無様

 ゆっくりと手を延べる。久坂は避けなかった。

「きっとお前はどこかに行く」
「そんなはずがないだろう」

 書き物をしていた彼の頬を、輪郭を、確かめるように撫でる。

「僕はそれが怖い。おまえは優しいから」
「晋作、どうした」

 振り返りもせずに一言返して僕の指を撫でた久坂の横顔を、だらしなく畳に転がりながら見上げて、そうしてぼんやりと呟いた。

「不安なのか」

 そうして言われた言葉に、ゆっくりと頷く。

「うん。久坂はきっと、どこかに行く」

 ひとりで、ひとりは嫌なのに。





「ひとりは嫌なのに」

 僕はこの結末を知っていた。
 彼の死を、知っていた。

「無様だ」

 誰が?何が?
 涙はもう枯れ果てて残ってはいなかった。


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2023/4/8