こんなにも


「はい、お茶どうぞ」
「あ、すみません」

 そう言って沖田は食後のお茶を当たり前のように持ってきた斎藤と差し向かいで昼休憩を取る。

「あのですね、斎藤さんもまだ慣れなくて忙しいでしょう?私の相手しなくたっていいんですよ」

 持ってきてもらったものはありがたいからそのお茶を飲みながら、だけれど彼女は毎食を共にしている斎藤にふと言った。

「え?別に僕がやりたくてやってるっていうか、たまたま時間被るじゃない」

 時間の有効活用、と斎藤は続けて、自分の分のお茶を飲んだ。
 ほら、こんなにも甘やかしている。





「あ、斎藤さん!」

 坂本と話していた沖田は、ひらひらと向こうから手を振る斎藤にぶんぶんと手を振り返す。狭いカルデアの中だというのに、と坂本はやれやれと思う。

「お団子、食べる?」

 そこからおーいというように斎藤は声を掛けた。坂本との話は雑談程度で、今すぐに、という訳ではないから、沖田は言った。

「坂本さん、どうですか?」
「いや、僕はいいよ」

 行っておいで、と彼は言った。

「うーん?そうですか。じゃあ斎藤さんが呼んでますし」

 団子につられたのか、斎藤が呼んでいるからなのか、と思いながら、坂本はため息をつく。

「困った人だなあ」
「馬に蹴られたくないもんな」

 そう言った彼にお竜がそう言う。その通り、なのだけれど、と思いながら二人で団子を食べる斎藤と沖田を二人は眺めた。
 ほら、こんなにも排してる。





 どしゃ、とエネミーの急所を叩き斬る。ああ許せない、と思いながら。
 不覚を取ったわけではない。ただマスターをかばって沖田が傷を負った。大した傷ではないことは分かっているのに、本当に許せない。
 マスターではない、エネミーでもない。自分が許せない。

「斎藤さん、大丈夫ですか」

 本当ならこんな派手な真似をしなくてもいいのにやったために、返り血まみれの彼はその赤の中でにこっと笑った。

「沖田ちゃんこそ大丈夫?」
「私もマスターも全然です。それより怪我!」
「ないよ、どこにも」

 お前と違って、と思ってガリっと斎藤は唇を噛んだ。ああ、自分が許せない。
 ほら、こんなにも怒っている。





「好き、大好き」
「あ、の」

 沖田をベッドに押し倒して、斎藤は言った。こういう関係になっても彼はこの睦言を忘れたということがない。

「愛してる」

 すべてを甘やかして、すべてを排して、すべてに怒って、すべてを愛して。
 ほら、こんなにも、「愛している」。