蕎麦の味


「変わり蕎麦ってさ、なんかいいよね」
「ふぁい?」

 唐突に掛けられた言葉に、むしゃむしゃと今日の定食を食べていた沖田は応じた。相変わらずコロッケそばを食べているのに、と思いながら。

「コロッケそばじゃないですか、いつもの」
「うん、まあ。でも一応全部試したんだぜ、あの赤い兄ちゃんに頼んで、カレー蕎麦とかいろいろ。結局こいつに戻ってきちゃったんですけどね」
「斎藤さんそういうとこありますよね。なんていうか、刀もそうだけど、一回なじむとそればっかり、みたいな」

 そう言って、沖田は定食に付属の味噌汁を飲んだ。それを見ながら斎藤は一箸コロッケそばを食べてから言った。

「そーねー。でもさ、コロッケそばいいぜ。この安っぽい感じと油っぽい感じが何とも言えず一ちゃんに似合いますよ」
「そーですかね」
「そういう沖田ちゃんがいろいろ食べるようになってお兄さん嬉しいな」
「やめてください気持ち悪い」
「傷つくー」

 そう言いながらコロッケそばの続きを食べ始めた斎藤と、食後のお茶を取りに行った(しかも当たり前のように二人分だ)沖田に、別のテーブルにいた信長は、向かいで相変わらずたくあんに白米というバランスの悪い食事を摂る土方に訊ねた。

「え、あやつらできとらんの?」
「知らねえよ」
「え、だって付き合ってますぅ私たちぃ、みたいな雰囲気でもうずっとおるじゃん」
「斎藤と沖田が付き合ってたらなんかあんのか」
「お前自分の部下のそういう色恋沙汰ほっとくとあとで痛い目見るぞ」

 ワシそんなことなかったけど!と言った信長に、土方はもう一度「知らねえよ」と答えた。





「で」
「はい」
「話ってのは」

 土方は信長の言葉を思い返しながら眉間に手を当てて沖田総司に相対していた。

「今言いました!二回も言いたくありません!」

 ぷいとそっぽを向いた沖田に、土方は大きくため息をつく。

『斎藤さんって私のことどう思ってると思いますか』

「あのな、それは色恋沙汰か」
「ド直球!ストレート!」

 花も恥じらう沖田さんになんてことを!と叫んだ部下に、土方は頭痛がする、と思った。自分はバーサーカーだが、このカルデアの中で新選組というくくりなら、一番真っ当なのは自分なんじゃないかと思っているそれは多分間違いでも何でもない、とこの頃確信しつつあった。

「そういうんじゃないんですけど」
「違うのか」

 ああ、頭痛がする。医務室、山崎、とここにいない部下を土方は思った。そういうんじゃないならどういうのなんだ、と思いながら。

「なんていうか、斎藤さん見てるとこう、近くに行っちゃうんですよ」
「猫かお前は」
「でも、別に斎藤さんのこと好きじゃないし」
「きっぱり言いすぎじゃない!?」

 猛獣使いですか僕は!とそこにかぶさった声に、沖田は思い切り肩を跳ねさせ、土方は大きく息をついた。





「あ、副長これ頼まれてた資料です」
「ああ、悪いな」
「なんですか、沖田さんに隠れてお仕事ですか」

 びっくりしたぁと沖田は言いながら、土方に紙束を渡す斎藤に、いつか、新選組だった頃もこんなことが何度もあったな、なんて思った。

「いやいやいや、その前に言うことあるよね沖田ちゃん」
「え、はい。別に斎藤さんのこと好きじゃないけど何となく引っ付いちゃうこの感情は何だろうってノッブに聞くのは屈辱なので土方さんに聞いてました」
「沖田……お前そこまで馬鹿だったのか」
「土方さんに馬鹿とか言われたくないです!」

 そう言われて、土方は「だとよ、斎藤」ともう面倒になって話を斎藤に振る。そうしたら彼はへらりと笑った。

「あー、猫が暖取ってる感じねー。いいですよーだ。一ちゃんも沖田ちゃんなんて好きじゃないですから」
「え……」

 沖田はそれに青天の霹靂、と言わんばかりの顔をした。土方は、なんでそうなる、と思いながら、そうしてそれから、小学生かお前ら!小学生とか知らんが!と叫び出しそうになる声をやっとのことで堪えた。

「じゃ、僕仕事終わったんで」

 ひらひらと手を振って去って行った斎藤に、沖田ははくはくと口を開いたり閉じたりしていた。

「好きじゃ、ない」
「言っとくが先に言ったのはお前だからな」
「だって、斎藤さんが私のこと嫌いだって」

 嫌いとは言ってねえだろ、と土方は思いながら、もうお前らだけでやってくれ、と思って席を立った。





「斎藤さん」
「なに」

 そんなやりとりがあったのに相変わらず向かい合わせの席で食事を摂っている二人に、もうどうにでもなれと土方が思った時だった。

「話があります」
「うん?」
「ここじゃなくて後で斎藤さんの部屋に行きます」

 ボイラー室狭いんで、と言ったら、今度は斎藤が目をぱちぱちと開いたり閉じたりした。

「小学生か、アイツら」

 居合わせた信長に、同じことを思うか、と土方はやっぱり頭痛がする、と思いながらぼんやりその部下二人を眺めた。





「斎藤さんは私のこと嫌いですか」
「え」

 部屋でとりあえず狭いからと思ってベッドに座って椅子を譲っていた斎藤は、ド直球に沖田に言われて本気でめまいがするのを感じた。あ、うん、絶対何一つ分かってないやつだこれ、と思いながら。

「嫌いではないけども」
「じゃあ好きですか」
「あのね、沖田ちゃん。1か0の世界ってコンピューターのそれよ」

 はあ、と大きなため息を斎藤はついた。

「生々しい話していい」
「え?」
「正直沖田ちゃんのこと嫌いじゃないし沖田ちゃんで勃つけど」
「はひ?」

 変な声で答えた沖田に、斎藤はベッドの上からぽんぽんと沖田の頭を撫でた。

「だけどね、沖田ちゃんは大事な仲間だし、なんていうかさ、妹みたいな感じだから手ぇ出したら終わりだなって思ってる一ちゃんの気持ちも分かってくださいな」

 だからこの話はここまでね、という気持ちでぽんぽんと頭を撫でたら、沖田はむうと膨れた。

「なんか斎藤さんが一人で納得してます」
「いや、沖田ちゃんも納得して」
「でも私で勃つって言いました」
「おいおいおい」

 のそっとベッドに乗りこんできた沖田に、斎藤はいったいなにがはじまるんです、と押し倒してきた沖田を抱えるようにしながら言った。

「落ち着こう、ね?」
「ものは試しです!私も何か分かるかも!」

 斎藤さんが好きとか嫌いとか!と言った沖田に、だめだこの子なんでバーサーカーじゃないんだ、と斎藤は驚愕と諦念と恐怖で以て妹のような、恋人のような女性を見つめた。





「はむっ」
「ね、そろそろ、本気でやめない?」
「や、です、だってちゃんと」
「あーあーきこえなーい」

 沖田の言葉に斎藤は全く何も聞こえないと言うように頭を振ったが、自身の顔がもう正視できないほどに上気しているのを感じていた。ついでに言えば、自身の怒張は沖田に咥えられていて、そちらも自分自身正視したくない。





 何かわかるかも!?と叫んで自分を押し倒した沖田は、その状態でいろいろ考えた末、「じゃあほんとに勃つか試しましょう!」と言ってきた。「小学生か!」と言ったが、なぜか貧弱だったはずの沖田に押さえつけられて、気が付いたら彼女は彼の急所を押えていた。

「落ち着こう、大丈夫、違うから、たぶん沖田ちゃんのとは違うから」
「だって」
「って、おい!?」

 そう言って沖田はスラックスのファスナーを下ろすと本当にべろとそれを舐めた。

「苦い?しょっぱい?みたいな?」
「コイツほんとに分かってねえな、ヤバイって、これかなりヤバイって!」

 素直すぎる味の感想を言われて斎藤はそこに熱がたまるのを感じた。

「あ、ちょっとかたくなってゃ」
「しゃべんな!」

 そこでこしょこしょとしゃべられて、もうどうしようもないと思った斎藤にそう言われて、沖田はこてんと首をかしげる。

「しゅうちゅう、しろ?」
「違う違う違う!?もうやめようって言ってるのね!?」

 しかし沖田は、自分自身のこの感情の名前を見つけるためだ、と思ってそれをハムハムと食んだ。斎藤はもうどうにでもなれ、と股の間で猫のように丸まる沖田から目をそらした。





「さいとーさん」
「はい」
「きもちい?」

(聞くな!!)

 そう思いながら斎藤は限界を感じていた。彼女の手前、忍耐力で何とか射精をこらえていたのだが、執拗に口の中で舐めてみたり舌で弄んでみたりしていたそれは、もう限界だった。なんだって沖田ちゃんにこんなことされてるの?と思ったが、その一因に自分が好きじゃないなんて子供じみたことを言ったからだと思ったらひどく気まずい。
 そう思った瞬間に、その急所に沖田の歯が軽く当たった。それが引き金になってしまった。

「沖田ちゃん、ごめん!」
「ふぁっ!?」

 彼女の顔を無理やり上げさせて突き飛ばすようにした瞬間に、もう十分に硬くなったそれから精液が迸る。白濁が彼女の顔に掛かって、いや、飲ませたくなかったからだから、顔射とかじゃないからこれ!とエロビデオみたいなことを斎藤は本気で考えた。

「苦い、です」
「舐めるな!」
「だってべとべとする」

 そう言ってぺろっとその白濁を舐めた沖田に、斎藤は自分の精液で最早AVの一場面か何かみたいになった沖田に「僕が妹に手を出すなんてそんなことあるはずない」と思ってから、

「AVのタイトルみたいだな」

 と口に出して言ってしまった。

「沖田ちゃん、何かわかった」
「わかんないです。でも斎藤さんは気持ちかったみたいで、じゃあ沖田さんのことは嫌いじゃないってことは分かったので十分で、へあ?」

 そう言われたら、斎藤の中の理性という名の糸がぷつんと切れた。

「そんな適当な感じでここまでした男を放っておこうなんてほど殺生じゃないよね、一番隊隊長さんは」

 そう言って斎藤はべろり、と沖田の顔を舐める。ああ、確かに苦いな、なんて思いながら。





「ていうかさぁ」
「ひゃうっ、やめ、て、くださ、い」
「やだ。ていうか沖田ちゃん濡れてるじゃん」
「ひっ」

 ぐちゅ、とそのぬかるみに指を差し入れればそこは既に濡れていた。生娘なのに、なんて罪悪感とも優越感とも取れる感情で斎藤は思った。

「僕の咥えて興奮した?」
「ちが、だって、初めて、だったから」

 全然わかんないです、と続けた沖田に、斎藤は最低なことを考えた。

「無知プレイってやつ初めてで興奮する」

 女ってば買うもんだと思ってたから、とへらっと続けた男に、沖田はどくんと心臓が跳ねるのを感じた。





「や、だめ、そんなっ」
「だめって、沖田ちゃんが僕にやったのと同じじゃない」
「ちが、ちがいます、んあっあっ」

 べろりと今度は斎藤が沖田のそこを舐め回す。それに沖田は頭が真っ白になるのを感じながらいやいやとかぶりを振った。いつの間にか体勢も逆になっていて、押し倒されている自分というのにも羞恥心というか、未知の感覚があった。

「ね、我慢できないでしょ」
「うぁっ」

 じゅると音を立てて愛液ごとそこを吸われて、彼女の体がびくびくと震える。イったな、なんて思いながら、斎藤は自分の中の理性の糸が切れてもう戻らないことを思った。

「ほんとはさ」
「ふぁい……」

 絶頂の余韻でぼんやりと返した沖田に、斎藤は薄く笑った。自嘲に近いかもしれない。

「こんな形で繋がりたかったわけじゃないんだぜ」

 そうだ、本当は自分の心を押し殺す自信があった。
 邪馬台国だってカルデアだって、妹のような貧弱ちゃんを手籠めにしたいといくら思ったって。そうだ、新選組にいた時だってそうだ。ずっとこうしたいと思っていた自分を押し殺してこられたのに。

「仕掛けてきたのは沖田ちゃんだからね」

 言い訳のように言って、彼はそこから顔を上げると、彼女の片足を高く持ち上げて、秘所をさらした。

「さいと、さん、な、なに?」
「挿れるよ」

 余裕も、躊躇もなく斎藤はそのぬかるみに自身の欲を叩きこんだ。





「いた、い」
「ごめん」

 ぎちぎちのそこで、破瓜の痛みはきっと刀で斬りつけられるそれとも違うのだろう、ぽろぽろと涙を零した彼女の頬を斎藤は緩く撫でた。

「ごめん、我慢できなくて」
「さいとうさんの、ばか」
「うん、もう僕が馬鹿でいいから、落ち着くまでこのままね」

 これじゃあ動いても抜いても痛いだろうと思ってそう言ったら、涙目の沖田が腕を伸ばしてきた。

「ぎゅってしてください」
「はい?」
「寒い」

 この状況で何を言ってるんだコイツはと思いながらも、斎藤は言われた通りに沖田を抱きしめる。ああ、やっぱり猫みたいだ、なんて思ったら少しだけ興が殺がれた。

「あったかい」
「はいはい。僕は湯たんぽですよ」
「ちがくて、なか」
「っ……!」

 興が殺がれたと思ったのに、急に殺し文句を言うな、と斎藤は叫びだしたかった。だから、もうどうにでもなれ、と本日何度目かそう思ってぐっと腰を揺らす。

「ひあっ!?」
「ごめん、動くよ」
「あつ、い」
「あーもうめちゃくちゃにしたい」

 そう言いながらも挿入はゆっくりと、破瓜の痛みを紛らわせるように動かしていたら、沖田は言った。

「きもちい、です」
「は?」
「やっぱり、さいとうさんのこと、すき、みたい」

 えへへと笑ってそう言った沖田に、斎藤はがつんと頭をぶっ叩かれたような気分になった。

「ひゃうっ、はげしっ、あっ、だめ」
「やーっと分かったならもう容赦しません」
「さいとうさん、だめ、なにか」

 きちゃ、う、とあえかな声で言った沖田に構わずに最奥を叩いて、今度こそ本当にその胎内に白濁をぶちまけた。





「さいとーさん」
「はい」

 少しの間寝ていた沖田の顔やら足やらを丁寧に拭いたところで、目を覚まして舌足らずに言った沖田に、斎藤は思わずベッドの下で正座していた。

(粛清される。ていうかその前に腹を切ろう)

 生き残ることだけが取り柄だったのに、と思いながらさて介錯は誰に頼むべきか、などともはや宇宙の果てに行ったような感覚で斎藤は思っていた。

「やっぱり私斎藤さんが好きみたいです」
「え、今更!?」

 えへへとゆるく、まぐわっているときにきもちいなんて言った時と同じように言った沖田に、斎藤は毒気を抜かれて立ち上がり、ベッドで横になる彼女の額を撫でた。

「お前ねぇ」
「はい」
「猫でも小学生でもないんだから」
「それは斎藤さんも一緒です」

 むっと膨れた彼女に、ああもういいか、と斎藤はその狭いシングルのベッドに飛び乗った。

「じゃあ湯たんぽになってよ」

 明日のことは明日考えよう、なんてひどく無責任なことを思いながら、彼は裸の彼女を抱きしめて、眠りに落ちた。

 ああ、傍の味だ、なんて思いながら。