「好きや、言うたらどないする?」
それは殆ど日常の会話と変わらない感覚で俺の耳に届いた。
ヒュッと空を切る音がして苦無が人形の首元に刺さる。
彼は自分で言ったにも関わらず、人形に集中している様で、次に投擲する苦無を手にした。
「…好きにもいろいろあるだろ。likeとかloveとか」
「何やねん、それ」
「ああ、悪い。ちょっと癖で…お前、鉄のことも好きだろ?」
「…まあな」
今度は心臓に鋭利な刃が刺さる。
「それとは違うのか?」
「野暮なコト言わすなや」
一切視線を交わさずに、いつもと変わらない速度で会話が続く。
「じゃあ、『好き』でどうしたいんだよ」
問い掛けに、彼はやはり視線の一つも寄越さずに手に持つ得物を千本へと持ち替えた。
「抱かせてやってもええ」
例えばここに鉄が居ても、なんらおかしくない程、普通に彼は言った。千本が彼の手を離れて、綺麗な等間隔で人形を左右に分割するように刺さる。
「なんだ、抱かせろって言われたらいくらでも言い返すのにな」
「お前なん抱くくらいやったら廓行って女買うわ」
当たり前のことの様に言って、彼は素足のまま縁側から降りた。一瞬顕になった白い踝。
「…美味そうだな」
口をついて出た言葉に、彼は相変わらず振り返りもしない。しかし、少しだけ震わせた肩から彼が笑っていることが窺い知れた。
「美味そうやったら、喰えばええやろ」
その声に、俺は彼の背中にうっそり嗤った。