本命


「なんかでですね」
「うん?」
「『一君と付き合ってるの!?』って凄まれたんですけど」

 ジューとパックジュースをすすって沖田は部活終わりに言った。昼休みに先輩(学年を示すバッジがそうだったから、多分三年生だ)に言われたのだった。

「え、その人すごいね。沖田ちゃん大丈夫だった?殴ったりしてない?」
「そっちの心配ですか。さすがにそんなことしませんよ」

 彼女の言葉に、斎藤が最初に思ったのは「相手無事かな」だった。ひどい。
 そうしてそれから、彼女にそんなことを言いそうな相手、というのが自分の中で何人かいるな、と思い、それがどうにも可笑しかった。申し訳ない、という気持ちにならないのは性分だ、などと誤魔化して。

「ていうかですね、私斎藤さんと付き合ってると勘違いされること多いんですよ」
「え、うん。知ってる」

 平然と答えた男に、沖田はハアとため息をついた。こんな話題振った自分が馬鹿だった、というように。

「別にそれはいいんですけど、斎藤さん痛い目見ますよ?今何人です?」
「うーん、数えてないけど5人くらい?」
「キープ含めて?」
「それは数えるの無理」

 サイテーと沖田はそれに一言言って、もう一度パックジュースをすする。オレンジジュースは過酷な部活の後に沁みるなどとしみじみ思いながら。

「斎藤さんと私ってそんなに付き合ってるように見えますかね」

 ただの部活仲間で友だちでしょ?と彼女は言った。

「……」

 それになぜか斎藤は押し黙る。その沈黙が妙に変な気がして、沖田は彼を振り返った。

「どうしました?」
「そんなんなら付き合ってる子も全部やめるしキープもやめるし沖田ちゃんの友達もやめる」
「はい?」
「僕わりと真面目に沖田ちゃん好きよ」
「は?」

 今までの、こうやっていろいろな相手と付き合って嫉妬させようとしていたそれが全く通じないなら、もう直球しかないだろうと彼は思った。自分に似合わないのは知っているけれど。

「まずはキスでもしますかね」
「んむっ!?」

 そう言って斎藤は彼女に口づけた。オレンジジュースの匂いがする口づけなんてなかなか青春じゃないか、なんて思いながら。