放課後

「おうちデートっちゅうかね!」
「え、うん。いいけど」

 浮かれ切った自分の息子に、八百造は新聞から目を上げて答えた。明日は蝮ちゃんが来るのかー、とかその程度の感慨しかない。その程度の感慨しかないが、ケーキがない。時刻は18時。早上がりだった八百造は携帯で金造に明日の分のケーキを買ってくるようにメールしようと思った。蝮が来るのに煎餅だけでは悪いと思った。

「ちゅうかまだやってんのか」
「へ?」
「あのお試し期間とかいううすら寒いお前だけが楽しい婚前なんちゃらみたいな」

 ほとんど日本語が煮崩れた父の言葉に、柔造は目を見開いた。

「あれ、言うてへんかったっけ?」
「え、なに?」
「俺ら正式に付き合うことになってん!!」

 え、今さら?とか、え、こいつ頭大丈夫?とか、ずっと付き合ってたようなもんじゃない?とか、え、蟒と俺が結納の話してたの知ってる?とか、ほぼ標準語になってしまうほど呆けながら、八百造はまじまじと柔造を眺めた。だいたいにおいて互いが納得すれば何でもないこの二人の話は、寝耳に水でもなければ、ついでに二人の苦悩など大人たちには丸っと分かっていたら、柔造と蝮だけが知らない諸々の事案を八百造は飲み込んで、そうしてそれから一言答えた。

「ほうか」




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知らぬは当人ばかりなりとかそういう

2017/01/09