お茶の時間


「膠着状態」

 私は廊下で歩きながらつぶやく。でも、だって、今回は私悪くないもの。
 斎藤さんと喧嘩した。些細なことで喧嘩するのはよくあるけれど、今回は10割私が悪くない。だって、だって、いやだって言ったのに。

「縛られた……」

 思い出しても怖い。ベッドで突然「試したいことあってさ」と言われて「なんですか?」なんて言ってしまったら、腕から胸から縛られて、痛くて、怖くて、その先セックスするなんて考えられなくて、頭が真っ白になって泣きじゃくったら、さすがの斎藤さんもびっくりしたから止めてくれたけれど、それ以来、部屋にも斎藤さんにも近づきたくなくて一週間くらい経っている。

「拷問部屋みたいでした、土方さんがよくいた。怖い」

 思い出してちょっと震える。あそこからエッチするの?世の中っていうか斎藤さんの頭の中って理解できない。理解できないからいくらお付き合いしていても怖くて避けてしまう。

「沖田ちゃん」
「……」
「沖田ちゃん」

 だから、廊下で声を掛けられても無視したって別にいいだろう、と思って私は部屋に入る。もちろん内鍵をしっかり掛けて。泣き声が聞こえた。知らない。





 部屋に入ったらベッドサイドにポットがあった。

「……?マシュさんでしょうか?」

 そういえば最近出撃が続いていて、というのも斎藤さんを避けるためにも、ということでぎちぎちに予定を入れてもらっていたから今日は久々のお休みで、それで事情を知らないマシュさんが(いや、みんな知らないけれど)「さすがに……」とマスターに言ったのだった。だからマシュさんかな、なんて思う。

「悪いですねぇ」

 そこにあったのはポットとお茶のセット。お菓子もついてる。桜餅だ。冷めると思ったのだろう、お茶は自分で淹れるということでポットがあるようだけれど、そもそも茶筒がもうみたことないくらい豪華。ノッブのとこでも森さんのとこでも見たことないような。茶々さんのところでも。お茶と言えばあの三人だけれど、と思いながら茶筒を開ければ、ふわっと甘い香りがした。

「美味しそう」

 くらり、と頭が揺れるほど甘い香り。不思議なお茶、というか「高い茶はけっこう甘いんだぜ」と森さんが言っていたのを思い出す。彼に淹れてもらったのは抹茶だったけれど、それもすごく甘かったな、と思って、本当に誰かは分からないけれど、手配してくれた人には申し訳ない。

「うーんと」

 熱湯で淹れること、と注意書きが書いてある。あれ?確か高いお茶ってお湯を冷ましたりするんじゃ?と思ってそれから、まあいろいろあるんだろう、とよく考えず思う。李書文さんは、中国茶は熱湯で淹れるぞ、と何度か言っていたし。

「では早速」

 こちらも用意されていた急須に茶葉を移して、ポットのお湯を入れる。熱湯で茶葉が開いてふわっと香りがした。甘い。それでくらり、となぜか頭が揺れる。

「あ、蓋」

 その香りに気を取られながらも急須に蓋をする。少しだけ残った香りにぼーっとしてしまう。すごいお茶だ。えーっと、3分待って、すぐ飲む、と。砂時計もあって、なんて準備がいいんだろうと思いながら逆さまにする。砂はすぐに落ちてきて、3分なんてあっという間だったのに、待ちきれない自分がいた。

「出来ましたー!」

 なんだろう、すっごく楽しみです、と思いながら茶碗にそそぐ。やっぱりすごく甘い香りがする。くらくらするくらいに。そうしてそれから、緑茶と言うにはどこか違うような色。

「中国茶なんですかね、やっぱり。熱湯だったし」

 飴色のそれを見て考えるけれど、私はその香りに我慢できなくて、それを飲む。まだ熱いけれど、喉を通ったそれはとっても甘くて、やっぱりちょっと疲れていたのかな、と思う。

「美味しい」

 ほっと息をついて、気づいたら茶碗は空になっていた。急須からもう一杯分注いで飲む。なんだか飲めてしまう。誰が用意してくれたんだろう、と思ったところで、私はふぁっと欠伸をしていた。

「なんだか、眠いような」

 やっぱり疲れているのかな、ちょっと体も熱いし、熱?ナイチンゲールさんに怒られ、る。と思ったところで、私はそのままベッドに横になっていた。





「熱い」
「うんうん」

 ベッドで目が覚めて、どうしようもなく熱い、と思ってつぶやいたそれには返答があった。

「さいとう、さん?」

 なんで?内鍵、ちゃんと……

「沖田ちゃんがあんまり起きないからやっぱり無理がたたったのでは?とマシュちゃんが心配してたから見に来た」

 チャラッと斎藤さんは鍵を見せた。それって、どういう?

「ちなみにマシュちゃんが「何か甘いものでも」と言っていたので、僕がお茶を準備しました。置いてくれたのはマシュちゃんなので僕は合法的に今入った以外、無理やり部屋に入ったりしていません。沖田ちゃんが駄目って言ったことはしていません。はい無罪証明」
「む、ざい?」
 それって罪がある人の言うことでは、と思ったところでやっぱり体が熱い、と思って思考が霧散する。何、これ?芯から熱い。芯?え?

「ひゃう」

 その熱源に気が付いて、小さく喘ぐ。気が付いてしまうと気がそらせない。だって、体の真ん中が、そんな、なんで?そう思っていたら、斎藤さんが手を伸ばしてくる。

「や、だめ」
「だって、熱いんでしょ?」

 ここ、と彼はその一番熱くて、疼くそこに軽く触れる。下着が濡れていて、というか指で軽く触れられただけなのに。

「やっ、だめ、だめ、だから」
「わー、もうこれ意味ないね」

 ぐちゅ、と水音をさせて彼はその私の秘所の布を指でいじってくる。撫でたり、押し込まれたりして私はもう何をされているのか分からなかった。

「だめ、やっ、なに?」
「あーあ、すごい。洪水みたい。なーんにもしてないっていうか触っただけなのにね?」
「ひゃうっ、だ、だめっ、見ないで!」

 私の叫びなんてお構いなしに、私のそこから指を離して、彼はにこっと笑って私を見た。見ないでって言ってるのに、だって。

「いっちゃう」

 なんで、なにも、してない、の、に。びくりと体が跳ねる。なんで?と思う間もなく、私は絶頂の波に浚われた。





 じゅる、と卑猥な音がする。私の思考はもう音を聞き取るくらいしか残っていなくて、でも快楽の波は収まらなくて、つまるところは快楽に脳内を支配されているんだ、なんて妙なことを考えた。

「美味しいよ」
「やっ、だめ、また」

 べろり、と獣のように私のそこを啜った残滓を唇から舐め取った斎藤さんがいやに猟奇的に笑って言う。その言葉と行動に、私はまたいってしまう。なに、これ。だって、指の一本も、と思って、どうして私はそんなはしたないことを考えているの、とぼんやり思う。
 そうしたら斎藤さんが顔を上げて私の頭を引き寄せる。

「ひゃうっ」
「あー、これでもか」

 その行動一つ取っても体が疼く。

「沖田ちゃんが悪いんだよ」
「ふぇ?」
「だって、相手してくれないんだもん」

 そう言ってその人は私に口づけた。なぶる様なそれに、私はまた快楽の波に襲われてびくびくと震える。だから、なに、これ?

「ね、沖田ちゃん?」
「ふぁい……?」
「熱い?」
「ん」
「どうしてほしい?言ってくれないと分かんないなー」
「取って」

 私はぼんやりする頭で、頼れるのが斎藤さんだけだ、とあまり合理的ではないことを思った。思ったら「取って」と言っていた。熱、取ってもらわないと、訳が分からない。

「うん、分かったけどどうすればいいのかな?難しいから教えて?」

 妖艶に笑って斎藤さんは言った。むずかしい、の?だって、熱くて、だから

「……れて」
「んー?聞こえない」
「いじわる」
「だって沖田ちゃんの声が小さくて聴こえないのはほんとだよ?」

 へらりと笑って彼は言った。なんでこっちがこんなにつらいのに、どうしてほしいってことは助けてくれるってそういこと言ったのに、と思ったらじわっと涙が出た。

「ひどい、です」
「うわぁ!?違う、違うよ?」

 そうしたらなぜか斎藤さんはびっくりするほど狼狽えて、そうして私の涙をぬぐってくれた。やっぱり助けてくれるんだろうか?でも、この人、こないだ…とそこまで考えて、なんだっけ?となってしまう。私、思考回路がかなり壊れてる。

「いじめてないし、ひどいこともしないから」
「ひどいこと?」
「ちがっ!」

 なんでこの人こんなに焦っているんだろう、と思いながら、私はぼんやりと彼を見る。

「どうしてほしい?」

 改めて聞かれる。

「いれて」

 それから、と思う。

「やさしくして」





 ぐちゅぐちゅと卑猥な音がする。いつもだったら慣らさないと痛いのに、斎藤さんのそれがすんなり入ったのが不思議で、だけれど気持ちよくて、というか、こんなに気持ちいいの初めてな気がして、私はぼーっとする頭で彼を受け入れていた。

「やっ、んっ、またっ」
「うん、なるべく何回でも。ごめん、まさか二杯も飲むとは」
「え?あっ、だめ」
「大丈夫だから、いって」
「ひゃうっ」

 体の中が熱い。何度絶頂に達しても、収まらない。しかもそれは彼にとってはどうということのない内容のようで、いつもなら、と思うタイミングでさえ私だけが。

「いつ、も?」
「あー、久々だもんね」

 斎藤さんのせい、でしょう?と思いながら私はまた快楽に飲まれる。ぐち、と卑猥な音がした。





「ね、そろそろ取れてきた、かな?」
「ふぁい……」

 熱くはなくなってきて、むしろ胎内の彼のそれが熱い、と思える程度には落ち着いた。なんだろう、これ。

「良かった。さっきも言ったけど二杯は想定外でした」
「ふぇ?」
「そんでね、僕も我慢の限界なのでそろそろ出していい?」

 そう言われて、いつもなら私も彼も、と思ったタイミングで彼に何もなかったのは我慢していたからだろうか、と回らない頭で考える。

「ん」

 それで思わず頭を引き寄せてちょっと額に口づけると、彼は苦笑した。

「すげー煽るのね。これもう効果切れてるのに」
「こう、か?」
「こっちの話です」
「ひゃうっ、きゅう、にっ、あっ、だめ!」
「駄目じゃなくて、いい、でしょ?」

 そう言った彼の動きが早くなる。先ほどまでの熱に浮かされたそれとは違ういつもの絶頂を感じて、そうして。

「ごめん、出すね!」

 いつものような余裕がない声で彼は言って、私はその熱を最奥で受け止めた。





「つまり」
「はい」

 そのあと私は気絶してしまったらしく、気が付いたら体は綺麗に清められていて、それから斎藤さんが残ったお茶を流しに捨てて、茶葉をゴミ箱に放り込んでいるところだった。それで私はやっと明瞭になった思考回路で斎藤さんを呼び止めた。
 このお茶ってつまり。

「つまり、そういうお茶ですね」
「はい」
 呼び止めたら彼はベッドの下に正座した。切腹でもするのでしょうか。してほしいですね。

「だって、沖田ちゃんがずっと相手してくれなくて、寂しくて!」
「それは斎藤さんがSMに手を出そうとしたからです」
「そうです、自己責任です」

 彼はうつむいた。ああ、そうするとちょうどいいところに首があるじゃないですか。介錯するときちょうどいいところに。

「でも二杯も飲むと思わなくて、だからこんなになると思わなくて!」
「言い訳は聞きたくないです」
「申し訳ありませんでした!」

 そう叫んでから、だって、でも!と彼は続ける。

「こうでもしないと沖田ちゃん相手してくれないと思って!」

 それに私は大きくため息をつく。

「これやったらさらに相手しもらえなくなるってなんで分からないんですか?馬鹿なんですか?」
「いやー、これは気持ちよかっただろうから癖になるかなあ、とか」

 期待して、と彼が言ったところで私は斎藤さんをばちんと叩いていた。

「反省してください。それか切腹してください」
「凄まじい二択だね!?」