アイすべき


「斎藤さんって思ったよりお菓子食べますね」
「えー?うん、折角だしね」

 そう言って、カルデアの食堂で斎藤はアイスクリームをスプーンですくった。

「アイスクリンはあったのよ、僕の頃も」
「ああ、明治」

 特段の感慨もなく、互いに言う。それはいつを生きたとかそういう重い話ではなく、単純に「よく食べるな」程度の感覚だった。
 彼はカルデアに来てからずいぶん菓子類を食べているなというのが沖田の正直な感想だった。

「その心は」

 だからふとアイスを食べる彼に問いかける。そうしたら彼は溶けないうちにそれを食べきって彼女に答えた。

「酒」
「はい?」
「飲むと赤い兄ちゃんが怒るのよ」
「はい?」

 もう一度同じ言葉で応じたら、彼は言った。

「知ってると思うけど僕辛党でね」
「まあ飲みますよね、あなたは」
「酒呑童子さんとか飲んでるしいいかなあって飲んでたらエミヤさんに怒られましてね」
「どこで飲んだんです?」
「マスターちゃんの部屋。あ、飲ませてないよ、マスターちゃんはジュース」
「当たり前でしょう」

 なんだこのバカは、マスターの教育にこの上なく悪い、ダーオカと同レベルだ、と頭の中で思いついた罵詈雑言を彼女は飲み込んだ。そうしていや、岡田だってさすがにそんな真似はしないだろうと思い直す。

「同僚がダーオカ以下とか沖田さん悲しいです」
「やめてくれる!?土佐のアレと一緒にしないで!?」
「いや、やってることは最低ですよ」

 そう言ってはあとため息をつき、なぜか自分の分も用意されていたアイスクリームを食べて、ほうじ茶を飲む。何とも言えないチョイスはでは誰がセッティングしたのだろう。美味しいけれど、と彼女は思った。

「それでこれですよ」
「……これ、は…!?」
「シオンさんにちょーっと袖の下を渡しましてね。具体的にはジャパニーズ幕末明治の学問とか。培養場からこちら」
「斎藤さんアホでしょう。そこまでして」

 そう言って斎藤が見せたのは人参だった。報酬に人参。菓子類は洋風でも付いてきたのはほうじ茶。タマモキャットで間違いないだろう。そう思ったところでその当人だろう彼女が現れた。

「そうだ。出来るキャットもさすがにマスターの手前酒は準備せぬが菓子なら人参で用意しよう!」
「キャットさん、アホの相手しなくていいですよ、本当に」
「なんと!?今日はカップル割引で人参一本で二名様分作ったのにそれはひどい!」

 タマモキャットのその言葉に、沖田は一瞬動きを止めて、その言葉を咀嚼する。カップル、割引?

「逢引にはやっぱり甘味でしょ」

 笑って男は言った。




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