三成くんって実際召喚されたらクラスなんだろうなあーっていうのを考えていました。なんでもできそうだよねって考えていたらなんかいろいろ問題しかない話になったので短いですが上げておきます。
余談ですが切腹って介錯がいる時点でこう、なんていうかこう、いろいろやり方とか設定ミスってる気がすると昔から思っています(本当に余談)。武市先生のやり方ですら介錯がないと死ねない時点で十分おかしいんですけども、それを正式なものとしてずっとやってんの狂気の沙汰だろ、長屋王あたりを見習いなよ。
あと更に余談なんですけども介錯がいる理由の一つにあるらしいですが、切腹ってアレ動けなくなる原理は確か腹膜損傷時の神経迷走ってやつらしいですね?(うろ覚え) 私は採血で倒れるのが別に痛いとかじゃなくて単純にこれと同じ神経迷走らしいので、山南さんもそもそも切腹に美しさがあったことが信じられないし、三回やっちゃってる武市先生とか「腹だけじゃなく首も切っとくか」的な田中君も、精神論じゃなくて物理的に無理ゲーです。昔の人ってすごいですね(今日採血で最初からベッドだった人)(なんか5本くらい? 大量に採られて凄く悲しくなりました)。
そんな石田三成くんがカルデアに来た話です。嫌な予感がしますね。
前田利家みたいになりたい、不労所得百万石くらい欲しい。
懐剣
「よく分からんよね」
信長公に言われてふと自分の手を見た。よく分からない、確かに。
「英霊になるためにバックボーンっていうか、なんかそういう逸話がいるとして、それなりに形になる話みたいなもんがあるとして、ワシがアーチャーなのはまあいいじゃろ、結構派手にやってたし。やられもしたけどね! でもさぁ……茶々がバーサーカーなのも、うーん、まあいいんかなあ。けっこう我儘だし。浅井の血だと思いたいよね。ワシとか信勝とか市と違って……あ、すまん市、うん、聞かなかったことにして! めっちゃ失言っていうかこれじゃん茶々のアレって多分! ちょっとなんかいろいろごめんなさいね! ま、それでも淀殿とか淀君とか呼ばれてたサルの頃なら違うんだろうけど」
そう言ってその方は私をもう一度見る。
「正直、こういう霊基の括りっていうか、クラス? クッソ適当だと思ってはいるけども、じゃあどうすんだって言われたら、ワシも、あ、魔王の方は置いといてだけど、勝蔵も利休も茶々も、越後と甲斐の二人もたぶん、ついでだからダーオカとか坂本とか、沖田とかの人斬りサークルの連中とかも、これ、全員まとめて『復讐者』じゃ駄目なのかって」
そう思わん? と訊かれて答えに窮した。
『サーヴァント、石田三成。クラスは……すまん、私にも分からん。たぶん、たぶんだけれどもエクストラクラスだし復讐者というやつだと思う! クコチヒコのせいか!?』
召喚早々にそういうことになって、マスターやマシュ殿も、技術顧問殿も稀によくあるという最早馬鹿しかいないのか、私自身を含めて! という事態に直面した結果、幻霊とかでもないし、という感じで、そのふんわり具合で迎え入れられたカルデアで、何故かそのような話を信長公にされていた。
そうして私は今、確かに答えに窮している。
私は、私を、私が。
私は確かに誰かに復讐をするためにここにいるのかもしれない。
私を『石田治部少輔』として成立させるのは復讐かもしれない。
私が誰かに復讐したいと思っているのが存在の理由かもしれない。
だが。
「そうよなぁ、誰でも何でもあり得るじゃろ。あんま気にすんなって言うか、多分それじゃろ。おぬし自身が、自分のことが何だか分かんない、じゃなくて、自分自身が何かであるなら、それは復讐者がいいと思った結果みたいに見えるから、誰も何も言わないだけじゃないのかっていう。それはまあ、誰でもそういうところの一つ二つどころか百や二百はあるもんじゃし。それでいいならいいんでない。別に誰も困らんしね」
どこか優しいような、それでいてどこか試すような言葉と目線に虚を衝かれたように、先程答えに窮したのとは違って言葉が出なかった。
『石田さんがそう言うならそうなんじゃないかな』
年若い、あの邪馬台国で出会ったマスターはそう笑った。
『よくあることですし、いえよくあってはならないのですが、私のシールダーも他にお見かけしませんからクラスもあってないようなものですし!』
その青年のファーストサーヴァントだという少女も笑う。
『またそのように面白い、融通無碍とはまさしくこのことかと』
『利休様、面白くは……しかし駒のように無意味に狂戦士よりはるかに整合性があるかと!』
利休と出羽の姫にそう言われた。
そうして何よりも。
『はあ? それで何か変わりましょうか? 復讐? それがどうかしましたか、佐吉は佐吉でしょう?』
茶々様は当たり前のことのようにそう笑ってくださった。
「愚かだ、私は」
呟いた言葉に、信長公は何も言わなかった。
*
誰かに復讐したいと思ったことはある。
家康殿に、清正たちに、そうしてその後、豊臣に従わなかった諸将に。
或いはあの時、豊臣のそこにありながら表に出ては来なかった茶々様にもそう思うのかもしれない。
そして、秀頼様自身にさえ、或いは豊臣の権勢を徒に縮めた秀吉様、殿下その人にさえ。
「狂っている、これでは」
そうだ、豊臣が続きさえすれば私はそれで良かったのか。
このカルデアにいる数多の英雄をそう定義し、その存在を証明し、強化するのがその人物の知名度や逸話だと言うのなら、それが私にとっての存在理由だと言うのか?
「それはあまりにも」
それはあまりにも、あらゆるすべての人に申し訳がなかった。顔向けが出来ないとさえ思った。そうしてある自分を、私は受け容れるのだろうか。
「そうではないのかもしれない」
そうだ、そうではないのかもしれない。私が一番に復讐したいのは誰よりも何よりも『自分自身』なのだから。だから、それだから余計にそれはあまりにも。
「すべて私の自己嫌悪のために、あらゆるすべてを巻き込んで、あらゆる誰かに恨みを述べると私は言うのか?」
私はそれに肯定しない。出来ない。肯定することは、それが私自身の在り方を否定することになったとしても、それは豊臣に関わった、私に関わったすべての人間を否定することになるのだから。
「私は私自身を否定しても、私のその在り方を肯定することは出来ない」
そう思って私は、手元の刀を引き寄せた。
「悪くない。かつては出来なかったことだ」
そう思えば、それは笑いも落ちようというものだ。
*
「……?」
「あのさぁ……ジャパニーズハラキリショーって幕末じゃろ、あれ。戦国も流行ってたっけ? 流行ってはいないよね? やるやつは一定数いたけどもここまで手軽ではないと思うし、なんていうかちゃんと目的意識っていうの? あったよね? あったって言って! 嘘じゃんこれ、おかしいでしょ、ワシのせいなの?」
「そんなこと言ってもノッブは見たことあるんですか? あ、それからこの世で最も美しい切腹は間違いなく山南さんですからね! 譲りませんからねダーオカ!」
「やめようね沖田ちゃん、たぶんだけど武市のこと言いたいんだろうけども、山南先生にも岡田たちにも流石に失礼とかそういうレベル超えてるからやめようね! 倫理的に! 人道的に!」
「私は気にしないけれども……岡田君や坂本君はほら、嫌な思いをするでしょうから」
「いや、そこは気にした方がいいと思うけどなあ……あ、でも武市さんは気にしないと思うよ」
「なんじゃろう、龍馬も十分おかしいしこん中じゃあ斎藤がまともに見える……」
「……?」
そんな会話が聞こえてさらに混乱が深まった。確か私は手近にあったのが見知った正宗だったので適当に腹を切って座にでも還るかと思っただけなのだが。以前は自刃することも叶わなかったのだから、なかなか貴重な体験だった、と自分でもおかしいと分かっていながらそう思って起き上がれば、腹を切る前にはどこかぼんやりしていた思考回路は、かなりはっきりと明瞭になっていた。
「よく考えれば先程使ったのは長堯殿に譲った刀だったような……? なんだ? 婿殿の刀を借りてしまったのか? いや、しかし差し上げた物を取り上げるなど確かにまともではない、腹を切るにしてもこれはおかしいな、確かに」
「アンタもそこじゃねーから!!」
斎藤殿と言ったか? その若い武士に叫ばれたが、私は確かに……。
「しかし血が抜けたからか思考がはっきりした」
そう言って振り返ったそこにはマスターがいた。その青年は、相変わらずしっかりとした顔をしている。その真っ直ぐな在り方は、クコチヒコや或いは刑部殿や左近、利家殿のようなそれを思い出す。
「クラスの詐称をしていたつもりはないのだが、改めて、石田三成、クラスはセイバーだ。大した逸話はないかもしれんが、戦の差配なら任せてもらおう」
そう改めて名乗れば、マスターはしっかりと頷いて笑った。隣にいた茶々様が、こちらを見て微笑んでいたのがどこか懐かしい。そうしてどこか嬉しかった。
*
「でもね、おぬしもカルデアに来て早々こんなことするから、こんなんだから戦国大名も幕末志士もだいたい頭バーサーカーって言われるから、クラスとかどうでもいいとワシは思ったワケ。深い意味は本当になかったんじゃよ……」
「今更ですけどうまくいったからいいじゃないですかノッブ!」
「人はそれをバーサーカーって言うんだよね!」