風邪


「軽いシュメル熱ですね。最近バビロニアにレイシフトしたようですから」

 コホッとマスクをしたまま咳をして、眼前でナイチンゲールさんに診察してもらった僕は何度聞いてもそれが分からないでいた。『軽い』『シュメル』『熱』……。前に沖田ちゃんもかかっていたが、訳が分からないよ、というのが本音だった。

「えっと、要するに風邪、ですかね?」
「症状は軽いですし致死率の高い時期も違いますから風邪と認識してかまいませんが、風邪を侮ることは許しません」
「いえ、そういう意味では」

 自分の知っているバーサーカーが基本的に副長だけなので、その圧の強い言葉に僕は気圧されていた。

「エレキシュガルさんから薬を手配してもらいましたから、それを飲んで一週間は安静にしていること。破ったら殺してでもベッドに縛ります」

 平然と言ってるけどこれ絶対やるよね?と僕は思って、こくこくとうなずいた。





「斎藤さん、シュメル熱だって聞いてお見舞いに来ましたー!」
「ああ、沖田ちゃん。ごめん、今僕ベッドから動くと殺されるから」
「え?ああ、ナイチンゲールさんですか。それじゃあ仕方ないですね」

 当たり前のように朗らかに言った沖田ちゃんに、え、これもしかしてカルデアの常識なの?と僕は戦慄した。バーサーカー怖い。

「何か食べられそうですか?」
「うーん、冷たいもの?一応飯は食ってるけどカロリー摂れってさっきアスクレピオスさんだっけ?に言われた」
「じゃあこれがいいですかね」

 そう言ってごそごそと保冷バッグから沖田ちゃんはゼリーを取り出してスプーンですくった。

「はい、あーん」
「へ?」
「だってベッドから起きたらナイチンゲールさん怒りますよ」

 そんな軽いノリでスプーンを向けてきた彼女に、僕はまだ少し熱があってぼんやりする思考のまま、風邪をひくのも悪くないと思いながら、そのスプーンごと、彼女の指をぱくっと食んだ。

「ちょ、斎藤さん」
「病人には優しくしてください」

 言い訳を言ったら沖田ちゃんは笑った。

「仕方ない人ですね」