食事


 サーヴァントは食事を必要としない。嗜好品だ、と言われても、どうしてもそれが腑に落ちない。このカルデアには食堂があるし、何より生前の自分がこびりついている僕にしてみれば、食事を摂ることは生活の上で必要最低限のことだと思うからだった。

「という訳でコロッケそば」
「……斎藤さん」
「んー?」

 ずるずるとそれを食べながら、先ほど言ったことに沖田ちゃんが今日の定食(多分Bかな)を見ながらふと声を掛けてきた。

「斎藤さんにとって、食事を食べる、ということは当たり前のことですか」
「そうだね。なんていうか、近代?じゃないけどさ。長生きしたし」
「美味しいですか」
「うん」

 短い会話は、どんな意味を持つだろう。沖田ちゃんだって飯を食ってる。それは人間なら当たり前のことで、サーヴァントなら無意味なことだ、という境界線がぐにゃりと見えた気がした。

「生きている、と感じるのはどんな時ですか」
「飯が美味いときと、血が流れたとき」

 僕は彼女の問いかけに即答した。それ以外にない。生きている。飯が美味い、傷が痛み血が流れる。

「そういうふうにしか、生きられなかった」
「そうかもしれません」
「だから一ちゃんは遠慮なしに飯食いますよ」

 そうして「ごちそうさまでした」と先に食べ終わった僕は食後の挨拶をして席を立とうとする。それを彼女の鋭利な視線が縫い留めた。

「あなたは、生きた」
「お前よりずっと長く、ね」

 言いたいことは分かっていたから、僕はそう答えた。

「斎藤さんと食べたご飯は美味しかったです」

 同じ釜の飯、なんて言葉を思って、遥か昔のそれを思った。だけれど、それはもう置いてきたことだったから、僕は笑って言った。

「今も沖田ちゃんと食べると飯が美味いから、もうちょっとここにいようかな」

 美味しいと思ってくれる?と問いかけたら、彼女は笑った。

「ありがとうございます。美味しいです」