どうすることも出来なかった。
 止めようと思った。
 止められると思った。
 別離はあっさりとその居場所までもを引き裂いた。
 ああ、あの日。
 あの日とはいつのことだろう。
 伸ばした手はいつも届かない。
 便りは終ぞ、届かなかった。

 だから。

「積水不可極」
「難しいこと言いますね」
「そう?」

 ふと呟いたら、沖田ちゃんが笑った。
 ノウムカルデア、食堂、喪われた世界を、往く。

「会えると思ってなかったから、さ」
「私もですよ」

 だから僕は、小さく笑った。
 きっと、おまえとは違うのだろうと思いながら。

「会いたく、なかった」

 そう言ったら、その女は小さく笑った。

「私もです」

 そう言って目を伏せた彼女に、どんな言葉を掛けるべきなのだろう、と僕は何も見えない遠くを見つめた。この食堂に、このカルデアに、窓なんてないと知っていたのに。

「僕は」
「私は」

 声は緩く重なった。そうして、一つの解に届く。

「おまえが死に逝くのを見送ったのだから」
「あなたが北に征くのを見送ったのだから」

 もう会えないことを、あの日誓ったはずだったのだから。
 そうならば、もしも英霊などというものが、運命などというシステムだというのなら。
 それは、なんて酷薄で、残虐な運命だろうと、僕はゆっくり目を伏せた。


積水不可極
安知滄海東
九州何處遠
萬里若乘空
向國惟看日
歸帆但信風
鰲身映天K
魚眼射波紅
ク樹扶桑外
主人孤島中
別離方異域
音信若爲通





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送祕書晁監還日本國(王維)