バンビエッタ・バスターバインは美しい女だ。
首を絞めて息を止めて
「めんどっくさい男ね!」
言われて俺はお前にだけは言われたくないと言い返そうかと思ったが、床に転がっている無残な元滅却師に目を留めて言い返すのを止めた。痛いのは御免だ。
「殺せばいいじゃない、そんなことしてるうちにさ」
「ヒクわあ……」
そもそも俺は戦闘狂じゃないから余計な戦いはしないし疲れることも嫌いだし、根本的な問題としてストレス解消に他人を殺すような真似はしない。それが俺のスタイルだ。
繰り返す。
バンビエッタ・バスターバインは間違いなく美しい女だ。
しかし俺の好みではない。
じゃあなぜ同じベッドにいるのかとか、なぜ殺されずに済んでいるのかとかいろいろ考えることはあるが、正直こいつの性癖にはヒクことしかない。
今日だって呼ばれたから来たがそんなものが転がっている部屋でことに及んで何が楽しいのだろう。こんなことなら来なければ良かったと本気で思ったのに、彼女は笑っていた。相当ストレスフルでなければ誰かを殺して解消しきれない分を俺で発散しようなんて、しかも殺さない方法でなんて普段のバンビは思わないだろう。というかだ、普段のバンビにとって俺は御呼びでない存在であることは疑いようがない。
「まさに都合のいい男」
「……何よ、今更」
俺の空虚な呟きに、バンビは一睨みののちにそう言った。
そうだ、今更だ。今更過ぎて自分の立場に泣けてくる。どうして好みでもない、ヒクような性癖を持った美人を良いように顎で使われるかの如く抱かなければならないのだ。もうこれで何度目だろう。5度目からは数えるのを止めた。だからこれは仕方のないことだ。
「あのさあ」
「なに?」
「俺、ほぼ毎回お前にドン引きしてるんだけど」
「……」
「多分お前のこと嫌いじゃないよ」
だからそう結論付ける以外に方策らしい方策がない。
嫌いじゃない。でも好きでもない。愛してるなんて以ての外だ。
「そういう関係ってことで割り切ってるけどさ」
「なあに、アンタも殺してほしいの?」
「あーお前の部屋で死ぬのは勘弁」
そう言ったらバンビは気だるげに伸びをした。そのせいで掛布団がずれて夜気が冷たい。
「それに痛いの嫌いだしね」
「あら、アンタならゆっくり首を絞めて殺すからそんなに痛くはないわよ?」
「ヒイた。滅茶苦茶ヒイた。息苦しいのも嫌いだよ」
正直にそう言ったら、その女はふふふと笑った。
*
「良かった気がする、何となく」
バンビの死を察知して最初に思ったのがこれだった。
今、霊王宮とかいう仰々しい場所でカフェオレを飲みながら思うことも同じだ。
致命的だ。
致命的に良かった気がする。
「バンビは選ばれるって約束されてなかったし」
陛下の聖別で死ぬくらいならアイツの場合この方がマシだったような気がするんだよね。
「あー、いやあれだね。俺が致命的なんだね」
そうだな。嘘は良くない。
例えばバンビエッタ・バスターバインの力が陛下によって奪われ、俺に与えられたとしたら、多分それは致命的だ。
「どーなんだろ、俺」
未練なんてないし、そもそも未練を持つような関係ではなかったのだけれど、アイツはまあ美人だったし、何度も寝たことがあるのも事実だし、まあその関係が多分俺を致命的な感情にさせていた。
致命的な感情?だけれどそれは些細な感傷でしかない。
「致命的だろ?」
そうは言ってもこれが一番致命的だろ?
致命的だろ?
何より俺はお前を悼む心を持ってはいないのだから。
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多分今年最後の更新です。まさかのナックルヴァールです。
2015/12/28