼女は匙を突っ込んできた。
「はい、あーん。さっき見てたのは沖田さんのおやつが羨ましかったと見抜いたのでした」
そう言って笑う顔は、ずっと変わらない。
「変わったのは、俺の方か」
 その冷たい菓子を飲み込んで呟けば、不思議そうに沖田ちゃんが首をかしげる。それに俺はごまかすように言った。
「はいはい、もう一口ちょうだいよ」
「ほら、やっぱり!」
 楽しげな彼女の笑顔に、もう一度があったのだから、今度こそ最後まで共に戦えたならと手前勝手な願いをかけた。
 ……甘い。
2022/9/25