無様
ゆっくりと手を延べる。久坂は避けなかった。
「きっとお前はどこかに行く」
「そんなはずがないだろう」
書き物をしていた彼の頬を、輪郭を、確かめるように撫でる。
「僕はそれが怖い。おまえは優しいから」
「晋作、どうした」
振り返りもせずに一言返して僕の指を撫でた久坂の横顔を、だらしなく畳に転がりながら見上げて、そうしてぼんやりと呟いた。
「不安なのか」
そうして言われた言葉に、ゆっくりと頷く。
「うん。久坂はきっと、どこかに行く」
ひとりで、ひとりは嫌なのに。
*
「ひとりは嫌なのに」
僕はこの結末を知っていた。
彼の死を、知っていた。
「無様だ」
誰が?何が?
涙はもう枯れ果てて残ってはいなかった。
=========
2023/4/8