寝言


「あったかいです」
「オイ、オーイ」
「ふふ、一ちゃんもふもふ」

 いや、もふもふじゃないから、今僕ワイシャツだから髪短いから。引っ張るな。

「眠いです」
「酒飲んだからでしょ、放しなさい」
「やです」

 ふふとまた笑って沖田ちゃんは僕をぎゅうぎゅうと抱きしめた。

「だから今晩はこのまま寝ます。部屋と一ちゃんと私」
「無駄なパロディ入れなくていいから」

 放して、という言葉は、眠りに落ちる彼女には届かなかった。





「え、休暇最終日なの?」
「そうですね、明日から私と土方さんはちょっと忙しくなるというか。具体的には宇宙旅行に同行せざるを得ないと言いますか」
「アーアーキコエナーイ」
「邪馬台国だって大概でしょう!」

 しかも二回目だから勝手知ったるとか問題のありすぎる発言をして、沖田ちゃんはだから部屋で少し飲もうかなと思いまして、と言った。

「いいけどさ。もうなんか慣れたよ、水着の件でしょ、どうせ。あのジェットだっけ?」
「そういうメタいこと言わないでくれますか?」
「いや、先に言ったのおまえだからね」

 ああ、頭痛がする、なんて思いながらも正月休暇最終日だから、ということで二人で飲み始めたのが1時間ほど前か。まさか彼女がここまでぐでぐでに酔うとは思わなかったというか……

「そんなに入ってないよね?」
「何がです?」
「あれか。正月疲れか」

 僕は自分の分のビール(美味いなこれ)を空けてぼんやりと沖田ちゃんを見た。彼女だって酒に弱いわけではないから、たぶん正月の間休暇といっても普段と違う休みで疲れていたのだろう、と思って、僕は彼女から酒を取り上げた。本人は気づいていないがかなり酔っている、これは。

「明日から宇宙旅行でしょ、もう寝なさい」
「うーん、言われてみれば眠いです」
「でしょ、だからここは一ちゃんの言うことを聞いて…ってなに!?」
「一ちゃんが添い寝してくれるなら寝ます」

 がばっと抱き着かれて、そのままベッドに引き倒されて気づく。

「遅かったか」





 すーすーと寝息を立てているくせに、ぴったり抱き着いて離れない沖田ちゃんを無理やり引きはがすのも気が引けて(起きたら可哀想だし)、そのままの体勢で彼女の寝顔を覗き込む。こんなんでほんとに明日から宇宙に行くのか?というかそれガセネタじゃないのさすがに、と思いながら僕は沖田ちゃんの寝顔を眺めた。

「こうしてる分には普通の女の子、なんだけどね」
「さいと、さん」
「はいはいって、寝言か」

 至近距離で呼ばれて思わず答えたが、この距離では起こしてしまうかもしれない声量だったことに、僕は声を潜める。

「なんですか」

 それでも何となく小さな声で聞いたら、ふふふと眠ったままの沖田ちゃんは笑った。

「大好きですよ」

 ……全く、どんな夢を見ているんだか。

「僕も大好きですよ」

 ……全く、僕も何を期待しているんだか。


2021/1/6