おひとり様
「すみません、なんか」
「いいよー、別に」
がっさがっさと買い物袋をいわせながら、斎藤さんと私の手には一本ずつ大型のみりんが握られている。買い物袋に入りきらない分。
「セール品ってずるいですよねぇ。おひとり様一つ限りっていうとお子さんとかいる方が有利っていうか」
「まあねぇ」
そんな、他愛もない話をしながら。事の起こりは昨日のこと。いつも使っている大型のみりんがいつもの半値で売られると広告を見てしまった。だが、おひとり様一本まで、とあって、いつもならそれでいいのだけれど、なんと、そのみりんをちょうど切らしていて、買いに行こうと思っていた日だったのだ。
雷に打たれたような衝撃。生活に困らない程度には稼いでいるつもりだが、この誘惑には抗えない。でもおひとり様一本まで…と思って気が付いたら私は斎藤さんにショートメッセージを送っていた。
「土方さんでも良かったんですけど」
「え?ダメだよ」
「やっぱり怒りますかねぇ、こんなことに付き合わせたら」
そう言いながら歩いていたら、そんなこと言ったら斎藤さんだって折角のお休みにこんなことに付き合わせて、と思ってしまう。
「すみません、やっぱり一本で我慢するべきでしたね」
欲を出した沖田さん大失敗です。いくらみりんが欲しくともこんなくだらない、とまでは言いませんが、知り合いとはいえ赤の他人の斎藤さんに限定品の買い物頼むなんて。
「別に?暇だったし、沖田ちゃんと買い物できるの楽しいし」
「でもダメですよ、欲を出した沖田さん大失敗なんです」
そんなことを言っているうちに部屋につく。ガチャっと鍵を開けて中に入れば、斎藤さんも自然と入ってくれる。まあ買い物袋持ってるし、何回も上げてるからいいんだけども、慣れてきたなあ、なんて思った。
「あのね、沖田ちゃん。土方さんも山南さんも駄目だからね」
すとんと買い物袋を置いて、彼は言った。それって結果的には「僕も嫌なんだよ」っていう意味ですよね、と思ってやっぱり私は反省する。
「すみません、セール品の買い出しなんてさすがに斎藤さんも嫌でしたよね」
反省しています、と言って、とりあえず冷蔵品を冷蔵庫に入れようとしたら、ちょっとだけ手を掴まれる。怒っているんでしょうか?当たり前ですね。
「あのね、おひとり様一点限りっていうとさ、家族の方が有利だって沖田ちゃん言ったじゃない」
「はい、まあ」
「沖田ちゃんの家族って、いや、まあ土方さんも山南さんも家族みたいなもんではあるけども、将来的に、ね」
「はい?」
「僕以外と家族になるの?」
「へ?」
何言ってるんだろう、と思いながら私は手を掴んでじっとこちらを見つめる斎藤さんを見返した。
「いや、昨日さ、セールがおひとり様一本限りだから付き合ってくださいってメールきたじゃない」
「はい、送りました」
「あれってプロポーズだよね?そうだよね?それ以外考えられなかったんだけど?」
僕おかしい?と問われて、私は固まった。いや、おかしいです、どう頑張っても。この人たまにこういうことあるんだよなあと思いながら冷蔵品を仕分けないと、と思ったら、彼は私の手を放しててきぱきと冷蔵庫を整理する。
「あの……?」
「僕はおかしくないよ。沖田ちゃんさぁ、独り身の男に『特売セール付き合ってください!』なんて言う方がおかしいんだよ」
「反省してます」
「反省してるなら結婚して」
どうしてそうなるんですか!?
2021/3/14