衝動


「ちょっと顔貸せ」
「は?」

 レイシフトから戻ってきて、なぜか三臨姿で返り血まみれの斎藤さんは、ダ・ヴィンチちゃんやゴルドルフさんが「医務室!」と言っているのにも関わらず、帰還を待っていた私の腕をつかんで言った。

「ちょっと、一ちゃん、霊基の数値が」
「怪我してない」
「あー、はいはい。ダ・ヴィンチちゃん、すみません。この人こういう人なんです」
「どういうひと!?」
「頭バーサーカー」

 人斬りサークルとノッブに言われるくらいのことはあるのである、なんて思いながら私はその斎藤さんに引きずられて部屋に連れていかれた。





「呆れた人」

 部屋に着くなり彼は血糊も落とさずに私に口づけた。家具が赤くなって、ネモさんが怒るな、なんて悠長に考える。

「少しは殺気を隠したらどうです?」
「お前相手に?」

 少し幼児退行しているのでは、と思うくらい短く言って、そうして彼はまた私に口づけた。

「そうですよ、そうやって」

 気が立っている、だけならまだしも、そうやって。

「口づけで沖田さんは殺せませんよ」
「……」

 あまりにも殺気立って、あまりにも血を浴びたからだろう。昔にもあった気がするが、そういう時は土方さんが冷や水をぶっかけるか、今のように私を「殺そうと」口づけるかの二択くらいなものだった。殺気立っている三番隊隊長なんて普通の隊士は暴れているより近づきたくないだろう。

「じゃあ喉を噛み切れば?」
「まあ死にますけどやらせませんから」
「だから沖田にしてる」
「呆れた人」

 もう一度私は言う。節度というか、これをやったら駄目とかそういう分別までは残っているからかえって厄介だ。

「血」
「シャワー浴びますか」
「いい」

 短くそう言って、彼はもう一度私に口づけた。血の味がする。そうして私はどんどんと彼の背中を叩いた。

「息できません」
「舌、出して」
「いーやーでーすー」

 というかそろそろ正気に返っているだろうと思って離れた唇に彼をぽすっと撫でるように叩いたら、斎藤さんは当たり前のように普段のようにけろっとしたヘラヘラした顔をしてた。

「ごめん、収まった」
「斎藤さんってたまにタガが外れるとまずいですよね」
「マスターちゃんの前では何とか」

 その言葉にはあっと息をつくと、彼は首を傾げた。

「沖田ちゃんはいつも相手してくれるし、いいかなって」
「この人は……ほんとに」

 変わらないのかあほなのか。

「とりあえずシャワー浴びてきてください。血糊片づけますから」
「シャワー浴びたらキスしてくれる?」

 甘えるように彼は言った。本当に仕方がない。

「血の味のキスはごめんですから」
「じゃあ綺麗に落としてきますかね」

 ……甘やかす私も、仕方がない。


2021/2/2