魔眼
「さいとうさん、さいとうさん」
「あのね、その」
「ほわほわします。あそんでください」
そう言って沖田ちゃんが引っ付いてきた。どうしよう、これ?
*
『魅了の魔眼ですね。私の石化とは違いますが一種の魔術的要素ですので、サーヴァントでも防ぎにくいでしょう』
『いやいやいや、だからってなんでこうなりますかね!?』
メドゥーサさんは僕から引っ付いて離れない沖田ちゃんを見て言った。いや、魅了って見たことあるけど身体的拘束が主な内容で、魔術的な要素って言われてもピンとこないしなんでこうなる!?
『さいとうさん、むずかしいおはなしはあとにしましょう』
『ごめんね、大事なお話だからね』
『……わかりました』
妙に素直なのが怖いよ!
『かなり高ランク、もしくは魔力濃度の濃い場所で掛ったのでしょう』
『あー、神殿的なところでマスターちゃんをかばって……』
『その時沖田さんが最初に見たのはあなたでは?』
『……そういう!?ひな鳥的な?そんな単純な!?』
そう言ったら彼女ははあっとため息をついた。
『なじみがない方には分からないかもしれませんが、神代の魔術というのは得てして複雑怪奇なわりに単純なものです』
つまるところは、高ランクの魅了を掛けられた沖田ちゃんが最初に見たのが、敵でもなくマスターちゃんでもなく、とりあえず振り返った僕だったのが、ひな鳥の刷り込みの如く作用している、ということになるのだろう。
『魔術礼装で解けなくて……ヤバイ魔術なんじゃ……?』
『古い魔術だからでしょう。キャスタークラスに適性のある方もいるかもしれませんが、術者自身に、ではなく見境なく掛けるあたりかなり強力なようですから、無理に解除すると危険です。見たところ外傷はありませんし、時間が経てば治るかと』
いや、滅茶苦茶困ります。だって、今も。
『さいとうさん、おはなしおわりましたか?』
ほわほわした目でこちらを見て、ぎゅっとスーツの端を掴んできた沖田ちゃんを、どうしろと?
*
「なにしてあそびます?」
「うんとね、どうしようねこれ」
結局僕の預かりになった(というか離れてくれない)沖田ちゃんを部屋に連れ帰って、ベッドに座らせていたらぎゅうぎゅうと抱き着いてきた。そうして遊びたいと言う。幼児退行してるよこれ。
「さいとうさん、だいすきです」
そしてこれだよ、と思って僕は大きく息をつく。当たり前だけどこいつ僕に魅了されてるワケね。理屈は分かるよ、魅了の魔眼だからね?だけど、あのね。
「だいすきなのでキスしてあそびます」
「やめなさい」
ぎゅむっと唇を押さえたら不満なのに不安そうな顔でこちらを見上げてきた。相変わらず少し紅潮した顔で。やめてくれ、理性が壊れる。
「さいとうさんはおきたさんのこときらいですか?」
「あのね、状況的にこれ嫌いとか言えないけど好きとも言えないの分かって」
「じゃあだいすきということで!」
「自己完結するな!」
そう言ってぼすっとベッドに押し倒される。オイ、バカやめろ、やめてください!ほんとにこの状況って困るんだけど、わりと理性が壊れかけてるよ、俺?
「ふふふ、つかまえましたよ」
「ああ、もう、そっちがやったんだからな!?」
もうどうにでもなれ、と思ってグイっと彼女を引き寄せて唇を奪う。こっちだって限界だったんだよ!
「惚れた女にここまでされて、何もしないと思うなよ」
*
「ケダモノ」
「どっちが、変態」
「魔眼に掛った沖田さんを襲ったケダモノ」
「見境なく男に擦り寄った淫乱」
お望み通り遊んであげたら途中で魅了の切れた沖田ちゃんに泣かれた。そうして今ベッドでじっとりと説教されている。理不尽だ。
2021/4/8