「ちょっと、沖田ちゃんタンマ!!僕生身!」
「だーめーでーすー」
カルデア内を縦横無尽、というのは多少語弊があるが、ジェットで飛び回って先ごろカルデアにやってきた斎藤一を追いかける沖田に、信長と土方は呆れたようにそれを眺めていた。
「なんじゃ、あれ」
「知らん」
夏の魔物
「ちょっと、まって、ほんとに、息切れた」
ぜぇぜぇと呼吸を繰り返し、壁にもたれる斎藤を、水着姿の沖田はふふふと追い詰めたように笑った。
「ね、見てくださいこのダイナマイツボディ!」
「いや、うん」
斎藤は露出の高い沖田の水着姿から目をそらしつつ、曖昧に頷く。
「だーかーらー!ボイラー室のみんなが言ってくれなかったんです」
「えっとぉ」
「だから斎藤さんが言うんですよ!」
始まりのそこに戻ってしまい、彼は遠い目をした。
「『今世紀一クソカワイイ水着だ!』って言ってくれるだけでいいんですよ!何せ事実ですからね!!」
息巻いて壁にもたれる斎藤に覆いかぶさるように壁ドンというかなんというかをされて、彼は顔をそらすにそらせず、彼女の豊満な胸から露出しきったへそあたりを思わずじっくりと眺めてしまった。顔を合わせたくなかった、と言い訳しながら。
(ていうか沖田ちゃん前から胸でかいとは思ってたけど着やせしすぎじゃね?)
なるべく下半身は見ないように胸からへそのあたりを凝視していたが、それはそれでひどい罪悪感がある。
「斎藤さん、はーやーくー!土方さんもノッブも言ってくれなくて、斎藤さんが来たから着替えてきたんですよ!それなのに逃げるんだもん!」
「そりゃ逃げますよ!」
そう言って斎藤は顔を上げた。そこにあるのは見慣れた顔で、顔を合わせたくなくて視線をそらしたがその先が悪かった、などと脳内で必死に弁明する。
(近い近い近い!なんていうか、副長も沖田ちゃんが女だって忘れてるよね!?胸でかいし、ていうかカルデアでのこの笑顔ヤバいって、こんな露出の高い格好でうろつくな!!)
「斎藤さん?」
目と目が合ったことで、壁に手をついたまま、つまるところは斎藤が逃げられないようにしたままこてんと首を傾げた彼女から彼はちょっと目をそらして言った。
「今世紀一クソカワイイ水着デスネ」
「ああ!それですそれ!斎藤さんもそう思いますよね!超美少女水着剣士爆誕!!!」
「こんなんでいいの」
顔と目をそらしたまま死んだように言った彼に、それでもるんるんと沖田が笑顔になった時だった。
「おや、沖田君に斎藤君」
通りかかったのは山南だった。くだんの邪馬台国とかいうとんでも特異点ののちに、斎藤と共にカルデアに召喚されていたのだ。過去のことは過去と割り切れる性格もあって、今はボイラー室の斎藤と共に(斎藤は不本意だろうが)ボイラー室の一員である。
「山南さん!」
「先生、助けてください!」
「えっと、状況がよくつかめないのだけれど、沖田君それは当世の水着というやつかな」
「はい!」
ぱっと壁際に追い込んでいた斎藤を解放して山南を振り返れば、ふむと彼はその姿を見て言った。
「当世のこういった服飾には詳しくないんだがね、君の愛らしさがとてもよく出ていて似合っているよ」
「山南さん……!」
「それじゃあ、ダ・ヴィンチ女史に呼ばれているので、またあとで」
そう言い残して立ち去った山南に、沖田はぶわっと花が咲くようにその後姿を見つめた。
「山南さん…初めて、初めてこんなに褒めてくれたー!嬉しいぃぃ!」
叫んでいる沖田の瞳がハート型に見えて、やれやれと解放された斎藤は体勢を立て直す。
「気は済んだ、沖田ちゃん」
そう言いながらも、少しなにか胸にとげが刺さるような感覚を持って言えば、喜色満面の彼女が振り返る。
「だって、だって!無理やりとかじゃなくて褒めてくれて!」
その先を続けようとした沖田に、斎藤は引っ掛かっていた感情を知る。
(山南先生に嫉妬とか、僕も焼きが回ったかな)
そう思ってすっと体勢を立て直す。対する沖田はまだまだ喜びが絶えないのか露出過多の姿でぴょんぴょん跳ねまわっているから、斎藤はその手を取って彼女の体をぐいっと引き寄せた。
「はえっ?斎藤さん?」
「今世紀一可愛い水着じゃん」
「へ?」
「そーんなに胸も隠れないようなエロいことしてんだから、なにされたって文句言えないよね?」
「さいとう、さん?」
「可愛いよ、沖田ちゃん?」
そう言って、斎藤は彼女の露出した胸の谷間に口づける。
「ちょ、ちょ、っちょっと!!」
「ああ、こっちも」
そう言って少しぷにっとした腹のあたりに唇を落とせば、彼女は思わずばちーんと斎藤の頬をぶった。
「斎藤さんの変態!スケコマシ!」
「え?これがお望みだったんでしょ、沖田ちゃん?」
にやっと笑った斎藤に、なんといっていいか分からず真っ赤になって震えていたところだった。
「斎藤君?」
「は…あ、えっと」
「山南さんー!この変態からかくまってくださいー!!!」
山南に縋りついた沖田に、斎藤はやっと我に返る。そうしてそれからどうやってここから逃げようか、と自分も顔を真っ赤にしながら逃亡の算段を必死に企てた。