もやもやする、と斎藤は沖田を見ながら思った。  桜色の着物に袴、信長たちと楽しそうに笑う彼女。  心の中にどうしようもない蟠りを感じた。


桜色の君


「なんていうか」
「あ?」
「沖田ちゃん別嬪ちゃんになりましたよね」

 茶をすすりながら土方の前で斎藤は言った。それに土方はまたどうでもいいことでこの二人はわだかまっているのか、とため息をつきたい気持ちだった。

「それはどういう?」
「んー、なんていうかですね、着物に袴に桜色ってもう僕の知ってる沖田ちゃんじゃないなあって思ったらなんか遠くて」

 へらっと笑って言った男に、これは想像以上に根が深いな、なんて土方は思った。

「別に沖田は沖田だろ」
「そうなんですけどね。なんてーのかな、新選組にいたころは本気で沖田ちゃんが穿いてなくても、素っ裸で屯所歩いてても全然気にならなかったんですけど」

 それにごほっと土方は茶にむせた。いや、気にしろよ、と自分も確かに気に留めない部分はあったが、お前のそこまでじゃないぞ、と思いながら。

「なんというか、その、このカルデアで沖田ちゃん見かけると、避けちゃうんですよね」

 困ったように笑った男に、土方は事の発端を思った。





『最近斎藤さんに避けられてる気がして』
『あ?』
『仕合せがんでもいつもどおりなんですけど、なんかこう、なんだろう、すれ違いそうになったり鉢合わせそうになったりするとこう、微妙に避けられてる気がして』
『気のせいじゃねぇのか』

 そう言いながらも、土方は沖田の言っていることがだいたい分かっていた。斎藤は確かに彼女を避けている。それも、たぶん、仕合がしたくないとか再会して云々とかそういう階層とは別の次元で、だ。
 そう思って、土方は沖田からのそれを聞いた後に斎藤に「茶でも飲むか」と声をかけていた。





「なんですかねぇ、これ。ほんとに、沖田ちゃん変わっちゃったなあ」
「そうか」
「副長はけっこう長く一緒にいたから気にならないんでしょうけど、なんていうか女の子のかっこして引っ付いてこられるとどうにも」
「どうにも?」
「もっと恥じらいを持ちなさい!とかお前女の子でしょ!とか言いそうになって、すごく自己嫌悪に陥るんですよ」
「自己嫌悪だぁ?」

 そう言ったら斎藤は自嘲気味に笑った。

「あいつはさ、全然変わってなくて、僕にも普通に接してくるのに、仲間だったのに、仲間に女を見ちゃうって最低だな、って」

 湯呑を持ちながら遠くを眺めるように言った斎藤に、土方はああと思う。
 確かにあの新選組という組織の中で駆け抜けた時間は長いようで短くて、短いようで長かった。だから、彼女を女として見てしまうことに罪悪感を抱く彼の気持ちも分かった。

「最低ですね、僕」
「そうでもねえんじゃねえのか」

 そう言ったら、珍しく斎藤は激昂したように湯呑を机にどんと置いた。

「だって、本気であいつが女に見える。近づかれたら何しちまうか分からない。めちゃくちゃにしてやりたい。口吸いして、犯して、もう僕なしじゃいられなくしてやりたい!」

 そう叫ぶように言って、最低だ、と机に突っ伏した斎藤に、土方は大きくため息をついた。

「お前思いつめすぎだろ」
「副長には分からんですよ」

 だって、と斎藤は続けた。

「本気でめちゃくちゃにしていやりたい。なんであんな可愛くなってんの。ふざけんなよ、僕以外のせいかよ、余計ぐちゃぐちゃのどろどろにしたい」

 ここまで暗い感情を抱えていたのか、と土方は思いながら遠い目をした。言っていることは深刻なのだが、いかんせん、言葉のチョイスがもうかなり危ない。
 部下のメンタルケアが云々とゴルドルフとかいう所長が言っていたのを思い出しながら、土方は眉間に手を当てた。その瞬間、思考を集中させすぎてすべてのことが見えていなかったことは、後悔先に立たずというやつだった。





 だから、後悔先に立たず、と土方は思った。

「えー、斎藤さんでも私の一張羅をぐちゃぐちゃのどろどろにしたら許しませんからね!」

 これ結構気に入ってるんですから、とぴょんと斎藤に桜色の着物で飛びついた沖田の存在に、二人とも全く気付いていなかったのだから。





「え、沖田ちゃん?」
「斎藤さん、仕合ー!なんで土方さんとまったりお茶してるんですか。仕合してくれないならせめて混ぜてください!」

 ぐりぐりと斎藤の腕につかまってそう言った沖田に、土方は「おい」と声をかける。だが、それは一拍どころか、たぶん、先ほど彼女が来たことが意識の外にあった時点で遅かったのだろうと思った。

「分かった。仕合しよう」
「え?やったー!」

 沖田さん大勝利ー!と叫んだ彼女に、いや、たぶんそいつの言ってる仕合はお前の考えてるやつじゃなくてもっとヤバいやつだぞ、と思ったが、斎藤の目があまりにも鋭くて、土方は何も言わずに、ひょいっと沖田を抱え上げた斎藤に「もうどうにでもなれ」と自分の湯呑の中身を検めた。





「斎藤さん、ここ斎藤さんの部屋ですよね」
「うん」
「シミュレーター行きましょうよ」

 そう言った沖田は斎藤に抱えられている。運んでくれるーなんて無邪気に言っていたが、ことの次第にだんだんと彼女も気づき始めていた。

「だって仕合したいって沖田ちゃんが言うから」
「へ?」

 そう言ってどさっと斎藤は沖田を自分のベッドに下ろした。ああ、桜色の着物、袴、これはなんだろう、と思いながら。

「布団でできる仕合って知ってる?」
「はい?」





「斎藤さん、ちょっと待って」
「やだ」
「理由、説明してください」

 沖田の上に覆いかぶさるようになってきた斎藤に、沖田はこの状況だと言うのに透徹した目で言った。
 分かっていた。
 斎藤が自分を女だと思っていることも、自分が変わってしまったのだと彼に映っていることも。
 だから、こんな日が来るんじゃないかと思っていた。思っていたから、あの二人の会話に割り込んだのだ。どうしてか冷静な自分を俯瞰する自分、なんていう不可思議な現象も、当たり前のように彼女は感じていた。
 そうして、覆いかぶさる斎藤にゆっくりと手を伸ばす。ぐっと首を掻き抱いて、その桜色の着物に寄せた。

「斎藤さん、ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃ、ない」

 泣きたいのはきっと彼女だろうに、と思いながら、斎藤は泣き出したい気持ちで言った。

「私変わっちゃいましたね」
「違う、それは僕が」
「なんかですね、いろいろ聖杯戦争とかあって、あ、私女だったって思ったんです」

 とくんとくんと彼女の心音を聴きながら、彼女の言葉にゆっくりと耳を傾けていると、だんだんと暗く黒い欲が融けていった。

「でもね、斎藤さんたちといた時はずっと男っていうか少年っていうか、違うな、剣士、だったんです」
「う、ん」
「だけど私の性別は女で、だからみなさんを困らせることもいっぱいあったろうに、みなさんは私を仲間として扱ってくれて」
「当たり前だろ」
「でも、ここではその当たり前は通用しないでしょう」

 あ、と、嘆息するように、その先を言わないでほしいと思うように、斎藤は息を吐いた。その吐息さえ、彼女に吸い込まれるのを感じながら。

「ね、斎藤さん。私可愛いですか?」
「そんなこと、聞くな。沖田は沖田だ」

 変わらない、と吐き捨てるように言ったら、彼女はふふと笑った。

「そんなこと言われたら花も恥じらう乙女の沖田さんは傷ついちゃいますよ」
「馬鹿なこと言うな。それじゃあまるで」

 僕がお前を女として見ていて、ぐちゃぐちゃのどろどろに犯したくて、僕なしじゃいられなくしてやりたいのを認めることになる、今ならやってしまう、やれてしまう、と斎藤は声にならない叫びを上げた。


 そんなことしたい訳じゃない。
 昔のように一緒にいたい。
 なのに、どうして。


「斎藤さん、好きです」
「は?」
「あのですね、私いろいろなところでいろいろな人に会ったんですが、それで自分が女だって認めるっていうか、ああそっかって思ったんです」
「……」
「それで、斎藤さんと邪馬台国で会って、戦って、カルデアでまた一緒にいられるようになって、気づいたんです」

 やめてくれ、言わないでくれ、これ以上は、と斎藤は思ったが、彼女は続けた。

「そうしたらね、土方さんにも誰にも感じなかった「女」として、好きだなって思ったのが斎藤さんなんです。だから、ごめんなさい。仕合せがんだり、ひっついたりして」

 伝わってましたか?と問われて、斎藤はその桜色の着物を着る沖田に覆いかぶさるようにして、彼女を抱きしめた。

「確信犯かよ」
「ふふ」

 ああ、この女性はすべてを分かっているんだ、と思った。
 自分にとって仲間だった、そうして女になった彼女は、そうやって自分の気持ちにもこちらの気持ちにも気づいて、だから、だか、ら。

「なんだよ、全部、知ってたのかよ」
「実のところ斎藤さんが本当に私のこと好きでいてくれてるかは自信ありませんでした」
「抜けてる」

 そう言って斎藤は軽く彼女の額に口づけた。

「でも斎藤さんならきっとって思ってました」

 ずっと、と続けたから、斎藤は堪らなくなって彼女の顔に口づけを降らせた。

「くすぐったいです」

 ふふと笑った彼女に、彼は言った。

「ぐちゃぐちゃのどろどろにしたい」
「はい」
「もう僕なしじゃいられない身体にしてやる」
「すごいこと言いますね」
「それくらいこっちは溜まってんだよ」
「じゃあ」

 ひどくして?と女は笑った。





「んあっ」

 がり、と乳首を噛む鋭い歯に、沖田は小さく喘いだ。先ほどからずっと与えられる未知の感覚が怖かった。

「お前さ、生娘のくせにひどくしろとか馬鹿じゃないの」
「そ、それは」

 なんとも言い返せず言った彼女を黙らせるように、今度は胸を揉みしだきながら彼は彼女の首筋に噛みついた。

「いたっ」
「胸?首?」
「いえ、ません」
「こんなに跡付いてちゃ着物以外着れないっしょ。当分その着物でいなさい」

 あの寒そうなじゃなくてさ、と意地悪く言って、斎藤は首筋から胸にかけて花弁を散らしていく。そのすべてが痛いのに、どうしてか疼くような感覚をもたらされて、彼女はあえかな声を上げた。

「あっ、いたい、のに」
「痛いのに?」
「あっ、いや、だめ」

 そう言って沖田は真っ赤になった顔を腕で覆い隠した。強く吸われて、噛まれて痛いのに、それが疼くような快楽をもたらすのが恥ずかしくて怖かった。

「ひどくしろって言ったのお前だからね」

 そう言って、斎藤は思い切り彼女の胸をぐちゃぐちゃに揉みしだいた。

「いたい、です」
「そのわりに感じているように見えますけど」
「あっ、ちがっ、んぁっ!」
「胸だけでイかせてやる」

 そう言って、胸をいじる手は止めずに、斎藤はべろりとその頂を舐めた。

「もう僕なしじゃいられない身体にしてやる」
「さいとう、さん、こわ、い、ひあっ!」
「どろどろのぐちゃぐちゃに犯すって言ったでしょ」

 そう言ってぐちゃぐちゃに胸をもみながら、がりと乳首を噛む。その痛みと快楽に、沖田は荒い息をついた。

「や、なにか、くるっ、んあっ!」
「イけよ」

 酷薄に言って、斎藤は強くその胸を吸った。その瞬間に、沖田の頭は真っ白になった。





「はっ、あ、の」
「胸だけでイく淫乱」
「ちが、います」

 腕で真っ赤に上気した顔を覆い隠した沖田のそれを取っ払って、彼は沖田の口に舌をねじ込んだ。初めてのことで、息もできないような、息を、あるいは唾液を交換するようなそれに、うまく息継ぎが出来ずされるがままになっていた沖田に気を良くしたように、何度か唇を離しながら、様々な角度から彼女の口腔を犯す。

「ひどくって言ったの沖田ちゃんだし」

 言い訳めいたことを言って、唇を離す。そうして今度は彼女の袴を取っ払ってしまうとその白い脚に口づけた。

「そこ、だめ、なんか、変です」
「あのね、もう袴でいてほしいからこっちにも跡付けまくるよ」

 そう言ってさらけ出された脚に吸い付くような口づけをいくつもいくつも彼は落とす。そうして、その合間に歯を立てたり、噛みついたりしたら、沖田はもう耐えられないというように喘いだ。

「あっ、だめ、まだ落ち着いてない、から」
「ひどくするって言ったでしょ。ぐちゃぐちゃにするって」
「それ、は!」

 がりと歯を立てながら、その口は少しずつ彼女の秘所に近づいていく。そうして、ついにそこに至った。

「さいと、さん、きたない」
「きれーだよ」

 そうくすっと笑って言って、彼はそこに噛みつくようにじゅるりと口を当てた。

「ていうか沖田ちゃん、感じやすすぎ」
「あっ、まって、だめ、あぁ!」
「生娘のくせに胸と脚だけでイっちゃったうえこれですか。もうぐしょぐしょじゃん」

 殊更意地悪く言って、彼はその秘所に顔を埋める。べろり、とざらついた舌がそこを舐った。

「いやぁ、だめ、だめぇ!」

 叫んだ沖田に、斎藤は容赦なんてしなかった。

「ひどくしてって言ったじゃない」
「そう、です、けど!」
「もう僕以外誰にもお前を変えさせない。だから僕以外じゃ満足できない身体にしてやる」

 すさまじく独占欲の塊のようなことを言って、じゅると彼は彼女の愛液を舐めて、陰核を噛んだ。

「だめ、だめぇ、なにか、きちゃ、う、あ、あ、ぁぁぁっ!」
「イったね」

 そう言って一度その秘所から顔を上げる。愛液の滴ったままの口で、彼女の唇に口づけた。

「ど、自分がイったお味は」
「ふぁっ」

 もう何も考えられないようになっている沖田に、嗜虐心がそそられる。本当ならしっかりほぐした方がいいと知っていながら、斎藤は沖田の片足を高く持ち上げた。

「ひどくしてって言ったのは沖田ちゃんだし、僕もお前のことぐちゃぐちゃのどろどろに犯したいから、我慢して」
「ふぇ?」

 そう言って曖昧ない返答をした沖田に構わず、一切慣らすこともなく、斎藤は一気に彼女の秘所を自身の怒張で貫いた。





「いたい、いたい、いたいです」
「うん、分かってる」
「さいとうさん、ひどい」
「ひどくしてって言ったのは沖田ちゃんね」

 そう言って、それでも破瓜の痛みはあるのだろうと思った斎藤は、そのまま動かずに沖田が落ち着くのを待った。

「さいとうさん、もう、怖くない?」
「え?」

 こんな状況だというのに、沖田はゆったりと斎藤に聞いた。痛いだろうに、と思いながら、斎藤はその先を待った。

「わたしが、おんなでもいいですか」
「今更何言ってんの」
「も、さいとうさんじゃないと、だめです」

 だから、と彼女は続けた。

「こわく、ない?かわってしまったわたしがこわくはないですか?」

 問いに、斎藤はどくんと彼女の中に入っている肉棒が脈打つのを感じた。

「もう、さ。お前はほんとにひどく犯してほしかったみたいね」
「ふぁっ!?」
「もう待てない。動くよ」

 そう言って斎藤はがつがつと腰を彼女のそこにぶつけた。破瓜の痛みからまだ解放されていないのに、最奥を嬲られて、沖田は悲鳴のような喘ぎ声をを上げた。

「ひゃんっ、だめ、あっ、だめ、あああ!」
「もう僕以外でイけない身体にしてやる、めちゃくちゃのぐちゃぐちゃに犯してやる!」
「さいと、さん、だめ、あっ、あぁぁっ、だめ、なにか、きちゃ、う!」
「何回でもイけよ。何回だって犯してやる」
「ひゃんっ、また、また、あっ、だめぇ」

 小刻みに震える沖田が何度も自身を締め付けてくるのを感じて、細かい絶頂を何度も感じているのに、どうにも優越感を感じながら、そろそろ限界だな、と斎藤は思った。

「沖田ちゃんさ、生娘のわりにずいぶん締め付けるから、僕ももう限界」
「ふぇっ!?」
「孕んじまえ」

 そう言って彼は叩きつけるように最奥に白濁を叩きこんだ。





「さいとう、さん」
「んー」

 事後にタオルやらなにやらで彼女の体を清めていた斎藤に、舌足らずに沖田は問いかける。

「たぶん、もう私斎藤さん以外とできません」
「当たり前っていうか僕以外とやったらそいつ殺す」
「大丈夫ですよ」
「まあ、めちゃくちゃのぐちゃぐちゃに犯しましたし、沖田ちゃんの性感帯もだいたい分かりましたし」

 そう言ったら羞恥心からだろうか、枕をぽすっと投げられた。それを受け止めて、彼は言った。

「僕はさ。僕以外の誰かのせいでお前が変わったのが許せなかったんだ」
「はい」
「だけど、そうやって女だって思ったら、抑えきれなかった」
「それも、分かります」
「だからこんなの僕の自己満足かもしれない」

 そう自嘲気味に言った斎藤を、彼女は緩く抱きしめた。

「そんなこと、ないです」
「そうかな」

 そう言ったら、彼女は笑った。

「だって斎藤さんにめちゃくちゃのぐちゃぐちゃのどろどろに犯されて、処女まで取られて、もう私が他の人に目移りすると思いますか?」

 ふふと笑った沖田に、斎藤はその額に口づけた。

「はいはい、僕が犯したんですよ」
「だからもう、斎藤さん以外いりません」
 そう言った彼女に、今度こそその唇を奪って、彼は彼女を抱きしめた。
 もう変わらないでくれ、と祈りながら。