掃除


「お掃除お掃除」
「沖田ちゃん楽しそうね」

 刀を雑巾に持ち替えて、屯所の障子戸を拭く沖田ちゃんを、僕は柱に寄りかかって眺めていた。

「楽しいというよりも年の瀬ですよ!掃除、手伝うって言ったくせに」
「あー、だってその辺はほら」

 一番隊隊長が率先してやっちゃうと他の隊士はちょっと引いちゃうんだよ、なんて言えなくて、というか沖田ちゃんがやり始めてから別のところでちょこちょこみんなやっているから、僕は監督しているようなものだ。

「ね、畳いい加減拭きたいんだけど」
「だからー、上から下ですよ。障子が終わる前にやったら余計汚れるでしょう?」
 これもなんだか毎年聞いているような気がするが、刀を持っている時よりも生き生きしているような気がして、見ていて楽しいのは秘密だ。

「はいはい」

 だからそんな気持ちを隠すように、僕は相変わらず楽しそうに障子を拭く沖田ちゃんを眺めた。





「お掃除お掃除」
「沖田ちゃん楽しそうね」

 ガーッと掃除機がなぜか僕の部屋に入ってきて、そうしてそれから「ボイラー室終わったんで」とそれだけ言って、沖田ちゃんは僕の部屋に掃除機をかけている。便利な時代だな、とどうにも時代錯誤なことを考えた。

「さすがに綺麗にしてますね」
「ん?」
「いやー、上から下まで掃除しなきゃかなって思ったんですけど床だけで済むのは土方さんと違いますね」
「あー、それはね」

 この時期になると相変わらず掃除に精を出している、ということは、まだここに来て二月ほどしか経っていないのに、歳末のこの行動が全然変わっていないのが分かっていたからだった。
 本当に、おまえは。

「変わらないね」
「え?」
「こっちの話」

 どうせこうなると分かっていて、ふと掃除をしたのが昨日か。鬼宿日なんて日本のサーヴァントくらいしか気にないだろうが、昨日ふと「明日鬼宿か」と口に出して言った僕は細かい掃除をしてしまっていた。変な話だが、次の日に沖田ちゃんが来て、掃除を始めるのが分かっていたからだった。事始めの一日前に事を始める、というのも変な話だが。

「あのさ」
「はい?」

 一通り掃除機をかけ切って、一息入れている沖田ちゃんに、というかハイテク家電にも慣れたものだなと思いながら、そこで思ったのは邪馬台国で稲刈りをしていた沖田ちゃんだった。

「おまえは刀で人斬るよりこういう方が似合ってるよ」
「んー?なんです、急に」

 それに僕は胡散臭いだのなんだのと言われる笑顔で言った。

「良いお嫁さんになりますよ、おまえは」

 にこっと笑って僕は真っ赤な顔を覗き込んだ。


2020/12/13