月は閉じ
「可愛い、よ」
ぴちゃ、とざらついた舌が乳房から離れる音がして、沖田ちゃんは声にならない悲鳴を上げた。
*
「しーあーいー!」
ぴょんと飛びついてきた沖田ちゃんは、邪馬台国でのうんぬんかんぬんののちにカルデアとやらに召喚された僕に、昔のように仕合をせがむ。
「お前ね、あれ忘れたの」
「あれはノーカンです」
「負けましたー!僕負けましたー!だから猛獣の相手はしませーん!」
だから僕は当たり前のようにいつも通りにそう答えた。そうだよ、沖田ちゃんを止めたかったのも事実だけどさ、負けたじゃん、僕。今更かっこ悪すぎでしょ。
「猛獣じゃなくて沖田さんですぅ!」
むぅと膨れて沖田ちゃんは僕の腕に縋りついて離れない。
「この子はほんとに」
思わずため息をつく。僕の無敵は自分が勝てるやつとしかやらないからだってのに、負けると知っていて一番隊隊長に挑んだ僕の気持ちを少しは考えてよ、なんてまどろっこしいことを考えた。
そうしてそれから、この妹のような子が、本当は好きで好きで仕方なくて、だけれどそれは親愛であって、友愛であって、とぼんやり考えた。
「しーあーいー!」
そう考えた瞬間にぎゅむっと柔らかい感触が腕に触れる。
(胸当たってんぞ!?)
仕合仕合とぎゅうぎゅうひっつく沖田ちゃんは全く気にしていないようだったが、邪馬台国を経てカルデアに来てみて、屈託なく笑い、明るくふるまう沖田ちゃんに、実のところ「女」を見ている自分がいるのにも気づいていて、最近彼女を遠ざけている理由の一つがそれだったから、この行動は大問題だった。
「離れなさい!」
「斎藤さんが冷たい…!?」
「当たり前でしょう、お前それでも」
女の子なんだから、と続けようとして、いや、僕そんなこと言っていいのか、と思いとどまる。彼女は仲間で、僕らと同じそこにいたじゃないか、と。
(おかしいのは、僕の方か)
「とにかく今日は駄目です」
きっぱり言って押し付けられた胸を引きはがしたら、沖田ちゃんは膨れながらも「土方さんに言い付けてやる!」とか言いながら走り去った。
元気なものだな、なんて思っていた。
*
「お前、沖田のことどう思ってる」
食堂でたくあん食いながらなぜか僕の前に座っていた副長に言われて、僕はコロッケそばにむせかえった。
この安っぽいのがいいんだよ。何とも言えない油が汁とそばに引っ付いて、とか考えながら、なんで今日に限って副長に監視されながら食ってんすかね、とか思っていたらこれだ。
「ゲホッ、ちょ、人が食事中にわけわからんこと言わんでくれますか、副長。脈絡ねーなこの人。バーサーカーだからか」
「うるせーぞ。最近アイツがうるさいんだよ」
「はぁ!?」
「『カルデアに来てから斎藤さんが冷たいんです。きっと邪馬台国で霊基に何か!』とか言ってんぞ」
「んなことあるわけないでしょーが!」
「だからうぜえって言ってんだろうが」
そう言って副長はぼりぼりとたくあんをかじった。
「一応言っておくけどな」
「はい?」
「お前バレバレだぞ」
「…え」
「あいつのこと女に見えてるだろ。最初から女だがな」
「はああああああ!!??頭バーサーカーの副長に言われたくないです!んなことあるわけないでしょ、沖田が女だぁ!?あり得んこと言うなこのバカ副長!」
僕が全力で言った瞬間だった。
「斎藤さん、あの」
「え」
トレーに乗っているのはカレーだった。ああ、沖田ちゃんいろいろ食べるようになったねぇ、精をお付け、とか僕は最早世界の果てにでも逃げ出したいくらいの気分で思った。
「あの、私そんなに駄目、ですかね」
女として、とつぶやくように言って、うつむいた沖田ちゃんに、僕はコロッケそばが伸びる、などと考えて、現実から逃避していた。
*
「斎藤さんとしてはあれですよね、猛獣なんて相手にしたくないですよね」
「そうじゃなくて、だから、そうじゃなくて!!」
食堂での一件以来、沖田ちゃんが一切仕合を申し込んでこなくなって一週間。あまりにも重い空白に耐えかねて、僕は沖田ちゃんを自室に呼び出していた。ちなみにボイラー室に織田信長を名乗る女性から誘われたが(邪馬台国の時からずっと織田信長が女であることがよくわかっていない自分がいる)、あんなところいられるもんじゃないし、カルデアにはちゃんと部屋があるじゃないかと思って僕は一人部屋である。
「だって、剣士としても女としてもだめだめだから斎藤さんがかまってくれないんじゃ」
「僕がいつそんなこと言いましたか!?」
「全力で言ってましたよ?」
「そうでしたね!!??」
もう自分で自分が何を言っているのか分からないような状態で、僕は眼前の「女の子」を見つめていた。
「沖田ちゃん」
「はい」
「というか沖田」
「……はい」
「僕が仮にお前を女として見ていると言ったらどうする」
ああもう何言ってんだ。絶対これ殺される。
「えっと、その、はい。別に女として見てほしいわけではないですが、なんというか、否定されるよりは、その」
だから花も恥じらう乙女のごとく顔を赤らめうつむけて言った彼女に思うことは一つだった。据え膳食わぬはなんとやら、だ。
*
「え、ちょ、斎藤さん!?」
「煽ったのは沖田ちゃんだからね、大人しくしてないと痛くするよ」
そう言って、天才剣士の腕をひとまとめに頭上にしてしまい、がばっとその可愛らしい着物の前をはだけたら、沖田ちゃんは怯えたように震えた。
「さいと、さん」
そう言った彼女が、こうして押し倒してみると自分が思っていたよりも数段小さないきものに見えて、僕は自分の中の雄がたぎるのを感じた。
そう思いながら、はだけたためにさらされた胸をべろりと舐めた。
「可愛い、よ。沖田ちゃん」
僕の言葉に、彼女は声にならない悲鳴を上げた。
*
「んっくぅ」
「沖田ちゃんさぁ、我慢しないで鳴いちゃえばいいのに」
「さいとうさ、ん、だ、め」
「なーにが」
「ふぁっ」
必死に嬌声をこらえる沖田ちゃんの乳房の頂を軽く食めば、彼女の体がびくりと跳ねる。胸ばかりいじってどれくらい経つだろう。一応、素直に喘いでくれれば次に進もうかな、なんてねちこいことを考えてはいた。
「だめ、だめぇ」
「なんで」
「しゃべっちゃ、だめ」
舌でその頂をもてあそびながら言えば、泣きそうな声で沖田ちゃんは言った。そうしてそれから、本当にすすり泣く声が聞こえて、あ、ヤバいと僕はちょっと我に返った。
「なんで、なんでこんなことするんですかぁ」
「沖田ちゃん、ごめ」
「斎藤さんのばかばかばかー!」
そう言って泣き出した沖田ちゃんの胸から顔を上げて、掴み上げていた手を離して、思わずあやすように抱きしめる。
「なんで、なんで」
「ごめんってば」
実際犯しているわけで、自分が何に対して謝っているのかも分からないような状態だが謝りながらぽんぽんとあやすように抱き寄せた沖田ちゃんの呼吸が落ち着くまで頭を撫でれば、彼女はぐったりと僕にもたれかかって言った。
「疲れました」
「初めてだもんんね」
ごめん、と僕はやっぱり意味不明な謝罪をした。
「こんな、なんで、もっと情緒」
「うん」
「本に書いてあるのと違う」
「あー、知識だけはあるこの感じ嫌いじゃないよ」
何言ってるんだ自分は、と思いながらぽんぽんとあやしていたら、沖田ちゃんは涙目で僕を見上げてきた。
「もっと優しくしてください」
「承りましたよ、お姫さん」
*
「ふぁ、あっ」
「そ、ちゃんと声出した方が楽だからね」
「んぁっ、さいとう、さん、そこ、だめぇ」
「だめ?」
そう言って彼女の秘所を軽く撫でながら彼女に口づけた。息と唾液を交換するような深い口づけに、彼女は呼吸が上手くできないようで、だからか、僕の指が自身の秘所をまさぐっていることを忘れてしまったようだった。
「大丈夫そうだな」
「ふぁっ…!あ、や、だめ、そんな、とこ!あっ」
だから唇を離して軽くそのぬかるみに指を差し込めば、沖田ちゃんは大混乱という様相で僕に縋りついた。
「斎藤さん、そこ、あっ、やぁ…!」
「そこって、ここほぐさないと痛いだけだからねー」
適当を言ったが、嘘ではない。そうして、そこに軽く指を差し入れただけでびくびくと震えて、未知の快楽やら恐怖やらに反応する彼女が可愛くて仕方がないと思う自分の倒錯した感情に、もうどうにでもなれ、と僕は思っていた。
「こ、こわい、んぁっ」
「だいじょぶだから、息吐いて」
「やぁっ、なか、はいって!」
少しずつ人差し指を差し入れる。奥に入り込めば入り込むほどに未知の快感か何かが押し寄せるように沖田ちゃんはふるふるとかぶりを振った。
「へん、です」
「変?」
「なにか、きちゃ、う」
「うそ!?」
僕はわりと本気で言ってしまい、それが殊更に沖田ちゃんを怯えさせることになることが頭から抜け落ちるところだった。だってまだ指一本だぜ?なにかきちゃうって何が来ちゃうの?
「わたし、やっぱりへん、なんですか?」
荒い呼吸で言った彼女の顔が真っ赤に上気していて、僕はくらりとめまいを感じ、そのままたった一本の指を押し込んで軽く曲げてみた。半分くらい、興味本位で。
「や、だめだめ、そこ、や、ぁ、ぁぁぁ!」
そうしたら、小さな悲鳴を上げて沖田ちゃんがびくびくと震える。え、これ絶対イっちゃたよね?何がどうして、指一本で生娘をイかせてるんだ、僕は。
そう思っているうちに、ぐったりとベッドに沈み込んだ沖田ちゃんに、僕は自分の中の雄が滾るのを感じていた。
「斎藤さん、ごめんなさい、私」
はしたない、とつぶやいたそれさえ火に油というやつだ。
「いいじゃない、はしたないの好きだよ、僕」
「スケコマシ、変態」
僕の言葉に、荒い息の中で精一杯言ってきた彼女の秘所には、まだ僕の指が入っていて、ゆっくりともう一本差し込めば、彼女はびくびくと震えた。まだ絶頂の余韻が残っているのだろう。
「やだ、待ってください」
「やだ。待たない」
そう言って僕はぐちゅと指を増やす。そうしたら、怯えたように腰を引こうとするから、それを抑え込んでぐりぐりと中をかき回したら、沖田ちゃんはもうどうしようもないと言うようにあえかな声を上げた。
「やだ、あっ、だめぇ、だめぇ」
「駄目だなんて嘘つきにはお仕置き」
そう言って空いている手で陰核を摘まめば、彼女はまたびくびくと震える。感度良すぎじゃないの、なんて思った。
「やあ、うそじゃなく、て、あっ、あ、さいとうさん、こわ、いから」
だめ、と繰り返す沖田ちゃんに、普段なら怖いからやめてと言われたら止めるだろうに、今は自分の中の劣情を刺激されるだけだった。
「増やすよ」
「ふぁっ?」
「もうそろそろ僕も我慢の限界なんで」
そう言って一気に三本指を突っ込んでぐちゃぐちゃに中をかき回す。そうしたら、もう彼女は何も考えられないと言うように喘いだ。
「あ、だめ、だめぇ、あっ、んぁっ」
細かな絶頂の波を何度も味わっているのは、差し入れた指が何度も締め付けられたから分かった。その様が余計に欲を煽る。
そうして僕は、もういいかなとその指をずるっと引き抜いた。
「あ、ん…やっと、さいとう、さん」
「やっと?なーにが?」
やっとやめてくれたと思ったんだろう沖田ちゃんに妖しく笑って、僕はスラックスの前を開けた。もう十分に硬くなった自分のそれを、彼女の秘所に押し当てたら、ぬるりとした彼女の愛液が絡みつくように垂れて、それがますます劣情を呼び起こした。
「さ、さ、さいとうさん、それ!?」
「それってこれのこと」
「み、見てないです!」
なんだかんだ言いながら自分の中に入ってきそうな男のそれを見てしまった沖田ちゃんはぶんぶんと頭を振る。忘れたくても忘れられないのだろう、顔は真っ赤だったけれど。
「ちゃんと見ててよ、僕らが繋がってるとこ」
意地悪く言ったが、彼女はやっぱり必死で目をそらす。そりゃそうか。
「ま、いいけどさ」
そう言って絡みつく愛液と、自身の劣情と期待が混じった先走りでぬるつくそこにゆっくりと怒張を押し当てる。
「さいとうさん、まって」
「最初は痛いから、我慢してね」
今更待てなんて、猛獣じゃなくたって出来ませんよ。そう思いながら、僕は一気に彼女のそこを貫いた。
「いたっ、あ、やっ」
「ちょーっと待ってね。大丈夫だからね」
そう言いながらも、自分のそれに流れてきた鮮血に、サーヴァントにも処女とかあるのか、と僕はもはやどうでもいいことを考えていた。ていうかやっぱり沖田ちゃん処女じゃん、なんて当たり前のことを思いながら、ゆっくりと腰を動かして、指よりも質量のあるそれで中をほぐす。
「さいとうさん、だめ、あっ」
「ちょっと気持ちよくなって、きた?」
聞きながら僕も少し息が上がってきた。一気に挿れたから、もあるが、何この子、めちゃくちゃ締め付けてくるんですけど、と僕は現実逃避気味に考えた。
「体の相性は、いいみたいだね」
「すぐ、そういうこと、言う!あっ、やぁ…」
ぐいと腰を押して言えば、沖田ちゃんは破瓜の痛みから今度は未知の快楽に襲われたように顔を真っ赤にして喘いでいた。そう言えば何度か締め付けが強くなったから、細かな絶頂を何度も味わっているのだろうと思ったら、それがどうにもほの暗い欲に火をつける。
「あっ、だめ、んっ」
「ね、そんなんじゃなくて、さ」
ぐっとねじ込んだそれを奥に当てれば沖田ちゃんはもう声にならない悲鳴のような嬌声をあげて、涙目で僕を見上げた。
「本気でイっちゃいなよ」
「あ、あ」
怯えたように、羞恥を隠すように、それでもはくはくと口を開く彼女に口づけて、僕は最奥に自身をぶつける。
「あっ、だめ、だめ、なにか、あっ」
口づけたそれを離せば、初めて味わう女としての快楽に飲み込まれるように僕を締め付けた。
「ごめん、不可抗力!中に出すよ」
「さいとうさ、ん、うぁ、あつ、い、ああ!」
熱い、なんてここまで来てなんで煽るのさ、と思いながら、僕は劣情を彼女の中にぶちまけた。
*
「やってしまった」
すーすーと寝息を立てる沖田ちゃんの横で、なるべく彼女の身を清めようとタオルやらなにやらを用意している自分があまりにも現実味を帯びていて、今までやっていたまぐわいというかセックスとか現代ではいうやつが、本当は夢かなんかなんじゃないかと思いながら、僕はゆっくりと眠る彼女の体を拭いた。
「いや、夢で中に三発はない」
自分で言っても最低だ、と思いながら、あれからずっと互いに汗だくになるまでやっていた自分たちは、剣で斬り合うよりもかなりヤバいことをやらかしたんじゃないかと思った。
「最低だ。やってしまった。妹に手を出すってこんな感じなのか」
ぼそとつぶやいたら、その当事者である沖田ちゃんがもぞもぞと寝返りを打った。初めての後にしては余裕だな、なんて思った。
「さいとうさん」
「はいはいってぇ!?」
思わずいつものように軽く返事をしたが、起きていたらこれはまずいと思った。だけれどやっぱり彼女は寝ていて、それが寝言だと分かって僕は安堵していた。
だけれど、そのあとに続いた寝言に、僕は本気で困ってしまう。
「すき、です」
あのね、沖田ちゃん。そういうことは、起きてるときに、素面で言って。
なーんて思う僕も、ずいぶん焼きが回ったな、と思いながら、僕ははいはいといつものようにその寝言に返して、彼女の髪を梳いた。
「猟奇的なキスを私にして」