年上の男
「沖田ちゃんに年上彼氏?」
ぐしゃっと缶ジュースを握りつぶした斎藤に、コイツの握力どうなってんだと同級生の男子生徒は、いや、聞いただけだから!と逃げを打って次の時間の準備をした。
*
「おーきーたーちゃーん」
「はい?」
剣道部の部活が終わり、いつも通り一緒に帰ろうと言われるのかと思った沖田は、笑顔で近づいてきた斎藤に不思議そうに首を傾げた。いつもと様子が違うのは分かったからだった。
「あ、そういえば斎藤さん。今日私、先約というか用事がありまして」
「彼氏?」
ドンと無作法にも程があるように道場の壁に彼女を追い詰めて言えば、沖田は怯えたように肩をすくめた。
「あの、なんで怒ってるんですか?」
「彼氏いるのって聞いてるだけだけど?」
にこっと笑って聞かれて、斎藤さんは彼女いるくせに!と言い返したくても言い返せない雰囲気に、沖田は彼から目をそらすことしかできなかった。
「そういう反応ってことはほんとに彼氏?」
「違います!」
「僕さ、今日クラスの男子に聞いちゃったんだよね。休みも年上の男といたって」
「だから、それは」
何と答えればいいのか、羞恥心の方が勝ってしまって沖田はうまく言葉を紡げない。赤らめたその顔を、やっぱり男だ、と判断した斎藤は、さらに体を寄せて彼女を壁際に追いやる。
「斎藤君?」
そこに掛けられたのは、剣道部の外部顧問の山南の声だった。そういえば今日は山南先生が来ていたからいつもより過酷だったな、と斎藤は思い至る。
「沖田君と帰るところなんだけれど、どうかした?」
「え?」
「山南さんは近所で学習塾もやってて!私がこないだ赤点すれすれだったから先週から休みと放課後に勉強見てもらってるんです!」
こんなの恥ずかしくて言いたくなかったのに!と沖田が叫んだら、斎藤はへなっと力が抜けたように、壁に着いた手を下ろして沖田に縋るように抱き着いた。
「良かったぁ」
「はい?」
そう言った斎藤に、山南は笑った。
「若いっていいね」