無間地獄
「僕を、許さないでください」
何を言っているのだろう、と思いながら晋作にそう言っていた。
「何故です」
透徹し切った彼の紅い瞳が僕を見返す。そうして続けた。
「いえ、何をです」
何を言っているのだろう、と僕は誰に思ったのだろう。
晋作の細く白い指が僕の輪郭をなぞり、そうしてそのままゆっくりと背伸びをするように口付ける。
「先生が、何をしたのです?」
至極当たり前のことのように、彼は言った。
「勝手に死んだと君は言った」
「ええ、言いました」
至極当たり前のことのように、彼は頷いた。
「その君を」
置いていった僕を、と続けようとした唇にまた彼のそれが触れる。まだ背の低い晋作を抱えるようにして、そうしてそのまま互いの口中を貪った。
(許すなと言いながら、君が許すことも、ひとりになることも僕は知っている)
晋作の柔らかな唇の感触と温かな唾液を一頻味わいながら、思う。
それは無間地獄によく似ている、と。
晋作が、彼がそこにいるだけで、それは幸福であり、それと同時に、すべての罪を思い出させる、と。
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2023/4/17