香り
「女!?出来たの!?やめて!」
斎藤の空しいまでの悲鳴が廊下に響いて、肩を掴まれてそれを聞かされた沖田は、何がどうしてこうなった、とため息をついた。
*
「あちゃー、シャンプー切らしてましたか。沖田さん大失敗。まあ石鹸でいいでしょうかね」
「あら沖田さん、乙女がなんてこと言うんです!」
「あ、清姫さん。いや、今から調達もダ・ヴィンチちゃんに悪いというかもうお風呂に入っちゃってますから。ほんとに頓着がなくて駄目ですねえ」
そうたまたま洗い場で隣り合わせた清姫に言えば、彼女はキッと目を吊り上げた。
「髪は女の命、と申しますわ。今日だけは石鹸なんて絶対ダメ。これを使ってくださいな」
「え、あの、でも」
「なんなら洗って差し上げます!私の使っているこれはですね」
髪質を選ばないから、とか、滑りがよくなる、とかいろいろと言われて、髪を洗ってくれそうになった清姫に、沖田は焦ったように言った。
「お借りしますから、自分でできますから!」
「あら、そうですか?ですけど沖田さん、髪は女の命、ですからね」
釘をを刺すように言われて借りたそれは、ふわふわふと花の香りがするようなシャンプーだった。
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「うーん、確かにつるつるすべすべになりましたけど、少し香りが強いですかね」
花の香り、と沖田は普段自分が使っているものよりもかなり上等だろうそのシャンプーによって滑らかになった髪を触りながら言った。
「こういうのってどこで買うんでしょう?私購買のものしか知らないですし…これの微香性のものとかないですかね」
ぶつぶつと廊下で立ち止まって沖田は自分の髪を検分する。確かに普段から頓着していないが、こうしてすべすべした手触りになると少し憧れるというものだ。ただやっぱり少し香りが強い。そんな時だった。
「沖田ちゃんから知らない女の匂いがする」
「え」
なんだその不倫の証拠をつかみかけた女みたいな言い分は、と思いながら沖田は振り返る。そうしたらそこに情けないほど焦った斎藤がいて「ああ、これは面倒だ」と彼女は思った。
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「だからですね、清姫さんに借りたんですよ、シャンプーとトリートメント」
「ほんとに?ほんとに女じゃない?」
「なんで私に女が出来るんですか!私も女ですよ!」
「沖田ちゃん女の子にモテるから」
しくしくと泣き出しそうな勢いで行ってきた斎藤に、本当にどうしたものかと思っていたら、斎藤は言った。
「女じゃないならいいんだけどさ。気に入ったの?」
「え?いや、使い心地はいいんですが如何せん香りが」
それこそ浮気現場のように言われるくらい香るのはさすがに、と言ったら斎藤は続けた。
「じゃあ清姫さんに微香か無香ないか聞いてみるよ」
「え?」
「気に入ったんでしょ?」
今までのそれが何だったのか、というほどけろっと言った男に沖田はまたため息をついた。
「仕方のない人ですね」