ネギ


 ガサッとビニル製のエコバッグが揺れる音がする。二人だから、というか荷物を持ってくれる人がいるから、とエコバッグ二つ分になったそれは、一週間は買い出しに行かなくていいだろう量だった。

「すみません、持ってもらって」
「いや、別に」

 僕も食べるし、とさらっと斎藤さんは言う。私はそれに何と答えていいのか、というか羞恥心の方が勝って片方の買い物袋を持つ。

「ネギってさ」

 そうしてスーパーを出たら、突然に声を掛けられる。ネギ?確かに私の持っている方のバッグにはネギが入っていて、こう、はみ出したそれはどうにも恰好が付かない、といつも思うのだが。

「なんかいいよね」
「はい?」

 どこがです?と私は思う。今まさに、恰好が付かない、と思ったそれを「いい」というのはいかに?と思ったからだった。

「うーん、なんて言えばいいんだろう」

 ガサガサと買い物袋を持ちながら、私の住むアパートに向かう。歩きながらぼんやりと斎藤さんは言った。それに私は何となく言う。

「恰好が付かないと言うか」
「え?」
「なんていうんですかね、所帯じみてません?買い物袋から出たネギって」

 確かに社会人ではあるが、所帯を持っているわけではないし、というか世の中の女の人はそういうこと思う人も一定数いるのでは?と思うから。何かで読んだ気がする。雑誌の与太話、くらいのものだろうけれど。そうしたら、斎藤さんは立ち止まる。

「それ!」
「ちょ、往来で大きな声出さないで!」

 というかそれってなんだ、と私は自分が持つ買い物袋と彼の顔を交互に見比べる。部屋はすぐそこだったから、なんだか興奮というかテンションが上がっている斎藤さんは押し込めるようにアパートに急いだ。そうして部屋に入って、買い物袋から冷蔵品を取り出して、と、何かに閃いたような彼を尻目に買ったものを整理していたら、それを斎藤さんはじっと見ていた。なんなんだ、本当に。

「なんていうかね」
「はい?」

 ひとしきり整理が終わったら、斎藤さんはぽつりと言った。

「沖田ちゃんと買い物行くと思うんだけど、料理作ってくれるし」
「まあ同僚というか古なじみの腐れ縁ですけど、というか斎藤さんが月末押しかけてくるから」
「買い物手伝わせてくれるし」
「荷物持ってくれて感謝していますが」
「ネギ、買い物袋から出てるし」
「いや、意味不明です」

 言葉の応酬、というかツッコミにも斎藤さんは屈さない、というか何なんだこの人は。

「所帯じみてるってさっき言ったじゃない、沖田ちゃん」
「はあ?」
「すごくいい」
「はい?」

 何言ってるんだ、この人。と思ったら、彼は続けた。

「なんていうか、結婚した気分になる」

 臆面もなく言われて、私は動きを止める。いや、本当に何言ってるんだこの人。

「うん、結婚しよう。所帯持とう、似合う」

 ……もっと雰囲気のあるプロポーズはないのか、という感想を抱いた私も、きっとこの人に毒されている、なんて思いながら、赤くなっていく顔を私はうつむけた。


2021/2/13