流山にて

 あんたを武士にしたかった。本当なんだ。
 旗本になって、だから、だから。
 なれた、と思った。思っていた。

『なあ、歳。ここまで来たなあ』
『ああ』

 言葉を思い出して、だから、俺は。

「なあ、歳。ここまで付き合わせて悪かったなあ」
「近藤さんが悪いわけないだろ!」

 叫んだのに、近藤さんは笑っていた。なんで、だよ。
 武士なら腹を切るなんてそんなことどうでもいい。
 武士なら首を落とされないなんてそんなことどうでもいい。
 ただ、俺は、あの日あんたに出会った日から、あんたと一緒にいられれば、なんだって良かったんだとそこで気が付いた。
 武士でも、百姓でも、ただの道場通いでも、なんだって良かったんだ、本当は。
 ただ、あんたの隣にいたかった。それだけだったのに。

「付き合わせたのは、きっと俺だよ」

 力ない言葉に、男は笑った。


 流山にて