自分と辰子は違うと思っていた。
 今までの辰子と違ってアタシは外の世界を愛している。
 人並みに長生きしたかった。
 強くなりたかった。
 アタシが獅郎に着いていったのだって、全部獅郎が好きだったからだ。
 アタシはただ生きたかった。



 ……なんてな。


とわに


 自分と辰子は違うと思っていた。
 今までの辰子と違ってアタシは八郎を愛している。
 永遠の命が欲しかったわけじゃない。
 強さを求めた訳でもない。
 アタシが獅郎に着いていったのだって、全部八郎のためだった。
 アタシは八郎を愛していた。


 だからアタシは、雪男の提案を八郎が呑んだ時にひどく寂しく思った。
 八郎が好きなのはアタシじゃなくて、やっぱり辰子なんだと思ったから。
 そんなのってない。
 アタシは今までの辰子とは違うし、最初の辰子のように力に縋りついたわけでもないのに。
 アタシは、辰子じゃなくてシュラとして、ただ八郎に択ばれたかったのだと、その時ぼんやり思い出した。
 雪男に自由だと言われた時に、アタシが最初に手を伸ばしたのは八郎の牙だった。
 嬉しいのに、恐ろしかった。
 恐ろしくて、恐ろしくて、アタシは思い出した。
 その直前に雪男によって励起されたアタシの感情を完全に思い出した。
 
 アタシが愛していたのは八郎だった。

 八郎との契約が切れた私には何も残っていない。
 ああ、そうだ。

 獅郎が好きだったなんて、獅郎の子供が欲しいなんて、違うんだ。
 獅郎が雪男と燐を育てているのを見て、ああ違うんだと‘思い出した’。

 違うんだ。
 アタシが獅郎の一番になれないんじゃなくて、獅郎はアタシの一番だったことなんて一度もないんだ。

 子供なんて産まない。
 子供ができたら、アタシが死んだら、八郎の興味が「新しい辰子」に向かってしまう。
 狂おしいほど愛している八郎の興味が、関心が、愛する相手が、アタシ以外の「辰子」になるなんて、そんなこと耐えられない。

「八郎が永遠に辰子を求めるなら、なんでアタシも八郎を永遠に求めると思ってくれなったんだ」

 アタシはお前を愛していたのに、
 お前はアタシを愛していなかった。
 お前が愛していたのは辰子で、
 アタシは辰子ではいられなかった。
 アタシが辰子でなくなったら、
 お前はアタシを愛してくれるはずがなかった。

 そこまで思って、アタシは解に辿り着いた。

「にゃーんだ、つまんないなあ」

 アタシは、或いはすべての霧隠辰子は、八郎太郎を愛してしまうのだ。
 アタシは結局、特別な辰子なんかじゃなかった。
 アタシは結局、特別なシュラなんかじゃなかった。


 ただ生きて、ただ彼を愛して、ただ死ぬためだけに、アタシは在ったのに、そのことを見誤ったから、アタシは、辰子は八郎を失うんだと、アタシは彼と水底に沈みながら思惟した。

「違うんだよ、全部」

 ごめんな、違うんだよ獅郎。違うんだよ、燐。違うんだよ…雪男。

 違うんだ。

 アタシにとって‘ただ生きる’ってのは、八郎を愛するということなんだよ。

 アタシは永久に、ただ一匹の蛇に魅入られている。




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2016/11/29

2016/12/1