みとめたくないな


「認めたくないな」

 戊辰戦争は終わり、西南戦争も終わった。どっちつかずの蝙蝠のような生き方だったと自分でも思うが、沖田ちゃんを置いて、副長を見送って、そうして生きた自分、というものがひどく重苦しかった。

「認めたくないな」

 自分が生きているなんて。
 そんな資格、本当は自分に一番ないはずなのに。もっと先に行きたかった男も、もっと生きていたかった女も、どちらもいなくなってしまって、そうして自分だけが生きている。
 認めたくない。認められない。

「本当に生きるべきだったのは」

 誰だろうか。問いかけに答える者はない。





 だから、邪馬台国で沖田ちゃんと副長に会って、それからカルデアに戻った僕には、その生の実感というものが欠片もなかった。
 認められなかった。こんな、新しい命。生まれ変わったわけではないというけれど、そこまでして行きたいと、生きたいと、誰が言った。
 そうして思う、戻った?と。ここに?僕の戻るべき場所はどこだ。

「認められない」

 だから、信長を名乗る女性や土佐の人斬りと楽しそうに笑う沖田ちゃんが、どうにも遠かった。





「斎藤さん?」

 廊下ですれ違いざまに、彼女の首元を捉えて壁に押し当てる。締まってはいから、彼女は明瞭な声で僕を呼んだ。斎藤一、新選組三番隊隊長の名を。だから僕はその手に力を籠める。

「これじゃあ息が出来ません」

 そうだというのに、その新選組一番隊隊長の女性は、自分が首を絞められているという状況を簡潔に説明した。それじゃあ僕があまりにも滑稽だ。

「認めたくないな」
「はい」
「お前が生きていて、僕が生きていたくないここなんて」

 そう言ったら、彼女は首を絞める僕の手をゆっくりと取ってそれからそのまま腕を引き寄せ、抱き寄せた。絞める?全然そんな力籠っていないから、彼女にこんなにも簡単に引き寄せられるんだ、と回らない思考が考えた。

「認めたくないですね、あなたが生きてる。私も生きている。誰が望んだのか分からない」

 女は言った。そうして僕をあやすようにぽんと頭を撫でた。姉のような妹のような女性に縋るように、僕はもう一度ぽつんと言った。

「みとめたくないな」

 お前が、僕が、生きているなんて




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みとめたくないな