乾かす
「あー沖田ちゃんの髪洗ってあげたい」
「気持ち悪いなお前」
臆面もなく言った斎藤に、土方は正直な感想を告げた。茶を飲んでいたら「相席いいですか」と言われて絶対ロクでもない話だろうから、と思って席を立とうとした土方を、斎藤の目が縫い留めた。妙なところで迫力を出すな、と思った結果がこれだ。
「こないだ清姫さんに聞いたらやっぱり微香性のシャンプーあったんですよ」
「……脈絡くれ」
「で、買いに行ったまではいいんですけど、ロンドンだったかな、すごいですね」
「何の話か教えてくれ」
土方は面倒になって最近沖田がシャンプーを変えただのそういった話をする斎藤にげんなりと言った。
「髪洗わせてほしい。沖田ちゃんわしゃわしゃしたい」
「気持ち悪ィ」
土方は盛大にため息をついて言った。気持ち悪い。なんだコイツ、と。
「せめてドライヤー掛けさせてほしいなあ」
「帰れ!」
そう土方が言った時だった。
「うーん、今日は洗面台が混んでますね。部屋で乾かしますか」
「急いで乾かさないと傷みますものね。待っているよりそういたしましょう」
食堂の横を通りかかった沖田と清姫の声に、斎藤はバッと立ち上がった。土方は自分の部下(もちろん沖田だけだ)に「悪いな」と何に対してかもう分からない謝罪をした。
*
「はい動かないで」
廊下を通りがかった沖田をがっちり捕まえて、斎藤は彼女を部屋に連行した。風呂上がりで無防備だった沖田はそれを遮れずにそのまま連れていかれたところである。
「あの、斎藤さん、なんなんですこの変態!」
「あ、ヘアオイルは付けてる感じの香り。さすが清姫さん」
「だから、なんなんですか!」
「え?髪乾かしてあげるよ?」
そう言って彼は部屋に備え付けのドライヤーをごそごそと取り出す。相変わらず最新鋭の設備はダ・ヴィンチの趣味かシオンの趣味か。
「あれよ、シャンプー買った時からずっとこう、髪を洗ってあげるかせめて乾かしてあげたかったの」
「へ、変態だ!」
がっちり背後を押さえて「動かないでねー危ないからねー」と子供に言い聞かせるように言いながら、ドライヤーの温度を確かめて、それから彼は沖田のふわふわした髪にそれを丁寧に当てる。
「いいなあ、なんかこれ」
「どこがいいのかさっぱりなんですか」
面倒になってきてされるがままになっていた沖田の髪に、丁寧にドライヤーを掛けて、それから斎藤はカチッと電源を切った。
「はい、お終い」
「はあ、どうも」
もしかして自分でやるよりも綺麗になったのでは、なんだこの人、と思いながら沖田は礼を言う。そうしてどうして急にこんなこと、と問いかけようとしたら先に答えは出てきた。
「なんていうか、すごく光源氏感ある」
「……やっぱりただの変態じゃないですか」
冷たく彼女は言った。