頭痛


「あーばーれーなーいーでー!」
「やだ!」

 子供のように言って斎藤さんは障子に穴を開けた。刀で。鞘から抜いていないだけましだろう、と思いながらも、それだって傍迷惑だ。

「沖田ちゃん遅いんだもん!」

 本当に子どもに返ったように彼は言う。頭痛、だ。彼は頭痛がひどくなると暴れ回って手が付けられなくなる。

「ほら、山崎さんから薬もらってきましたから」
「苦いからやだ」
「わがまま言わない!」

 そう言って私は暴れる斎藤さんを取り押さえる。そうしたら途端に素直になったようにストンと彼は腰を下ろした。

「沖田ちゃんが飲ませてくれるなら飲む」
「ほんとにもう」

 そう言いながら、私は山崎さんに頼んで持ってきた湯呑の白湯を渡して、山崎さんからもらった粉薬の包みを開く。

「ちゃんと飲んでください」
「飲ませて」

 そう言って斎藤さんは寄りかかってくる。いつものことながら、本当に大きな子供だ。

「口開けて」
「はい」

 ひな鳥のようにそうした彼の口に、粉薬をとりあえず入れたら、彼は盛大に顔をしかめた苦いのだろう。それから彼は湯呑から白湯を一気に飲む。

「にがい」
「良薬口に苦し、です」

 そう言ったら、斎藤さんはごろんと私の膝に横になる。

「寝る」
「はいはい」
「そばにいてよ」
「分かってますよ」

 ぽんぽんと私は彼の頭を撫でた。それで痛みが取れればいいと思いながら。





「錠剤は苦くないから自分で飲みなさい!」
「やだ、沖田ちゃんが飲ませて!」

 ダ・ヴィンチちゃんから引き取った頭痛になった斎藤さんは、カルデアでもこれが何度目だろう。錠剤なんだから自分で飲めるのに、と思っているというのに、彼は相変わらず子どもに返ったように私に飲ませろとねだる。

「斎藤さん、没年が精神年齢とか言ってますよね?」

 ぽつりと言ったら、今日は隊服ではなくコートの斎藤さんはやだやだとかぶりを振る。

「それとこれとは別ー」
「別なものですか!」

 私がそう言ったら、ちょっと開いていたそこに、彼は自分が飲むはずの錠剤を私の口に放り込んだ。

「ちょっ!」
「ねぇ、飲ませて」

 そう言って彼は私に口づけをねだる。ああもう、薬だって有限なのに!こんなふうにするのは今日の彼がどちらかといえば年上の姿だからろう、と、そう思いながら、私は頬が紅潮するのを感じながら、少しだけ水を含んで、彼に口づけた。

「んっ。ごちそうさま」
「満足したなら寝てください」
「沖田ちゃんが膝貸してくれたら寝る」

 本当に、我儘ばっかり。

「仕方ないですね」

 本当に、困った人。
 だけれど、そんな彼を甘やかしてしまうのは、ずっと昔から変わらないと思ったら、私だって。

「仕方ない、ですね」


2021/1/16